17 こわ
再会したクレアの人たちがまず驚いたのはアイリスに引っ張られているメイソンの存在だ。
アイリスはメイソンの背後に回り、軽く背中を押す。
軽くバランスを崩したメイソンは気が付いたら領主たちの前にでていた。
全員が愕然としている中、最初に正気へ戻ったのは領主だった。
そしてぎゅっと抱きしめた。
「よかった」
「…………領主様」
領主はメイソンの腫れている頬に触れ、今まで一緒にいたチャーリーを見た。
「やりすぎだぞ」
「だって…………」
「おかげでわしらが叩けないじゃないか」
手をひらひらさせる領主。
「こわ…………」
メイソンはこれ以上叩かれずに済むようで、腫れた頬を触りながら安心したのだった。
「娘さん……この度はありがとう」
領主が頭を下げる。
「いえ……大したことは…………」
「いや、君が来なかったら大切な我らの子が帰ってこれなかったかもしれない」
メイソンも改めて頭を下げる。
「改めてお姉さん、色々ありがとう。正直協力者としてかなり不安だったけど」
「その節は大変申し訳なく…………」
かなりと言う言葉が嫌に強調される。
メイソンが選んだ協力者。それがアイリスだった。
「それにおじさんも」
メイソンはチャーリーを見る。
「まさか魔法が使えるとは思っていなかったよ」
メイソンの言葉で全員がチャーリーを見る。
チャーリーは無言になりながら、ハッとする。
「え? いつ?」
今さら驚いたように自分の手を見るチャーリー。
「無意識だったのでしょうか……あれは無属性の拘束系統の魔法ですね」
思い出すのはメイソンへ襲い掛かろうとする山賊の足を拘束したときの魔法。
「あの時は何とかしなきゃって……夢中で……」
今まで忘れていたぐらいだ。本当に必死だったのだろう。
「可能性…………たくさんの才能の可能性……あったでしょう?」
それは移動中の出来事での会話。
才能がないと。無力だと嘆いていたことを。アイリスは悪戯っぽい笑みを浮かべてチャーリーを見る。
「そうだな」
チャーリーはアイリスの表情を見て優しい顔をする。
「きっとこれからあなたも私もたくさんの可能性と出会うはずです。この言葉は私の魔法の駄目師匠からですけど……多分、自分で自分を否定するほど無駄な時間はないと思いますよ」
魔法の師匠。それはカールのことだ。
駄目人間のお手本のようなカールはアイリスにとって大切なことをたくさん教えていた。駄目なことの方が多いが。
「ねえ。これって」
メイソンが馬に括り付けてある荷物を指さす。
「ああ。山賊たちのアジトにあっただんだ。ランタンが。だが今からじゃもう…………」
日はもうすぐ落ちる。
今からランタンを持って街に戻っても間に合わないだろう。
「そんなの、まだわからないじゃないですか」
暗い雰囲気を払拭するような明るい声をあげるアイリス。
「まだ……可能性はゼロじゃない……でしょう?」
アイリスはチャーリーを見る。「可能性は最初から潰さないほうがいいでしょう?」と笑みを向けて。
チャーリーはパチパチと目を瞬かせ、笑った。
「だな。努力はしてみようぜ」
それからは早かった。
皆が慌てて馬に乗り、出発準備を整える。
「さて」
アイリスは手を握りしめながら深呼吸をする。
(もうひと頑張りですね)
強化魔法をかければ馬と並走できる。その為魔法を使おうと思った時だった。
「アイリス」
フリードはキングギデオンの上に乗り、こっちに来ていた。
「フリード? え? わ!」
いきなり手を引っ張られ、馬の背の上に持ち上げられる。
そして気が付いたころにはフリードに後ろから抱きこまれるような形で馬に乗っているのだった。
「なんで!?」
クスクスと後ろで笑う声を聞きながら、慌ててバランスを取ろうとフリードの服を掴んだ。