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2 ブラックリスト入りはご勘弁

「王立魔法学園! それは魔力を持った学生たちの学び舎! 様々な経験を仲間たちと乗り越え、そして高めあい、社会に貢献する! それが王立魔法学園だよ!」

「はぁ」


 ランスロットは熱弁し、あげくくるりとその場で回って変な決めポーズを決めている。


(カールとはまた違った人種で変な人だ……)


 目の前のランスロットに対してアイリスは若干引きながら適当に返事をする。

 アイリスが引いていることを悟ったのかゴホンと咳払いをする。


「失礼。君にはぜひ王立魔法学園に入ってもらいたいんだ!」

「お断りします」

「うんうん。お断り………お断り!?」


 流れるように拒否したセレスティアに対してランスロットは断られるとは思っていなかったらしく、かなり驚く。


「はい。だって……怪しい人には着いて行かないって教わっていますので」

「怪しい人!? 僕が!?」

「……」


 アイリスは無言でうんうんと頷く。

 昔はカールがいたが、それからずっと一人でいたのだ。

 訪ねてくる人も迷い込んだ人以外全くいなく、認知すらされずひっそりと生きてきたつもりなのにいきなり現れた怪しい人においそれと着いてはいかない。

 アイリスは教わったことを思い出す。


≪知らない人に着いて行ってはいけないよ≫


 これは昔カールに言われた言葉だ。それを忠実に守るアイリス。


「そもそも先約が……カールが迎えに来るらしいので一緒に行けません。ごめんなさい」


 礼儀正しくお辞儀をする。拒否する際ははっきりと。これで上手に断ることができたはずだ。

 そもそもアイリスはカールが豪語していた山の結界を強くする魔法ができない限りこの山を見捨てて出られない。

 少なくとも数年を過ごしたことで愛着もある。

 また、カールから迎えに来ると言われているのだ。ここで着いていく訳にはいかない。


「そんな……あ、カールさんなら僕にこの手紙を預けたんだ」


 懐から手紙を出すと、それをアイリスに渡す。

 アイリスはそれを受け取り、広げる。


「えーっと……」


 読み進めるごとに手紙を持つ手に力が入る。そして読み終えた際には思いっきり手紙をぐしゃっと握りつぶしたのだった。


「アイリスさん!?」


 ランスロットはアイリスが静かに握りつぶした様子を見て愕然とする。

 

「ああいえ……何でもないです……あの人が相変わらずの人だって改めて認識しただけですよ」

「一体手紙にはなんて……」


 ランスロットは内容を知らないらしく、アイリスが冷静さを保つために一息ゆっくり呼吸をしてから手紙を手渡すとランスロットはなぜか手紙の中身を読み上げる。


「なになに? 『かわいいかわいいアイリスちゃん元気? 久しぶり! 山の結界を強くする魔法ができたから今日迎えに行く予定だったんだけど急用で行けなくなっちゃった! ごめんね! 代わりに目の前の優男を派遣したから着いて行ってねー! あ、学費は払っておいたから学園を通して一か月ごとに僕へ返してねー! 利子つけて十倍で! あ、きれいなお金だから大丈夫だからねー! あとこの請求書もよろしく! カールより』………………」


 ふざけた文面を再度聞く羽目になったアイリス。

 プルプル震えながら口を開く。


「馬鹿じゃないですか!? 請求書って一体何のことですか! そもそも学費って……学ぶための費用のことですよね? あの人本当に払ったんですか?」

「か、確認してみるね」


 苦笑を浮かべながら魔法具だろうか。何か端末を操作するランスロット。カールにそんな支払い能力があるとは考えられない。

 アイリスは学費が払われていないことを切実に祈った。碌でもないことしか起こらない確信があったからだ。


 ランスロットが端末を操作している間に鳥が空を飛行してアイリスの肩に乗る。


「この鳥……カールの鳥だ」


 見覚えのある鳥。その鳥の足には何か包みのような物が縛り付けてある。

 その包みをを取ると鳥は任務完了というかのように空へ舞い戻ったのだった。


「なんだろう……」


 包みを開けると中には魔法石が見える。

 アイリスは取り出そうと手を触れるとまばゆい光があたりを照らす。


「きゃあ!」


 あまりの光につい目を閉じると次の瞬間立ってはいられないような圧がアイリスを襲う。

 そしてそのまま地面へ倒れこんでしまうのだった。


「な……にが……アイリスさん、大丈夫ですか? ってええええええ! これって」


 ランスロットも眩い光に目を閉じていたが、ゆっくり目を開けると視界に入ってきた様子に愕然とするのだった。


「うううううう」


 アイリスが白い何かに埋もれている。

 

「アイリスさん!? しっかりしてください! すぐに出しますから!」

 

 ランスロットはアイリスが必死に伸ばしている細い腕を強く引っ張るのだった。


「………………大丈夫ですか?」

「……は、はい」


 救出されたアイリスはようやく新鮮な酸素が体中に回る感覚に安心する。あのままでは圧死していたかもしれない。


「それよりも……」


 アイリスは周りを見渡す。明らかに山の何かが変わっている。そしてすぐに理解する。強い魔力を。


「これが……結界強化の魔法……」

「確かに……」


 ランスロットも頷く。アイリスは確信する。格段に、かなり強固な結界になった。それこそ自分は必要ないくらいには。


 つまりアイリスはこの山を守護する必要がなくなり、出られるようになったのだ。

 

