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12 キングギデオン

 前方から一頭の馬が走ってくる。

 それは『キングギデオン』という名の馬らしい。。


「これで町まで帰れば……!」


 町の人たちは安心しながら馬に乗って帰ろうとする。しかし馬は駆け寄って来たクレアの人間を避け、アイリスのもとへやってきた。


「え?」


 馬はアイリスの腕の服部分を器用に口に咥えて引っ張る。その様子はかなり焦っている。


「まさか……」


 領主が馬を見て察する。


「今いた山賊が三人。残りの山賊はどこにいるのだ?」


 そこで人々はハッとする。彼らの目的は町を襲うこと。もうすでに時間的にも収穫祭は始まっており、他の場所からも観光客がたくさん来ている。そんな中でランタンが無いことによる不測の事態に少なからず人々の不満や混乱が起こってしまう。

 人間とは不測の事態に弱い。その隙を山賊は狙っているのだ。

 この場を何とかしても、現状山賊たちの思う通りに事が運んでおり、今頃山賊は自分たちの拠点ではなく都市クレアにむかっているのではないだろうか。


「おっとととと……」


 馬のキングギデオンは強くアイリスを引っ張る。


「私をどこかに連れて行きたいのですか?」


 言葉が通じないことは分かっている。それでも馬はその通りだと言わんばかりに頷いたようにも見えたのだった。


「分か……分かりましたのでちょっと待って! 待って待って!」


 馬のキングギデオンがしゃがみこんだと思ったらアイリスの足元を掬うように立ち上がり、器用に背中に乗せたのだった。


「え? え? 高い高い! わわわっ!」


 アイリスはいきなり背に乗せられ、視界が大分高くなったこと、そして馬の背中の上でバランスが取れず慌ててしまい、悲鳴を上げてしまう。

 そして馬も背中に乗せているアイリスが恐怖故暴れたことに驚いてしまう。


「ちょっと待って! 落ち着い……て! わわわわわわ!」


 アイリス自身もパニック状態だ。このままではアイリス自身も落馬してしまう可能性がある。


「いけない!」


 そんな声がしたと同時に馬の前に現れる男。今まで領主の隣にいた男のようだ。


「落ち着け。キングギデオン。大丈夫だ」


 ゆっくり馬を撫でながら話しかける男。馬は暴れていたが、ゆっくりと平静に戻っていく。


「そう。大丈夫だ」


 暴れていたことが嘘のようにおとなしくなった馬。アイリスは落馬せずにすんだことと、馬が落ち着いたことに安堵した。


「すみません。ありがとうございます」

「いや、いい。お嬢さん、乗馬はしたことあるかい?」

「いいえ、実は初めてでして……」

「そうか」

「……………………クマはあるんですけど……」

「何か言ったか?」


 小さな声でボソッと言うアイリスだが、どうやら聞こえていなかったらしい。別に言うほどのものでもないため、聞き返されても笑顔で「いいえ」と言うだけだった。


「領主様」


 馬を鎮めた男が領主を見る。領主は男が何を言いたいのか理解したように頷いた。


「行きなさい、チャーリー」

「はい」


 キングギデオンを落ち着かせた男はチャーリーというらしい。チャーリーは馬に乗ってアイリスに手をのばす。


「お嬢さん」


 どうやらアイリスを後ろに乗せるつもりのようだ。しかしアイリスは伸ばされた手をただ見つめ、覚悟を決めたのだった。


「大丈夫です。私は……走って着いて行きます」

「は?」

「何かあってもその方が対処しやすいですから」


 自分の足で走っていた方が不測の事態で攻撃されても避けることや反撃が容易いだろう。

 アイリスは手を合わせる。


「跳躍魔法発動。それと魔法強化・加速」


 アイリスの周りに一瞬髪の色と似た薄ピンク色の光が輝き、それはすぐに収まる。


「今のは…………」


 チャーリーは驚いた顔をする。


「移動系の魔法を強化したものです。これで私も馬と同等程度のスピードで走ることができます。……さあ、行きましょう」


 チャーリーは頷き、馬を一撫でした後、手綱を握った。そしてアイリスたちはクレアまで走るのだった。






 キングギデオンに乗るチャーリーは隣を走るアイリスを見る。アイリス自身は息を切らせることなく周りの木や障害物をなんなく避け、桜色の髪を風に靡かせながら横を走っていた。

