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7 会話が遮られる日もあるのです

「大丈夫ですか…………! 」


 アイリスが見たものはカバンに大量の薪を詰めて肩に持ち、さらには台車にまで大量に薪を乗せて歩くモニカの姿だった。


「ギックリ…………ギックリ…………! 」


 重い荷物に重い台車を引き、このままではギックリ腰になってしまうとあわあわしながらも手伝おうとまずは大きな鞄に手をのばす。


「おや、大丈夫だよ。これくらい」

「いえいえ! ぜひお手伝いをさせてください……!」


 強奪するようにカバンを奪う。それは予想通りすごい重量だった。


(この重量を一人で……すごいけど……)


 もう少し持てると思ったアイリスはさらに台車の重量を減らそうと薪に手を伸ばす。しかし台車に手が触れる前に腕にかかった重量が消えた。


「フリード!」


 見上げるとフリードが涼しい顔で薪が入った大きなカバンを片手で持ち、さらには今まで持っていた軽い野菜の入った袋を片手に持っている。


「すごい……じゃなくて! 流石に持ちすぎです! どっちか貸してください!」


 フリードの持っている野菜の入ったカバンと薪の入ったカバンの両方に手をかける。


「じゃあそれ」


 フリードは顔を台車の方に向ける。すぐに言おうとしていることが理解できたアイリスはモニカの引く台車を素早い動きで奪い取るのだった。


「おや、悪いねえ」

「いえ。これくらい全く問題ありません」

 

 アイリスは台車を引く。それでも台車を使っている分、まだゆとりがあった。


「フリード、私まだ全然余裕があるので」

「それよりも」

「?」


 フリードはアイリスの話を遮ってモニカを見る。


「こちらのご婦人がこのご依頼人?」


 視線を野菜に戻しながら言う様子にそういえば初対面ということに気がつく。


「はい。この人がモニカさん。覚えていると思いますけど、昨日のひったくりの被害者でもあり、今このクレアでお世話になっている方です」

(話題逸らされた……?)


 話を切られたアイリスは眉を寄せながらも丁寧に説明する。

 フリードは「へえ」と言うだけだった。一方モニカはそんなあまり興味のなさそうなフリードを見る。


「昨日はありがとうね。私はモニカ。この時期はどうしても治安が悪くなっていて気をつけてはいたんだけれど……面倒をかけたね」


 収穫祭のランタン飛ばしにたくさんの人が訪れる。その為治安も悪くなるのだ。


「いえ、当然のことをしただけですよ」

(あれ? なんか…………)


 爽やかな笑顔で言うフリードにアイリスはなぜか違和感を感じる。そしてふと当てはまる言葉を見つけた。


 (これは…………営業スマイルだ……)


 営業スマイル。昔カールに教えてもらったことがあった。作った笑顔で物事を乗り切る人付き合いテクニックだ。

 しかし自分から話題を振っておきながら作ったような挨拶をするフリードの態度に疑問を覚えながらもアイリスは静かに台車を引いた。そんなアイリスをモニカが見た。


「随分ニ人は仲がいいみたいだけど、もしかして恋仲なのかい?」

「!?」


 いきなりの発言に驚いて台車を引いている力が一瞬抜けて手が離れそうになるが、慌てて力を入れ直す。


「いえ、この人は…………」


 ただのつきまとい。と言いそうになりつつも横からの視線を感じ、言葉がつまる。


「知り合い…………じゃなくて……ご想像にお任せします…………」


 隣から見下ろされる視線に我慢できなくなったアイリスはとりあえず適当に返事をすることに決めた。この返答なら嘘ではないだろう。


「ああ、今両手が塞がっていなかったら俺たちの関係を証明できたのに」

「ちょっと何言っているのかわかりません」


 両手が塞がっていなかったら何をするのか想像はできなかったが、とりあえずとてもくだらないことだろうとアイリスは理解した。


「さて、ここに置いておくれ」


 モニカの言われた場所に薪を置く。


「さて、その野菜はとりあえず家の中に持ってきてくれるかい?」


 家の中に入り、机の上に野菜の籠や袋を置くフリード。モニカはお茶を淹れると言ってキッチンに入って行った。


「フリード、あんなにいっぱい持って大丈夫ですか? 腕もげていないですか?」

「ははっ、大丈夫だよ」

「それならいいですけど……あの、フリード。この際だから言いますけど、あんなに荷物を持たなくていいんですよ。だって私」

「アイリス! お菓子はどれがいいかい?」

「…………」


 モニカの声で会話が中断する。今日はやけにそんな日だなと思いながらモニカのもとへ行こうとする。


「アイリス、ちょっと忘れ物したみたいだから取りに行ってきていいか?」


 唐突なその言葉に目をパチパチさせるアイリス。


「私に聞かなくても大丈夫ですよ。早く取りに行ってください。………………私も一緒に行った方がいいですか?」


 モニカのお手伝いを手伝ってもらった手前、なんとなく聞いてみる。


「いや、君がわざわざ来る必要はないよ」

「そうですか……気をつけてくださいね」


 フリードがドアから出て行ったことを確認してからモニカの元へ走るのだった。



***


「さて、そろそろいいか。……おい、そこにいるんだろう」


 一人家から出たフリードは少し歩いてから、この家の扉から死角になっている場所に向かって声をかける。


「なんなんだ! お前は!」

「一体彼女ととどういう関係なんだ!」


 出てきたのは二人組の男。


「ずっと見ていたなら分かるだろう? 本物のつきまといさん」


 ニヤリと口の端を上げながら挑発するフリード。その声はとても冷酷で、二人組の男たちは怯えながら目の前の一人の男を見るのだった。


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