(さっきの魔法石は結界を強くする効果の魔法石だったのだったんだ……)


 状況は理解したが、急に自分の役目が終わったことに心の何処かにぽっかりと穴が空いたような気がした。

 しかし目の前にはランスロット。唖然としながらも切り替えなければいけない。

 

「それにしても一体何が……」


 先ほどの光が結界を強くする魔法だったのなら、どうして、一体何に自分が潰されていたのだろうか。

 アイリスは自分を潰していた白い物を手に取る。

 正確には白い物のごく一部が手に取れた。


「これは……紙?……………………………………………………せいきゅうしょ」

「あははは」


 ランスロッドはすぐに白い物の正体が請求書の山だということはすぐに気が付いたみたいだった。どうやら結界を強くする魔法と、請求書を詰め込んだ収納系統の魔法効果を持つ複合魔法石だったらしい。

 アイリスは次々と白い物の一部、請求書を手に取る。


「カール……」


 しょうもない男だということは分かっていた。でもこれだけは言わせてほしいとアイリスは思う。


「宛先が全部私な上、ほとんどがお酒代ってどういうことですか! あの駄目男! とんでもない金額じゃないですか!」


 アイリスの叫び声は山に響き渡る。中身を見ればほとんどがお酒の上、金額の桁がおかしい。


「あの……アイリスさん。一つご報告したいことが」


 申し訳なさそうにするランスロッド。

 

「学費ですが……お支払いされていますね」

「…………」


 絶望。その一言だった。


(そうだ。返してもらえばいいんだ)


 アイリスはこの請求書をなんとかしないといけない。ちなみにこの国でお金を払えず踏み倒したした場合、取り立て屋が厳しく追ってくる。下手すれば命すら危うく、そういう面では厳しい国だ。

 学校に通っている時間なんて到底あるとは思えない。

 

「すみません。そのお金、あの駄目男に返還していただけませんか?」

「うーん……申し訳ないけどうちの校則上学費の返還はできないんです。入学手続きも終わっているみたいですし。そして入学手続きを終えた人は必ず入学しなければならないんです」

「辞退した場合は…………」

「魔法界のブラックリストにのります」

「なんで!?」


 ブラックリスト。それはカールに聞いたことがある。魔法を使う者としての信用を一切失うだけでなく、魔法をよからぬことに使おうとする闇組織や事件に巻き込まれやすくなり、あげく王国によって囮等を強要されるのだ。平和に過ごすことなんて無理に等しい。

 もう諦めるしかないのかもしれないとアイリスは項垂れる。

 

「…………ちなみに学費っていくらですか?」

「えーっと……」


 端末で金額を見せるランスロット。


(な!? 何この金額!? 桁が……桁がたくさん……これを十倍返しって……)


 自分の現実を正しく理解し、膝をつくアイリス。


「これってもしかして借金……なのでは?」

「あはは……」


(外の世界には興味がある。学校も行ってみたい。だから学費の支払いは頑張りたい。でも利子つけて十倍って無理じゃない!? そもそも絶対そのお金汚いお金じゃないの? ギャンブルとかじ、人身売買とかだったらどうしよう……それだけで既に私もカールもブラックリスト入りだったりしないかな……)


「人身売買が……人身売買が…………」


 小さい声で頭を抱えるアイリス。


「えーっと、アイリスさん、王立魔法学園は確かに他の貴族が登校する学校以上の学費が必要となります。しかしながら我が学園は学びながら働ける環境が整っているんですよ」

「え?」


 驚いて顔をあげる。


(後光が……後光が見える……!)


 今まで驚きや怒り、絶望の現実に打ちのめされていたアイリスにとって初めての救いの言葉だった。


「王立魔法学園はルームメイトチーム制をとっているんです」

「ルームメイトチーム制?」

「はい。アイリスさんは入学してから学園の寮に入っていただきます。寮といっても五人一組のチームにに属し、そのチームメイトと生活を共にします。そしてそのチームで様々な仕事……私たちは『任務』と呼んでいます。それを行い、報酬を手に入れることができるのです」


 『任務』というのは、様々な魔法を必要としている依頼が学園に入ってくるらしく、学園経由で学生に依頼するらしい。ただし五人一組の寮といっても魔法師の女性が希少なため、今回アイリスの所属するチームメイトは男性だということらしく、それについてランスロットは深く頭を下げた。

 しかしアイリスはそれどころではなかった。


(神様がいます! カールからお金を得る手段をいくつか教えてもらったけど、やっぱりお金を稼ぐのなら働いたお金って決めていたから、学園に通うにしてもどこかで働きながら通おうと思ったけど、働きながら勉強できる環境があるなんて!)

 

 カールから教わったお金を得る手段。農作物を育てることやサービス業等の労働や学者、そして最終的には賭け事まで教わっていた。

 アイリスの目の色が変わったことに気が付いたのだろう。ランスロットはもう一度同じ言葉を口にする。


「もう一度聞きます。アイリス・セレスティアさん。王立魔法学園に入学しませんか?」


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