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78 一人より二人

「フリードも感じましたか? この気配」

「ああ。あいつらの気配だな。それにしたって邪悪な気配が増している」


 少し離れた場所だが、三人のはっきりした魔力の気配を感じるアイリスとフリード。

 

(やっぱりフリードも感じていたんだ……あれ?)


 アイリスは手のひらを上に向ける。そして小さく魔法を使うと、掌で風が舞う。


「魔法が……使えます」


 先ほどまでこの地下道では魔法が使えなかったはずだ。

 

「ここには原初の樹があります。純度の高い魔力を持つ原初の樹が魔封石ごときで封じられることなんてありえないわ」

(つまりこの部屋だけは原初の樹に守られている別の空間と同等ってことかな。あれ?)


 アイリスは違和感を感じて目を閉じる。


「なんか……こっちに来ている?」


 邪悪な気配がどんどんこの地下道へ近づいている気がしたのだ。


「恐らくかなり呪いに侵されているのではないかと」


 呪いの末路は廃人や狂人と言っていたカミラの言葉を思い出す。


「今回の呪いは一種の中毒症状とでも申しましょうか」

「中毒症状……」


 カミラは頷く。


「世の中の薬はいいものだけではありません。一度摂取すればもっと欲しくなる薬だってある。中毒症状まで陥ってしまえば廃人になりながら強い呪い……源の力が欲しくなる」


 カミラが原初の樹を見る。呪いの核は別にあるといえど、強い呪いの魔力を放っているのは高純度の魔力を持つ原初の樹だ。


「じゃあみんなこの樹を狙って……」

「はい。そしてこの原初の樹の成分を体内に多く摂取すれば……皆さんのご想像の通りです」


 つまりは廃人になってしまうということだ。

 近づいている魔力の気配にユーリたちも入っていることからもう他人ごとではない。


「ちょっと待て。俺たち原初の樹のそばにいるけど、やばいんじゃないか……?」


 サイラスが顔を青くする。カミラはクスクスと笑う。


「そうですね。しかしアイリスさんとフリードさん……でしたっけ? お二人は呪いに対する耐性を持ち、サイラスさんとソフィアさんは人狼の血が自身を守っているのですよ。現に異常を感じていないでしょう?」


 サイラスは「確かに」と納得した。


「すべきことは分かりましたけど、呪いの感知も破壊もできるかどうか……」


 アイリスは不安そうに自身の手を見つめる。

 

「アイリスさん。これはあなたにしかお願いできないことなのです」

「……………………」


 アイリスには自信がなかった。呪いに関する感知や破壊も無属性や風属性の魔力しか持っていないことから、できないものだと思っていたからだ。

 しかし状況は急を要する。上手に対処できない可能性だってある。もし失敗したら新しい策を考えなければいけない。しかしそんな時間はないだろう。


(もし私が失敗したら……でも……)

「アイリス。無理しなくていい」


 アイリスが黙りこくってしまった為かフリードが心配そうに見つめてくる。


「いえ、やります。…………挑戦しないで後悔なんてしたくない」

「アイリス…………」

「フリードはどうしますか?」

「俺はもちろん」

「あの」


 フリードの返答が容易に想像できた。だからこそアイリスがフリードの言葉を遮ってでも止める。


「私はあなたの本当にやりたいことを…… やるべきことを聞いているのです」

「……………………」

「私を守ってくれるだけで一緒に来なくてもいいんです。貴方が自分で考えてやりたいことを、やるべきことをやればいい」


 フリードは呪い騒動の早期解決を望んでいる。しかしこれから呪いの核へ近づく。いくら闇の魔力を持ち、呪いの耐性があるといえど、無事な保証はない。それでいて今までのフリードだったら危険なことが起きれば必ずアイリスを守ってくれていた。これから危険な場所に行くのだ。自分が彼の荷物になってはいられない。

 一方、フリードは目を大きく開いた後、目を閉じて静かに笑みをこぼす。


「アイリス」


 フリードの指がアイリスの眉間に添えられ、軽く押される。


「!?」

「眉間に皺寄りすぎ」

「!」


 反射的に手を自分の眉間に寄せるアイリス。これから自分のすべきことに緊張していたのか眉間に力が入っていたようだ。


「一緒に行くよ。これが効率的だと思ったから」


 それは今までやってきたアイリスの行動がフリードにとって効率的だと認められたということだ。フリードは指の側面をアイリスの頬へ寄せ、ゆっくりと撫でる。


「……っ!」

「この先だって俺に証明するんだろう? 君の選ぶ最善を」

「フリード……」

「危険だからって君の傍を離れたくない。これからも一番近く、特等席で見せてくれるだろう?」


 アイリスを試すような眼差しでアイリスを見つめるフリード。


「それに俺は興味がある。力でしかない魔法を君がどう使っていくのかを」


 思い出すのはクレアの町でモニカに言った言葉。力はただの力ではなく、どう使うのか。

 フリードはアイリスを通してその答えを見ようとしているようだ。


「何より、一人より二人……だろう?」

「……!」


 思い出したのはサイラスの結解を破った時のこと。あれはアイリスがいたから『解除』という選択肢が生まれた。アイリスがいなければ力づくでの『破壊』をするしか手段がなかっただろう。つまり、協力してくれる仲間がいれば、選べる選択肢が増えるということだ。


「俺もいるんだ。アイリスは安心して自分のできることをすればいい」


 自分がきちんとできなかったら色々な人の命にかかわる。その責任の重さにアイリスは緊張していたが、フリードの言葉と優しい目にアイリスの緊張はふわっとあたたかく解けていったのだった。ひとりではないと分かったから。

 

「……そうですね。……分かりました。よろしくお願いします」

「うん」

「それに安心してください。私だってフリードを守ります。呪いの影響を受けても私がいるので安心してくださいね」

「アイリスが俺を守ってくれるのか!」

「勿論です! ちゃんと腕がさよならする程度の怪我に抑えてきちんと解呪しますから」

「ああ……そっちに思考がいくのか……」


 フリードは困ったように笑う。しかしアイリスは本気だ。仮に理性を失って暴れたフリードを止めるのは至難の業だろう。解呪するにしても動きを止めなければ話にならない。

 

「ではソフィアさん、サイラスさん。これからの……………………何をしているのかお聞きしてもよろしいでしょうか……」


 アイリスはソフィアたちを見て固まる。

 サイラスは自分の娘を抱き込みながら娘の耳をふさいでいる。まるで何も見せないように、聞かせないようにしているかのようだ。

 そして時折ソフィアのくぐもった苦しそうな声が漏れ聞こえる。


「え? あ、いや終わったのか」


 サイラスはアイリスたちを見てソフィアを解放する。


「父さん何するの!」

「お前にはまだ早い!」

「は?」


 ソフィアは奇天烈な行動にでた己が父を見て冷めた視線を送ったのだった。

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