 

「女の子が馬と並走している……」

「え?」

「いや……やっぱりお嬢さんも魔法師なんだな」

「はい」

「やっぱ魔法はすごいな。才能だ。俺にもそんな生まれ持った才能があれば山賊たちに怯えることのない生活が送れるのに」


 アイリスは黙ってチャーリーを見る。


「俺には才能がないから何もできない。あげくこんな女の子に頼ることになっちまって。……情けないったらないね」

「才能……魔法を才能だと考えているのですか?」

「ああ」

「……………………気が付いていますか? あなたも『才能』持っているのですよ」

「…………え?」


 驚いたように男はアイリスを見る。アイリスは一つ笑みをこぼす。


「馬。キングギデオンさんを落ち着かせていました。私にはできなかったことです」

「それは…………俺は昔からこいつらの世話をしていたから。慣れていただけさ」

「それですよ。『才能』」


 アイリスが何を言っているのか分からず、男は首をかしげる。


「昔からの継続的な…………努力の才能を」

「それは才能とは言わない。……ただの慣れだ」


 アイリスは優しく「いいえ」と言う。それはふざけているわけでもなんでもなかった。


「ただの慣れと言うのは簡単かもしれません。でも、辛いことだって大変なことだってたくさんあったと思います。だからこそ今までずっと試行錯誤してこのキングギデオンさんに向き合ってきたのではないでしょうか。それはあなたへの懐きっぷりをみればわかります」


 暴れた馬を落ち着かせること。それは誰しもができることではない。

 馬がどうすれば落ち着くのか。心がない『物』ではなく『生き物』だからこそ、対処法は馬ごとに違う。それを理解した上での対処。

 何より先程落ち着いた馬が申し訳なさそうにチャーリーへ顔を寄せていたことを思い出し、それは長年向き合ってきたことによる努力による信頼だった。


「チャーリーさんが根気強く向き合った結果なのですよ。きっと」

「俺が……」

「それに、外の世界に出て気が付いたんです。人間一人一人に違う才能があることを」

「違う……才能……」

「私はモニカさんのような美味しいスープは作れませんし、チャーリーさんみたいに馬を鎮めることはできません。…………そもそも魔法だって発現している人は希少ですけど、一定の訓練をしなければ使い物にはなりません」


 魔法が発言したとしても一定の訓練を積まなければならない。

 自分の魔法への適性を理解し、技術等様々な訓練を積まなければそれは魔法として成立しない。訓練を積まなければ魔法を使うのではなく、魔法に使われてしまうのだ。そして身に余った力は自分自身と他人を傷つける。だからこそ訓練が必要なのだ。


「あなたは先天的にできることを才能とおっしゃっていましたが、大切なのはきっと後天的なことですよ」


 笑顔でチャーリーに言うと、チャーリーも優しい笑みを浮かべた。


「確かにそうだな。結局は何をするか。だな」

「はい。それにまだあなたが魔法を使えないと言っていましたが、まだ分からないですよ」

「え……」

「可能性はゼロじゃない。だってあなたは生きているから。だから……たくさんの才能の可能性、自分で潰さないほうがきっといいと私は思います」


 生きている限り人は歩き続ける。今できないことでも未来ではできるようになっているかもしれない。それは生きているからこそだとアイリスは考える。


「……そうだな。お嬢さんの言う通りだ」

「はい。……あれ? あれは…………」


 ふと遠くに四頭の馬が走っている様子が見える。どうやら山賊に追いついたらしい。


「先回りします。チャーリーさんは気付かれないように距離をとりつつ着いてきてください」


 チャーリーが頷いたことを確認した後、アイリスはさらに速度を上げて道を逸れたのだった。


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