41 日頃の行いで印象が地に落ちました
一方闘技場の観客席では、大混乱を通り越し次々引き起こされる急展開に大熱狂だった。
まずはオーウェンの派手な大暴れ。オーウェンがSランクであり、それに加え四大元素である火魔法を使うこともあり注目されていた。また、フリードとアランのSランク対決。
しかし今回はそれだけではなかった。オーウェンのチームに加わったアイリスの存在だ。Cランクでありながらヴィンセントたちを撃破。それに加えて四大元素魔法の発現。しかも風属性を使う生徒は王立魔法学園にはいないことも、盛り上がった要因の一つだ。
「なんだあの子! すげえ!」
「風魔法なんて初めて見た……」
会場はさまざまな声があがる。そしてそれだけではなかった。頑張って飛ぼうとジャンプしているアイリスが映像にでていることもあり、笑いもしっかり勝ち取っていたのだった。
そして最終的には飛べないはずのアイリスが飛んでいることもあり、驚きの声が飛んでいた。
「アルフィー、今のって」
男は隣に座って目を見開いて静かに観察しているアルフィーを見つめる。
「期待以上だね」
アルフィーは興味深く映像を見ると同時に、あの時迷子のアイリスを案内してよかったとしみじみ感じていたのだった。
「そもそも彼女、飛行魔法使えないんじゃなかったか? それにアランの防御魔法がいきなり解けていったのは……」
「質問多いって……」
アルフィーはやれやれといった様子で映像を見る。
「まずあれは飛行魔法なんかじゃない。あれは風魔法だよ」
「風魔法?」
風魔法。知識の上では風魔法は飛行魔法のように空を飛ぶ魔法ではない。
「両手から風魔法を放ってその出力で空を飛んでいるってこと。何よりすごいのはその魔力コントロール」
「魔力コントロール?」
「そう。両手から風魔法を放ちながらバランスをとった上、思う通りに動いている。相当な魔力コントロールが必要。少しのズレできっと簡単にバランスを崩す」
「なるほど……」
「それとあの防御魔法は瞬時に触れて解析した上で解除しているんじゃないかな? 触れないといけないみたいだけど、多分ヴィンセントたちでコツを掴んだようだね」
アルフィーの隣に座って観戦している男は改めて思い出す。確かにクラークの防御魔法が一瞬解けかけたことを。
「それが本当ならとんでもないな。そもそも防御魔法を解くなんて聞いたことないし」
「うん。そもそも防御魔法は力押しで破壊するのが普通の考え。本当……………………楽しませてくれる」
アルフィーの隣に座っている男は普段怠そうにしているアルフィーが静かに興奮している様子を見たことがなかった。それと同時に今の状況を瞬時に解析できていることへ密かに恐ろしさを感じていた。
***
「すみません。上手くいくかなって思ったんですけど……」
アイリスはフリードの闇魔法に助けられながらも無事地面に着地し、一人でしゅんと落ち込む。
「バレットにも手伝ってもらったのに……」
アイリスは昨晩のトレーニングルームでの出来事を思い出す。
***
「錯覚……ですか?」
「そう。皆が言うように私は探知魔法にひっかからない。それにフリードが言っていた私から魔力の気配が感じづらいのなら、それは重要な場面できっと武器になる。魔力の気配を感じられないからきっと警戒される。それなら魔力の気配をさせて警戒されないようにすればいい」
若干魔力を放出させればさすがにしっかり魔力の気配がするらしい。それを最初から持続させた上、重要な場面で気配を消すことは十分奇襲になる。
「きっと今回戦う人たちはみんな私より強い。それなら魔力の気配をさせて相手の警戒を緩ませた上で不意をつくのがきっと効果的」
「なるほど……あとは不意をつこうとした時どう相手に感知されず魔法を使うか……ということですね」
バレットはアイリスの言ったことを瞬時に理解し、問題点を洗い出す。
「そう。例えば……私から意識が完全に逸れた時や何かに意識を集中させている時。魔法の撃ち合いをしている時とかは大きな魔法を使っているのだから私のようなCランクの魔法なんて意識から外れる」
大きな魔法を使っている中、わずかな魔法はきっと無意識に感知されない。これが大きな魔力や魔法だったら危機意識が働き感知されるが、アイリスはCランクだ。無意識に油断するだろう。
「だから今から長時間継続的な魔力放出の練習。これなら一晩でなんとかなるかなって」
「さすがですお嬢様」
「……………………それでバレット……その両手にあるポンポンとおへそが見えそうなお洋服は?」
気がついた時には使い魔であるバレットの服装が変わっていた。
「これはどこぞの国の衣装で、応援をする時このような装いをするのだとか。お望みでしたらお嬢様用にお作りします」
バレットはニコニコしている。しかし自分がおへそをだす服を着ることを想像できなかった為、アイリスは丁重にお断りしたのだった。
***
「やっぱり一筋縄ではいきませんね」
アイリスは前を見据える。
「一筋縄じゃないのは一体どっちなのか……」
「え?」
アイリスはフリードが何かつぶやいたようだが聞こえなかった。
「でもさすがに少しヒヤッとしたな」
ポンとアイリスの頭に手を乗せるフリード。
「ごめんなさい……?」
「ある意味このお嬢さんはオーウェン以上の暴走列車だな」
「別にそんなことは……」
少し心外に感じたアイリスはぷいとそっぽを向いた。
「癪だけどフリードの言う通りだよ、アイリスちゃん。君とは一度会ったことがあって魔力の気配がしないことに気がついていたのにすっかり騙されちゃったよ」
アランはやれやれといった様子でアイリスを見る。
「ただ忘れていただけだろう」
「えー。その部分は突っ込まないでよ」
ゼンの冷静な指摘に言葉では困った言い方をしているが、表情はとても楽しそうだ。
「次はこうは「久しぶりだな。無事編入できたようでよかった」ちょっとゼン! 遮らないでよ」
「はい。その節はありがとうございました」
「………………」
アランそっちのけで会話が進む。アイリスはゼンへペコリと頭を下げる。
「ちょっと! 俺もいたって!」
「はい。勿論です。アラン様もありがとうございました」
アイリスは勿論アランにも頭を下げる。それにしても段々アランが残念になりつつある。
一方フリードは「え」と言って眉を寄せながらアランを見る。
「うちの子に手を出したら容赦はしないけど」
「俺がいたから問題ない、フリード。そもそも俺の目の前で不埒な真似を許すことは一切ない」
「確かにそうだな」
ゼンの言葉にフリードは納得する。
「ちょっと二人ともひどくない?」
「お前が女子生徒……女性に対しての態度に問題があるからだろう」
ゼンは呆れた様子だ。
そんなやりとりをしている様子を静かにアイリスは観察する。
(ああ、カールと同じで女性関係がだらしない人間なんだ……アラン様って)
アイリスは静かに冷たい視線をアランに向けることになるのだった。
「さて、ここからはせっかく二人ずついるしアイリスちゃんの相手はお「俺がやろう」またなの……ゼン」
しょんぼりと肩を落とし、本日二度目の遮りにあった男、アラン。
一方名指しされたアイリスは気を引き締めてゼンを見据える。
〈やれるか? アイリス〉
〈もちろんです〉
視線を合わさず秘匿魔法で会話するアイリスとフリード。
(下手したらフリードの足手纏いになるかもしれないし、ここを自分で乗り越えないときっとこれからの学園生活を乗り切れない気がする……借金返済なんてきっと夢のまた夢だ)
アイリスはここにきた目的の一つを思い出し、気を引き締め直す。
「じゃあはじめようか。……第二ラウンドだ」