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31 最初はだれでも不安になります

 ルイの発言でクラス全員が大声を出す。どうやらこの会話をクラス中が聞いていたらしい。


「ああ、ルイルイのチーム、キャラ濃いし何より強いからね。皆気になっているんだよ。あ、俺ヒューゴ・グレンフェル。よろしくね。俺のことは気軽にヒューゴって呼んでね」

「では私もアイリスと」

「うん。じゃあルイルイ、移動教室だから行こう?」

「はあ……うん」


 ルイはため息をついて静かに立つ。


「ルイルイ?」


 気になっていたことを口にするアイリス。


「は?」


 絶対零度。静かに怒りを含んだ声で睨まれる。


「あ、ごめんなさい、えっと……カ…………ルさん?」


「?」


 アイリスが何を言っているかわからず首を傾げるルイ。しかしヒューゴは閃いたようだ。


「あ、アイリスが言ったのははルイルイのファミリーネームの最初と最後の言葉じゃない?」

「はい!」

「馬鹿なの?」


 元気よく頷いたが、ルイが呆れた様子を見せる。

 実のところアイリスはかなり暗記が苦手だ。しかも今朝は寝ぼけている頭で四人分の名前を言われ、もうすでに頭がパンク一歩手前状態だったこともある。可能であれば一か月ほど名札をつけてほしいと願うほどにはアイリスにとって目下の重大な問題だった。


「あまりよろしくしたくないとのことでしたので、ファミリーネームで呼びましたけど……ルイルイ……反復すれば名前が覚えられるかもです……!」

「やめて」


 嫌そうにするルイ。何を嫌がっているのかよく分からないアイリス。


「じゃあルイルイ様で」

「そういう問題じゃない。とにかくやめて」


 バッサリ言い捨てるルイ。せっかく良い案なのにと少し肩を落とすが、少し感動していた。


「あだ名で呼ぶって初めてで……これが外の世界……! そしてお友達……!」


 アイリスは思い出していた。カールが外の世界にいれば自然と『友達』というものができると言っていたことを。初めての同性の友達に加えてチームメイトとまで仲良くなれるなんて夢のようだった。

 一方ルイはアイリスのキラキラした純粋な表情に言葉が出なくなる。


「でも……本当に嫌だったら……」

(無理強いはよくないよね……)


 本当に嫌だったら申し訳ないと思いシュンとするアイリス。それにしびれを切らしたようにルイが口を開いた。



「ルイ」

「え?」

「俺のファーストネーム。ルイルイよりはましだから。それにニ文字だしいくらアンタがバカでも呼びやすいでしょ」


 どこか視線を逸らすルイ。機嫌が悪そうな様子だが、少し目の前の人に近づいた気がしたとアイリスは感じた。


「あと様はやめて」

「はい! ルイさん!」

「ルイルイがデレた……」

「うるさい、ヒューゴ」


 ヒューゴが茶化すように言うが冷たい声で言い返して歩き出すルイ。


「じゃあ僕は先に行くから、アイリス」


 ヒューゴは慌てて「待ってよルイルイ!」と言いながら追いかけた。


「アイリスちゃん、すごいわね……あのルイが……」


 先ほどの光景を見て驚いているエレナ。しかしなぜ驚いているのかアイリスの知る由がなかった。


「あ、そういえば移動教室? ですよね?」


 授業によっては別の場所に行って授業を受けるものらしく、アイリスは少しワクワクする。

 

「そうだったわね! 私たちも行きましょうか!」

「でも……あれは本当に止めなくてもいいのでしょうか?」


 少し離れたところで未だ炎と氷魔法の撃ち合いをしている二人。


「あれは……あれで男の友情……なのかしら……どうせ私たちには止められないし行きましょう」


 この光景は見慣れているのか、さっさと歩き出すエレナ。

 

「は……はい……」


 このままでは次の時間二人は遅刻だと感じたアイリスは一応声をかけてみたものの、二人はアイリスの声に気が付かなかったので、仕方なく二人を置いて教室を移動した。







「よし! じゃあ早速授業するぞ! 俺は魔法実習担当のダンカンだ。よろしくな、アイリス!」


 初めての授業はいきなりグラウンドでの魔法実習。

 どうやら座学はランスロット。実技はダンカンが担当するらしい。


「で、お前は強化魔法と回復魔法が得意で、Cランクだよな」

「う……はい……」


 簡潔に言われたが、平均にも満たないランクにやはり悲しくなり、落ち込みながらも頷く。


「それにしてもお前……」


 ダンカンがじーっとアイリスを見つめる。


「?」


 ダンカンは難しい顔をしている。

 

「不思議な魔力だな」

「え?」

「まあいい。早速始めるぞ! 明日のチーム戦もあるしな!」


 気合を入れ、音を立てて掌を合わせるダンカン。


「チーム戦?」


 聞いたことのない単語が聞こえ、つい聞き返してしまったアイリス。


「なんだ、アイリスは知らないのか。まあ編入一日目だし無理ないか。明日あるんだよ、チーム戦」

「そうなんですね」

(よくわからないけど明日チームで戦う何かが見られるってことかな)

「で、お前は三寮だよな?」

「はい」


 昨日学園長から三寮と言われたので間違いはないだろう。

 

「この学園では寮のルームメイトをチームとして、色々なチームと戦って能力を向上させる試合があるんだ。で、明日三寮もチーム戦に入っていたと思うんだが」


 ダンカンがちらりとルイを見る。説明したんだろうなといった表情で見つめる。


「そういえばそうでしたね」


 あまり興味のない様子でさらりと答えるルイ。しかし説明の欠片もしていないと悟ったダンカンは呆れることになる。


「仕方ない奴だな……それで、毎回ランダムでチーム戦をするんだが、早速明日だな、アイリスは」


(い、いきなり……!?)


 初回授業翌日にいきなりチーム戦と言われて驚くアイリス。


「え。それって……あの、私だけ棄権するのは……」

(最早迷惑をかける未来しか想像できない……)


 自分がCランクという事実と今まで一人で戦ってきたのでいきなりチームで戦えと言われてもうまくできる自信がない。だからこそ棄権しようと思うのだった。


「なしだな」

「そ……そんな……」


 ばっさりと言われた言葉に取り付く島のないことを悟る。


「アイリスちゃん……大丈夫よ! 死ぬわけじゃないし、何とかなるよ!」

「大けがする人はいるけどね」


(大けが……!?)


「ちょっと、ルイ!」


 項垂れるアイリスへエレナが必死なフォローするが、水を差すルイ。

 アイリスは顔面が真っ青になるのだった。




 それからというものの、授業で実践としてBランクレベルの三人と戦ったが、あっという間に敗戦。


「ぎょ……玉砕です……!」

「だ……大丈夫? でもすごかったよ! 何より動きがが速くて!」


 アイリスの戦闘スタイルはスピード重視の体術戦。しかし防御は脆く、且つ攻撃力もさほど無い為、威力が強い魔法にことごとく敗れてしまった。

 アイリスは落ち込みながら他の試合も見る。

 エレナはどうやら防御魔法が得意なようだ。ルイは強力な雷撃。ちなみにAランクらしい。そしてヒューゴは動物魔法。動物と意思疎通をし、力を借りることができる魔法だ。


「私……この学校で生きていけるのかな……」


 まわりが優秀な人だらけでことごとく不安になるアイリスだった。

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