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60 ランク詐称? いいえこれが現実です

「あ、あれって!」


 狼狽えながら迫ってくる深い霧を指差すオーウェン。しかしそうこうしている間にも霧は風に乗ってアイリスたちのもとへ差し掛かろうとしている。


「ユーリ」

「はい」


 フリードが短く呼ぶとユーリは手を前に掲げる。


「これって……結界魔法?」


 あっという間に魔法がアイリスたちの周りを囲い、結界のように外部から遮断する。しかしすぐに霧があたりを覆い、結界の外は何も見えなくなる。しかしユーリの結界のおかげで結界内に霧は入ってきていない。


(見ただけでわかる。すごい精度の結界魔法だ……)


 とりあえず一安心な雰囲気に包まれたが、オーウェンがまたも悲鳴をあげる。


「ユーリさんの結界が!」

「!」


 霧が外側から少しずつ結界を溶かしているようにも削っているようにも見える。


「これは……侵食のようですね」


 ユーリは眉間にしわを寄せて結界の端を見る。


「フリード」


 アイリスを抱き寄せているフリードに目を向けると、何がしたいのか分かったように腕の力が緩くなった。それでも離さないのは何かあった時にすぐ守れるようにだろう。


 アイリスは手を結界魔法に向ける。


「魔法強化」


 ユーリの作った結界が一層煌びやかに輝き、結界を侵食していた霧の勢いが緩くなる。


「ありがとうございます」

「いえ」


 アイリスの魔法によってユーリの作った結界魔法が強化される。


(それでもこれは時間稼ぎでしかない……)


 いつになったら霧が晴れるのかわからないのだ。時間が経過するにつれ、いくら強化したとはいっても結界魔法が維持できるかは運でしかない。


(何か方法を考えないと……でも一体どうすれば……)


「そうだ、アイリス! お前の風の魔法で霧を晴らすっていうのはどうだ?」

「私も考えましたけど、逆に霧の効果をまき散らす可能性もあると思います」


 アルマの町は大きい。また、霧が発生している範囲が現在分からない。その為闇雲に風魔法で吹き飛ばそうとすれば、被害が出ていない場所へ霧を運んでしまう可能性もでてしまう。


「そうか……」


 オーウェンはしゅんと項垂れてしまう。一方アイリスは視線を感じて振り向けば、静かにルイがアイリスを見つめいていた。


「君、意外と物事を考えられる人間なんだね。よかった、ちゃんと脳が働く人間で」

「なんか褒められている気がしないです」


 明らかに嫌味が込められているが、今はそれどころではない。


「なあ、アイリス! 俺の火魔法でこの町全部更地にして見通しをよくしてからゆっくり呪いの根源を辿るってのはどうだ! 勿論人狼がいる裏山まで魔法でこんがり焼いてやる!」

「駄目です!」

「面倒くさい。俺の雷撃で全員動けなくさせて、さっさと人狼を捕まえればよくない?」

「ルイ君!?」

「いいですね。捕まえた人狼は私が責任をもって蔦で拘束します」

「ユーリさんまでどうしたんですか!」


(皆物騒……私が何か考えないと……でも周りは霧で何も見えないし……あれ? そもそもなんで『呪い』が『霧』なんだろう……)


 アイリスは周りを見渡す。そして深く深呼吸をした。


「ユーリさん! 私に考えがあります。合図をしたら結界を解いてもらえますか?」

「そんなことをしたらあの霧にあてられることになりますよ」

「大丈夫です。その為に私の魔法とオーウェンさんに手伝ってもらいます!」


 オーウェンはいきなり名指しされて目をパチパチさせる。


「お、おう! なんだかわからないけど協力するぜ!」

(上手くいくかはわからない。でもやるしかない!)

「なるほどな」


 アイリスの考えを読んだのかフリードが頷く。


「大丈夫。アイリスならできるさ」

「……はい。ユーリさん!」

「……わかりました。それでは合図お願いします」


 アイリスはもう一度深く深呼吸をする。


「オーウェンさん、いけますか?」

「おう! いつでもいいぜ!」


 アイリスは頷く。そして思いっきり空気を吸い込んだ。


「いち、に、さん!」


 アイリスの声でユーリは結界魔法を解除する。そしてアイリスは魔力を放つ。

 アイリスたちを中心に町中の風が下から上へ霧ごと巻き上がる。そして巻き上がった風魔法は上空で外側からアイリスのいる内側へ渦を巻くように回転し、霧が集まっていく。


「オーウェンさん、上空に集めた霧を私の魔法ごとあたためてください!」

「おう!」


 オーウェンは上空へ収束している霧に向かって火魔法を放ち、アイリスの魔法ごと包みあたためる。


(集めた霧に火を直接入れて焼却することも考えたけど、とりあえずこれで様子を見ながら消すことができたら……)


 アイリスは集中して魔法を発動する。


「風魔法の中にある霧が……消えていく」


 オーウェンはアイリスの風魔法の中にある深い霧が自分の魔法で蒸発して消えていくことに驚く。


(このまま全部蒸発させてしまえば……あれ? 何か……爆ぜてる? それにこの色って……)


 アイリスは消えていく霧に安心するが、霧が蒸気になる際、僅かに禍々しい魔力が爆ぜている様子に不信感を覚える。


「アイリス! いつまでこのままだ?」

「もう少しです!」


 オーウェンの魔法で風魔法が急激にあたためられ、一層霧の蒸発する音が大きくなる。


(集中して……大丈夫……)


