23 もしかしたらとても物騒なのかもしれません
「失礼します。遅くなってしまって申し訳ありません」
ぺこりとお辞儀をしながら顔を上げ、前を見る。そこには見知ったランスロットと優しそうなご老人が立っていた。
「いいのじゃよ。来てくれただけで」
老人は優しい声音で話しかける。
「わしはこの学園の理事長だ」
「アイリス・セレスティアです」
「アイリス……いい名前だね。さて、ランスロット先生」
「はい。理事長」
ランスロットは前に出てアイリスに手帳と紙を渡す。
「この手帳は細かい規則……つまり校則を細かく書かれたものだよ。無くさないようにね」
「はい」
「で、この紙が1番大切なことだよ。この紙に書いてあることを生徒は必ず守らなければならない。一読したらサインをしてね」
「サイン……」
アイリスはもらった紙を見る。
1つ。生徒同士の暗殺・闇討ちすべからず。
2つ。生徒同士の殺し、すべからず。
3つ。事前に両者で決闘に合意した場合、命の責任を学園で負わない。
「物騒!」
「あはは。まあ三つめの決闘は事前に命はとらないっていう条件をつけることもできるからまあ、あまり気負わないでね」
「……………………………………………………………………はい」
(まあ決闘なんてしなければいい話だよね)
あまりに物騒な重要事項に若干引きながらもペンをとり、署名をする。
「署名をありがとう。君には早速明日から授業を受けてもらいます。それに伴って必要な制服や教材はすでに運んであります。事前にお話しした通り寮での生活となり、五人でシェアハウスのように寝食をともに生活をしていただきます。アイリスさんのチームは女性一人となり大変申し訳ございません。もちろん共有部分と専有部分はありますのでご心配なく。アイリスさんは第三寮となりますので、この用紙の場所に行ってください。」
アイリスは情報量が多い為戸惑いながらもとりあえず頷く。
「あとこちらカールさんからのお手紙です」
渡された紙は地図とカールからの手紙。カールからの手紙はどうせまともなことは書いていないと察し、早々にしまって地図を開く。そして今度こそスマートに着くことを祈ってアイリスは歩き始める。そして奇跡的になんとか寮の部屋の前に着いたのだった。
ちなみに寮のチームの部屋(共有部分)の中にアイリスの部屋(専有部分)がある。
「………………………………!!!!」
「…………す……………………!!!」
「…………………………………………よ…………………………!!」
会話までは聞き取れないが、中が騒がしい。とりあえずノックをするが反応はない。
ずっと外にいても仕方がないと思ったアイリスはドアノブをつかもうとすると何かに弾かれ、ドアノブに触れることはできなかった。
(……結界魔法……? でもこの程度なら…………解!)
手に魔力を集中させ、結界を破るように念じて結界の解除魔法を発動させると結界は消え、簡単にドアノブに触れることができるようになり、ドアを開くことに成功した。
しかしドアを開けた瞬間目の前へ火属性の魔法が飛んできたが、持ち前の反射神経で左へ一歩移動してなんとか避けた。
魔法に驚きながらも部屋の中を見ると中は混沌と化していた。身長が高く何かを叫びながら魔法を放つ人間と止める人間。あまり見ない方がいいと思ったアイリスはそれしか部屋の中を認識することはなかった。
(男の人が……暴れています……喧嘩かな…………なるべく中の人たちに気がつかれないようにここを立ち去ろう…………あ)
アイリスは何も見なかったと思い込むことにしてから早々に立ち去ろうとしたところだった。しかし喧嘩のようなやりとりをして騒がしいところから一歩離れたところにも一人の男がおり、その人と目が合う。
(無視は……よくないよね)
とりあえずぺこりと目が合った男子にお辞儀をし、ドアを閉めた。そしてすぐに方向転換する。
「跳躍魔法及び魔法強化・加速」
アイリスはスピードをあげる魔法を発動させる。この魔法はクレアの町の一件の際に、山賊を追いかけるために使った魔法と同じだった。アイリスが言葉を発した直後、魔力が彼女の身体を包んだ瞬間一歩を踏み出し早々に走り去るのだった。