35 お決まりの展開
それからというものの、翌日のチーム戦の時間になるまではあっという間だった。
「フリード、大変です。アイリスがいません」
「………………」
ユーリがキョロキョロとあたりを見渡す。
「あそこは」
「トレーニングルームも探しました。それと部屋にもいないようで…………」
二人はアイリスがトレーニングルームにいたことを知っていた。
「…………………………」
「…………………………」
二人の脳内には同じ二文字が響き渡る。
「迷子か……」
「迷子ですね……」
アイリスの前科を思い出して苦笑いする二人。
「仕方がないですね。とりあえず食事にしましょうか。今アイリスを探しに行っているルイを呼び戻していただけますか?」
「ああ」
ユーリは急いで調理場へ駆け込み、フリードは歩き出すのだった。
食事を済ませ、アイリス以外のメンバーが集合場所の闘技場に着く。あたりを見渡すが問題児の存在は確認できない。
「困ったものだな」
チーム戦は全員参加。これが原則だ。
しかし言葉とは裏腹にどこか楽しそうなフリード。
「フリードさん。やっぱりアイリスがどこにもいません。探知の方は……」
「駄目だな。俺もユーリもひっかからない」
ルイが周辺を探したが、どうやら見つからなかったらしい。
ちなみにオーウェンも探しに行こうとしたが、あの性格ゆえ面倒ごとになる可能性が高いと判断したユーリが全力で止めたのだった。
「仕方ないな。あいつを呼ぼうか」
あいつ。それはフリードに馴染み深い人物。
「ああ、学校一探知魔法に優れていますもんね。でも……あの人どこにいるんですか?」
「………………………………」
***
「あ…………あれ? 迷子対策に予定より早くトレーニングルーム出たのに……一向に闘技場に着かない……」
予想通り絶賛迷子中なアイリス。
「これ……絶対時間に間に合わない……どうしよう………………」
どうすることもできずうずくまるアイリス。今は右に行っても左に行っても真っ直ぐ行っても辿り着かないような気がしていた。そんなアイリスに救いの一声が後ろからかかった。
「大丈夫?」
「え?」
顔を上げるとぼさっとした肩までの髪、そして目が前髪で隠れている男の子が蹲るアイリスを見下ろしていた。
「迷子?」
「う…………は…はい…………」
「闘技場に行くんでしょう? 連れて行ってあげる。ほら」
手を差し出されるアイリス。
「あ……ありがとうございます!」
アイリスは手を取って立ち上がり、闘技場まで走ったのだった。
「じゃあ俺はここで」
目の前には闘技場。どうやら無事に辿り着いたようだ。
「ありがとうございました! えっと……(誰だろう……この人……制服のネクタイの色から学年が一つ上ってことは分かるけど…………)」
「アルフィー」
きっと誰だろうと顔に出ていたのだろう。目の前の男は短く名乗った。
「あ! ありがとうございました! アルフィー様」
「アルでいい。名前長いし。様もやめて」
「は……はい。では……アルさん。と」
「いいよ。さんもいらない。敬語もいらないから」
「じゃあせめてアルくんで……」
「うん」
敬語は外せなかったが改めて挨拶をする。
「本当にありがとうございました」
「うん。頑張って。…………期待してる」
それだけ言ってアルフィーは歩き出す。
「期待……されてもなあ…………」
微妙な気持ちで会場に入るのだった。