「くっ……やっぱり俺、こういうの苦手だ……コントロール……できない……」


 オーウェンは顔を歪める。オーウェンは一定の加減をしながら継続的に収束している風や霧をあたためている。継続的に魔法を長時間使うことは相当な能力や精神力が必要だ。しかしコントロールが苦手なオーウェンは徐々に魔法が乱れていき、コントロールから外れた火魔法の小さな火の粉が少し降り注ぐ。


(確かに多少ぐらついているけど、この程度なら全然大丈夫。でも……)


 ふと感じた魔力に頭上を見つめると上空からアイリスの頭上へ降ってきた僅かな火の粉をフリードが防御魔法で防いでいたのだった。


「ありがとうございます」

「君に火傷なんてさせられないからな」

「……………………」


 いつもの軽い様子で言ったのかと思いきやフリードは無表情で上空を見ている。

 一方、オーウェンは額に汗をかきながらもどこか苦しそうだ。


(それなら……)


 アイリスはさらに風魔法でオーウェンの火を風で包み、サポートをする。


「悪い! アイリス!」

「いいえ」


 それでも時間が経つにつれ、オーウェンの魔法が不安定になる。しかし残りの霧はわずかだ。アイリスはゆっくりフリードたちから離れ、もう片方の手を天へ掲げる。


「集え流動たる帆船、荒狂う魔を包む追い風となれ」


 アイリスの言葉でオーウェンの炎を覆っていた風魔法が強化される。


(これで大丈夫なはず)


 アイリスは集中して上空へ手を掲げ続けたのだった。



 一方ユーリはアイリスが完全にオーウェンの魔法を制御し、合わせていたことを驚いていた。


「あのオーウェンの魔法にあわせるなんて……」

「それにユーリさん。よく見てください。どう考えてもCランクの魔法じゃないでしょ」


 ルイは困惑する。魔法効果範囲を考えるだけでもCランクの魔法ではない。詳しく分析しなければわからない部分もあるが、Aランクはあるとルイは予想する。


「そうですね。それに今の詠唱……もしかして古流魔法師……」

「俺には詠唱なんて聞こえなかったですけど……古流魔法師って……」


 地上から上空へ風が吹き荒れている中、音を拾うことは難しい。しかしユーリは確かに聞こえたのだった。


「ええ。古流魔法師とは詠唱により魔法を発動する魔法師です。現代魔法に比べて高威力の魔法を使えますが、そもそも古流魔法師は途絶えたとされています」

「待ってください。あの子は普段詠唱なんてしていないですし、この魔法も発動時に詠唱なんてしていなかったですよ」

「ええ。……追加詠唱なんて聞いたことがありません。しかし仮にそれができてしまうとなれば……」


 ユーリは難しい顔でアイリスを見るのだった。



 

 蒸発する音が止んだ頃、ようやくアイリスの風魔法とオーウェンの火魔法を解除するのだった。


 解除する頃には霧はすっかり晴れ、周りの見通しもよくなった。


「ふう」


 アイリスは大きく息を吐き、ぺたりと座り込んでしまう。


「やっぱりアンタ、絶対Cランクじゃないでしょ」

「そう信じたいですけれど、現実はCランクみたいですよ……」


 呆れたように声をかけるのはルイ。それもそのはず。結果的には町中の風を操ったのだ。その質量はとんでもない。世間が認知しているCランクの魔法レベルとは逸脱していた。


「それだけじゃない。これだけの風を操って周りの建物に損傷一つない。相当なコントロール力だな」

「あはは」


 ぺたりと座り込んでしまったアイリスに手を差し伸べるフリード。その手を掴み立ち上がる。


「それにしてもあの状況でよく全部蒸発させることを思い浮かべましたね」


 ユーリは感心してアイリスを見る。

 先ほどの霧は所詮霧だ。そもそも霧は比較的気温が低い場所で発生する。早朝の濃霧が良い例だ。そして霧とは昇ってくる太陽によって気温が上がることによって晴れていくのが普通の霧だ。ただ、先ほどまでは別段寒いというわけではなかった。つまり自然ではない魔力が付加された霧と予想がつくが、土台は霧だ。試す価値はあるとアイリスは考えたのだった。


「吹き飛ばしたらまき散らす。だから貴女の魔法で霧を集め、オーウェンの魔法で一斉蒸発。単純なようで被害が最小限に済むということですね」

「まあでも、そもそもこの子が迷子にさえならなければこんな目にあわなかったと思うんですけどね」

「う」


 確かにみんなアイリスを探して外に出た。そしてこの霧に遭遇したのだ。


「たしかにそうだが……『霧』は見れたな」


 フリードの言葉に全員が頷く。そもそも『霧』を見ることはアイリスたちのやるべきことだった。

 そして周りを見渡すと、霧に驚いた人や怯えた人がいても特段何か被害が起こったという様子はない。もちろんヴィットーリオが言っていた『狂人』も現れていない。


(オーウェンさんの魔法で霧をあたためている時、やっぱり何か爆ぜてた。それにあの色は……)


 アイリスが熟考している時、悲鳴がアイリスの耳に入る。


「ミア! ミア!」


 誰か女性の名前を呼ぶ声。


「どうやら問題発生のようですね」


 思い返せばこの霧には二つの被害側面がある。一つ目は理性を失った『狂人』となる人が現れること。そしてもう一つは失踪だ。


 アイリスは人を探している女性の声の方向へ走り出そうとする。


(あ……………………あれ………………?)


 急に視界がぐにゃぐにゃと歪む。


(なんだろう……………………立っていられない…………)


 アイリスの意識は闇の中へ沈み込んだのだった。

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