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65 小さな協力者

 優しい声音で話す主人の後ろからひょっこり現れるのは見慣れた小さな女の子。


「ソフィアさん!」

「お姉ちゃん……!」


 パタパタと可愛らしい音を立ててアイリスに駆け寄る。


「お姉ちゃん……倒れたって、聞いて……」

「大丈夫ですよ! この通り起き上がれますし!」

「本当に…………?」

「はい!」


 アイリスが元気よく頷くとようやくソフィアが安心したような顔をした。


「お姉ちゃん……何しているの?」


 ソフィアはアイリスの目の前にある本を見つめる。


「勉強を……もうすぐ試験が近いので……」

「大変だね……」


 苦笑いをしているとドアからノック音が聞こえる。返事をすると屋敷の使用人が入ってきてテキパキとお茶とお菓子の準備をするのだった。


「あ、ありがとうございます」


 このように何かをやってもらう経験があまりなく、少しくすぐったさを感じてしまう。初日に使用人の手伝いをしようと思ったらやめてくださいと嘆かれたのだ。


「そうです。ソフィアさんは霧大丈夫でしたか?」

「うん。あの後すぐに帰ったから。………………ねえ、お姉ちゃん」

「?」


 ソフィアは口を開けたり閉じたりひどく言いづらそうにしている。しかし決心したのか顔をこわばらせながらアイリスを見た。


「お姉ちゃんはこのアルマの事件の原因……裏山の…………人狼のせいだと思う?」

「……………………」


 アイリスは唐突な質問に動じない。なぜならこの質問が来ることは分かっていたからだ。


「それを調べるために私たちはここに来たのです」


 ソフィアの目を見てはっきり答えるアイリス。


「あの人はそんなことしない! 絶対に!」


 嘆くソフィア。しかしその言葉は人狼がどういった存在だか知っている様子にも見える。


「だって……絶対に……あの人はそんなことしない……だって……だって……」

「あなたのお父様」

「!」


 ソフィアは驚愕した様子でアイリスを見る。その顔色はひどく青い。


「な……んで……どうして……」

「私に教えてくれた人がいたんです。貴女も……人狼だって」

「!!」


 アイリスは思い出す。実は今日フリードが出かける前に話してくれたことを。



 

***

 

「あの子どもには気を付けた方がいい」

「え? 子ども……ソフィアさんのことですか?」

「ああ。あの子はおそらく人狼だ」

「え……人狼って……(くだん)の人狼と何か関係している可能性があるということですか?」

「それは分からない。ただ、普通の人間ではないことは分かる」


 フリード曰く人狼という生き物の特徴は、身体能力が人間と異なり高いことの他に嗅覚が優れているらしい。また、気配が人間とは若干異なっているらしいが、かなり微細なもので、知識や気配を鋭く感知する人間以外違いは分からないらしい。


「何より先日、君の説明で目的地を特定させて君を送り届けるのは至難の業だっただろうからな」

「うぐっ……」


 これはソフィアが花畑へ連れて行ってくれた日、アイリスは一人で屋敷に帰ることができなかったときの話だ。そもそも説明ができれば誰かに聞くことができ迷子にはならない。屋敷がどこなのか分からずお世話になっている屋敷の主人の名前すらど忘れしてしまったのだ。知らない土地ということでもあるが、何もわからない状態で目的地まで辿り着けるわけはない。


「おそらく建物は諦めて君に付着している俺達の匂いを追ったんだろうな」

「におい……」


 どうやら誰かと長時間一緒にいると他人の匂いが自分へ移るらしい。しかし人間はそのことに気がつかない。ソフィアは最初から目的地を諦めて、アイリスに付着していた知人であろうフリードの匂いを追ってアイリスを送り届けたようだ。

 アイリスはクンクンと自分の服の袖のにおいを嗅ぐが、あまりよく分からない。そんなアイリスの様子を見てフリードはクスっと笑う。


「別に臭うとかいう話じゃないさ。ただ人狼はそれすらも嗅ぎ分ける特性を持っている」

「なるほど……」

「とはいえあの子どもは人狼だ。俺はこのアルマで人狼はあの子ども以外目にしていないし、だからこそサイラスとかいう人狼と無関係の可能性は低い。警戒はした方がいい」


***


(いくら警戒しろと言われても……)


 アイリスにとっては今、目の前には泣きそうな普通の子どもがいるだけにしか見えていなかった。


「私はもともと人狼さん……サイラスさんが今回の首謀者だとは思っていないのですよ」

「え?」

「だって私見てないですし。……人を攫ったところも、霧を作り出しているところも。だから今、私は真実を調べているんです」

「お姉ちゃん……」


 ソフィアは少し考えるように黙った後、何かを決意したようにアイリスの片手を小さな手で包み込む。


「だったら……私も……私が手伝いたい! それであの人の無実を証明したい」


 小さな子どもらしくない決意のこもった眼差し。アイリスの目にはソフィアが子どもではなく、立派な一人の人間にしか見えないのだった。アイリスは頷く。


「お姉ちゃんとは友達で、協力関係!」

「はい!」


 二人は握手をするのだった。


 ここまで読んでいただきありがとうございます!

 本日午後にもう一話更新いたしますので、ぜひ続きもお読みいただければ幸いです!

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