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54 呪いの霧

 ヴィットーリオに案内された場所は貴族の屋敷だった。到着してすぐ家主のご夫婦に挨拶をしたところご夫婦はとても穏やかな方で、アイリスたちをあたたかく迎えたのだった。そしてもう夕方になっていることやアイリスの体調もあり、詳しい話は明日行うことになった。


 翌日、特に体調が悪いわけでもなかったことから、ヴィットーリオに会いに行くため屋敷を出た。


「そちらのお嬢さん、お加減はよろしいのでしょうか」

「はい。驚かせてしまい大変申し訳ございません」


 大きなお屋敷で待っていたヴィットーリオは倒れたアイリスを心配していたようだ。しかしアイリスの様子を見て安心したのか朗らかな笑みを浮かべるのだった。


 部屋に案内され、着席する。運ばれてきたお茶から湯気がたちのぼる中、ヴィットーリオは真剣な様子で口を開いた。


「あなたたちにはサイラスという男を遠くへ追い出していただきたいのです。穏便に事が進まなければ傷つけてでも……」

「!!」


 最後の方の言葉は穏やかな言葉ではない。アイリスやルイは驚いて息を呑む。

 そもそもいきなり名前がでてきたサイラスとは何者なのか。そもそも本題の『呪い』の話もでてきていない。


「すみませんがまず、皆様が危惧している『呪い』についてお教えいただいてもよろしいでしょうか」


 ユーリが冷静に聞く。驚いている場合ではないとアイリスは冷静に状況を分析しようと耳を傾けた。


「呪い……この町には呪いが……突如原因不明の霧が現れるのです」

「霧……ですか」

「この霧に触れた者の中の一部の人間が『狂人』となるのです」


 ヴィットーリオは重々しく説明を続ける。


「まるで人格が変わったように凶暴になって、誰彼構わず襲います。それが例え……家族や恋人であったとしても。怪我だけならまだ序の口。最終的には相手の命すら手にかける場合もあります。そして一定期間狂人となった者は最後は力尽きるように倒れます」

「そんな……」


 どうやら思ったより残酷で緊迫した状況のようだ。


「そしてもう一つ特徴があります。最近はその霧を浴びた一部の女性や子どもの行方が分からなくなるのです。まるで……霧に連れ去られたように」

「その霧とサイラス様に、何が関係しているのですか?」


 霧という自然なものとサイラスという人の関係性がいまいち関連づかない。


「彼は……人狼なのです」

「!!」


 人狼。それは人であって人でない者。人と狼が混ざった者のことだ。


(人狼って本当にいるんだ……でもこの件と人狼が何の関係を持っているのだろう?)


「私は……いえ、ここの住人たちも見たのです。普段は東の丘にいる人狼が霧に乗じてこの町にやってきたところを。そしてその霧が晴れた後数人の民の行方が分からなくなったのです」

「え…………」

「霧すらも人狼が作っていると私たちは考えております」


 ヴィットーリオの話によるとどうやら霧に乗じてサイラスという人狼が人さらいをしているらしい。

 

「つまりそのサイラスってやつをとっちめればいいんだな!」


 話をまとめるようにオーウェンが言う。深刻な空気が一気に明るくなる。ユーリはオーウェンを見てため息をつく。


「オーウェン……そんな簡単な事ではないでしょう」

「でも現状どう考えてもその人狼が怪しいんじゃないですか?」


 ルイの言葉にユーリは「まあ……確かにそうですね」と頷く。

 アイリスはそんなに簡単な話なのかと考え込む。


「とりあえずそのサイラスさんにお話を聞いてみた方がいいのではないですか? 『呪い』の根源である霧の正体も分からないままですし……」

「いや、さっさと追い払えば万事解決でしょ。どう聞いても霧に乗じて人狼が人間に害をなしているようにしか見えないし、そもそも人狼を追い払うことが今回の仕事でしょ」


 アイリスの言葉にルイは反論する。しかし今回の仕事の依頼は人狼の排除。それにより自然と呪いが解呪されると考えている為、ルイの言葉は正論でもあった。


(でも……本当に? それに何か……おかしい……)


 アイリスは胸にひっかかりを覚える。


(皆いつもより……好戦的?)


 解決に向けて最短の道を選ぶことは正しいことだ。それでもこのメンバーにしては強引な手法のような気がしていた。


「何をするにしろその『呪い』を見てみないと始まらないだろう。そして現行犯で捕まえた方が確実だ」


 今まで静かに聞いていたフリードに全員が頷く。


「それでしたら本日、または明日には見られるかと思います。最近は二~三日の間で周期的に発生していますから。もしよろしければそれまでこのアルマの町をご案内いたします」


 ヴィットーリオは窓から栄えている町を見つめるのだった。

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