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5 山育ちなもので

「あははははははははは!」


 モニカが大笑いする。


「ううううう」


 対するアイリスは顔を真っ赤にして下を向いた。


「あんたルーナ村って王都へ歩いて三十分程度で着く距離だよ。なのにこんな辺境の地まで……くくく……」


 モニカの笑いは止まる気配がない。さすがに霊山のことは言えないので霊山の近くにあるルーナ村付近にいたと説明した。しかしどうやら王都へは全く別の方角に来ており、知らない間に盛大な迷子になっていたようだ。


「あー、笑ったわ。おかしい」


 ようやく少し落ち着いた様子のモニカ。まだお腹を抱えているが。


「魔法でわからないのかい? まあ、分かればこんなことになってないか」

「……………………」

「悪かったね。それにしても魔法も万能じゃないってわけだね」


 最後のほうの言葉は声が小さく、アイリスには届かない。


「え?」

「いいや、なんでもないさ。さあ、風呂を沸かすから待ってな」

「いえ、そこまでお世話になるわけには……」


 ご飯をご馳走になった時点で助けた恩は十分返してもらっている。だからこそこれ以上お世話になるのはとても申し訳なかったのだ。


「つべこべ言わない! さ、着替えの服はこれだよ!」

「え……えっ……」


 遠慮する間もない流れるような強制力。あっという間に浴室へ押し込まれるのだった。それからアイリスの災難が始まったのだった。


「わっ……わあああああああ!」


 アイリスは大きな悲鳴を上げる。それに驚いたモニカが浴室に向かう。


「どうしたんだい! アイリス、入るよ!」


 湯気が湧いている浴室を開けたモニカは服を着たまま湯船から離れた場所にアイリスがいることを確認する。

 アイリスはモニカに気が付くと「来ちゃだめです!!」と叫んだ。


「視界を覆うこの大量の蒸気初めて見ました! 無臭……まさか……これは毒ですか! この家に侵入者がいます! とりあえず吸い込んじゃだめです!」

「毒?」


 目をパチパチと瞬かせるモニカ。一方アイリスはこの大量の蒸気が毒なのではないかと疑っている。


「解毒方法を……でも身体に異常はないし…………これは……」


 戸惑っているアイリスにモニカはもしやと思う。


「あんた、もしかして『湯』を知らないのかい?」

「へ?」




「すみませんでした!」


 上半身を最大限折って頭を下げるアイリス。


「いや、いいけどあんた一体どんな生活をしていたんだい?」


 あれから『お湯』と『湯気』の説明を受け、身を清めて今に至る。


「ずっと山で生活していたので……」

「山!?」

「はい……ルーナ村の近くの山で」

「あんた、身を清めるときは?」

「川とか湖とか……」


 アイリスの言葉を聞き、開いた口がふさがらないモニカ。そして「今時こんな子もいるんだねえ」と言った。

 また、モニカは同時に先ほどの泊まる場所の話の食い違いの原因も理解するのだった。

 

 アイリスは水を沸騰させたことはあったが、ここまでの蒸気は出なかったのだ。そもそもあまり火を使う生活をしていなかったこともある。


「さて、明日も早い。部屋を準備しているからもう眠りな」

「はい、ありがとうございます」


 もう拒否することはできないと悟ったアイリスは大人しくこの家に泊ることを決めた。それから案内された部屋に置かれていた初めて見る大きな一人用ベッドに驚くことになるのだった。






 

「なんていう寝方しているんだい。寝方は昨日の夜教えたっていうのに」


 翌日、モニカはアイリスを起こそうと部屋に入って驚いた。アイリスは床に座り、寝台の上にちょこんと腕をのせ、その上に頭を預けて眠っていた。

 昨日ドアの前で固まっていたアイリスに寝台で寝ることを教えたのだが、結局変な寝方をしていたのだった。身体が痛いのではないかとモニカは心配したが、アイリスの気持ちよさそうな寝顔にモニカは安堵する。

 それでもやはり朝起きる時間。心を鬼にするのだった。


「ほら、朝だよ!」


 カーテンをばさりと大きな音を出しながら開け、朝の日差しがアイリスの目元を覆う。

 そしてモニカに叩き起こされたアイリスは動かない足を懸命に動かし、顔を洗いに行くのだった。


「さて、今日は私も忙しいんだよ! 何せ収穫祭! 私も準備しないと。炊き出しの料理を作らないといけないしね」


 腕まくりをするモニカ。気合は十分のようだ。


「あの、他所者ですけど私にも何か手伝わせてください! 一宿一飯のお礼も兼ねて!」

「ふふっ、言うと思ったよ! そういうと思ってこれを頼もうと思ったんだよ!」


 バンっと勢いよく出したのはメモ用紙。中身はたくさんの野菜の名前と分量が書いてあった。そして目的地までが書いてある地図。


「炊き出しに使う野菜を取りに行ってくれるかい? 私はあるもので料理を始めるから」


 モニカはエプロンを付け、台所に向かった。そしてアイリスは軽く身なりを整えた後、メモ用紙をとった。


「では行ってきます!」


 最後に受け取る際使う籠を持ち、アイリスは外へ飛び出す。


「おはよう」


 軽く手を振る青年に絶望する。

 爽やかな朝はどこへやら。出鼻をくじかれるアイリスだった。


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