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37 Cランクでも足止めくらいは頑張ります

 チーム戦とはランダムで決まる学園の魔法戦闘用占有地で行う戦いだ。造られた住宅地や、森、崖等様々な魔法戦闘用占有地がある。その魔法戦闘用占有地へは闘技場から移動用魔方陣を利用して移動する。


 今いる闘技場はチーム戦を行う上での集合場所である。しかし闘技場も魔法戦闘ができる場所であり、ランダムで闘技場が指定されれば闘技場で戦うことになる。


 闘技場が集合場所の理由は移動用魔方陣があるだけではない。闘技場はドームのような形をしており、観客が闘技場以外にも各魔法戦闘用占有地で戦っている様子も魔法モニターで観戦することができるのだ。


 今回は『森』がフィールドとなり、移動用魔方陣を利用して移動する。三十分という時間制限の中、自分たちの塔が破壊されるとチームの負けになってしまう。また、腕輪に装着されている体力ジュエルの破損、もしくは気絶した場合三十秒後にこの闘技場に強制移動され、敗北ということになっている。


 体力ジュエルとは本人が受けるダメージをそのまま引き受けるため、怪我や生死にかかわらず安全かつ破損後は強力な結界魔法が発動されるように組み込まれているため、安全性があるとのことだった。


「じゃあ手筈通りに」


 ユーリの言葉で全員が行動を開始する。アイリスはユーリから連絡用の蔦をもらい、奇襲担当のルイについて行くのだった。


「……」


 なんとなく落ち着かないアイリス。誰かと行う実戦なんて初めてでそわそわしてしまう。


「ちょっと落ち着きなよ」


 アイリスの前を歩いているルイが呆れたように言う。


「す、すみません」

「止まって。……こっち」


 ルイが急に止まり、アイリスの手を引っ張って茂みに入る。そして茂みの外を指さす。

 そこには見知らぬニ人組が警戒する様子もなく堂々と歩いていた。ルイを見ると心底めんどくさそうな顔をしている。


<アイリスはあの二人知らないよね>


 アイリスの頭にルイの声が響く。秘匿魔法だ。

 ルイの言葉にアイリスは頷く。ルイの説明によると、二寮の音魔法が得意なヴィンセントと、幻術魔法が得意なクラークという魔法師らしい。



<あれは二寮の先輩。あの二人がセットでいられるとかなりめんどくさい。正直勝てるなんて思わないほうが懸命>

<え>


 チーム戦開始前に軽くニ寮の魔法師の説明をされた際、全員のランクがSまたはAということを聞いたことを思い出す。


<とりあえずここは後退して他の情報集めをしよう>


 武が悪いと判断した二人はその場を離れようとしている。


「うーん。そこの茂みにいるのは誰かな?」

「…………!」


 明らかにアイリスたちに気が付いているヴィンセントとクラーク。魔力や気配を絶っているつもりでも気づくとは相当な実力者なのだろう。アイリスはすぐに驚きから頭を切り替える。


(この状況……落ち着いて。よく考えて)


 アイリスはゆっくり相手を見る。

 

<ここは私が行きます。なんとか足止めくらいはできるはずです>

<えっ、ちょっと!>


 一人で見つかった方がもう一人は自由に行動できると判断したアイリスは一人で茂みから飛び出した。





「おやおや」

「おやおやおや」


 ヴィンセントとクラークの前に出るアイリス。


「君がアランの言っていた要注意人物Cランクのアイリス・セレスティアちゃん?」

「は、はい……あの、あなたたちは?」


 Cランクで要注意人物とは何なのか疑問に思ったが、ルイを逃す時間を作らなければいけない。話を続ける。

 

「あ、俺ニ寮のヴィンセント・クレランド。よろしくね」


 軽く手を振る音魔法使い、ヴィンセント。


「俺クラーク・エクルストンね」


 ヴィンセントと同じように手を振る幻術魔法使いクラーク。


(…………この人たち。あきらかにレベルが高い……)



 アイリスはCランク。そして二人はぱっと見てもやはりAランクくらい。Sランクでないことを信じたいと思うアイリス。

 こうして対面して軽く自己紹介をした時ですら隙は感じられなかった。

 

(でも……やるからには最大限足止めをしないと。もし二人がルイ君に気が付いた場合、不利な状況なのに二人ともこの場から動けなくなってしまう。下手したら私もルイ君もやられてしまう……私が少なくとも二人の射程距離外にルイ君が逃げるまでの時間を稼がなきゃ)


 自分が足手まといなことは十分感じていたアイリス。だからこそせめて迷惑はかけたくなかった。

 魔力を解放して戦闘態勢に入るアイリス。ヴィンセントたちも戦闘態勢に入る。


「おいヴィン。さすがに女の子相手にニ対一は可愛そうじゃねえか?」


 クラークがヴィンセントに言う。そこには明らかな余裕といった様子がある。


「確かにな。じゃあこの子は俺が相手するからお前は別の場所行きなよ。もう一人……いるはずだから」

「……!」


 はっきりと確信している様子のヴィンセント。ヒヤリと嫌な汗がでる。

 

「いいえ。この場には私しかいません。それに二人とも私が倒すので問題ないです! 跳躍魔法発動・魔法強化!」


 ルイを追わせるわけにはいかない。一気に上空へ跳躍し、思いっきりヴィンセントにかかと落としを当てようとするが、ヴィンセントはひらりとかわす。


「魔力強化!」


 地面に着陸した後は流れるようにクラークを背負い投げしようと腕を掴む。しかしヴィンセントから基礎攻撃魔法のようなものが飛んできてアイリスはクラークを放して回避する。


「おっかねえ。可愛い顔して背負い投げかよ! 完璧な近距離武闘派じゃねえか」


 そう言いながらも余裕のあるクラーク。おそらく実力差は相当ある。


「なるほど。自分の魔力を足に集約させて破壊力を上げた近距離物理攻撃っていうわけか」


 ヴィンセントの正確な分析にアイリスは嫌な汗を感じる。アイリスの戦闘方法は魔法そのものを強化できる『魔法強化』と、自分の魔力を強化して一点に集約し、威力を倍増させる『魔力強化』の戦法がある。アイリスは頭を回転させ、今自分ができることを必死に考える。


「クラーク! お前の魔法でこの子を戦闘不能にさせてとっとと行くぞ」

「ああ」


 クラークは幻術魔法が得意らしいことはルイに聞いていた。その為どのような幻術がでてくるのかアイリスは身構える。そしてクラークがアイリスの方向へ手を向けた。

 しかしクラークはピタリと動きを止める。


「あれ?」


 クラークがぱちぱちと目を瞬かせる。


「クラーク?」

「いや……なんか……」

「?」

「いや……使ってる……」

「は?」


 二人はアイリスを見るが、アイリスに変化はない。


「俺の幻術魔法が……効かない…………」


 クラークが驚いた様子でアイリスを見るのだった。

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