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11 王都流最先端の遊び

 クレアの領主たちを庇うように立っていたアイリスは山賊たちを見つめる。一方山賊も突然現れたアイリスに驚きながらも平静を装い、優しく声をかける。そこにはアイリスへの侮りがあった。


「何しているのかな? お嬢ちゃん。俺たちは忙しいんだよ」

「忙しい……? 一方的にそこの人たちに魔法を放とうとしていましたよね?」

「まだお子様にはわからないんだろうな。そうだな……俺達はこれから大人だけが知っている王都流の最先端な遊びをするんだ。お子様はお呼びじゃないんだ。さっさとどこかに行きな」


 アイリスを追い払おうとする山賊たち。どう考えても金目の物を持っていないと判断したからだ。

 人は着ている物でどのような身分なのかが分かる。

 一目で見るだけでもアイリスの身に着けている外套の素材が上質なものでないと判断し、本当に迷い込んだだけのように山賊たちは考えたのだった。

 つまり今のアイリスは山賊たちにとって邪魔な存在でしかない。


「王都流の最先端の遊び……? 私これから王都に行くんですけど、今時の最先端な遊び……そんなものが……」


 アイリスは今の状況を忘れて山賊が言った『最先端の遊び』という言葉に興味がわいてくる。


 いままでずっと山にいたアイリスは流行に疎い。それは山から出て自覚したことの一つだ。アイリスはここで一つの知識として知っておきたいという欲が出てきたのであった。

 ……状況を忘れて。


「娘さん! ここは危ない! 早く逃げなさい」


 アイリスが庇っている領主が焦って声をかける。


「でもこの人たちが王都流の最先端の遊びを教えてくれるって言っていますし……」

「いやだからそれは」


 領主が説明しようとしたその時、強い風が吹く。

 全員が目を閉じ、そしてようやく目を開けたとき領主も山賊もその目に映したのは桜色をした美しい髪と紫色の瞳を持つ少女だった。


「あ」


 アイリスもフードが外れてしまったことに気が付く。

 アイリスは外にいる間ずっとフードを深く被って自分の髪を隠していた。この国では桜色の美しい髪が珍しい為、山から出た直後から誘拐されたり、人身売買されそうになったりごろつきに絡まれたりしていた。

 つまりアイリスにとってこの髪は色々なトラブルを招く源という認識だ。だからこそ隠していたのだった。


(本当に……この髪は嫌だな)


 アイリスは視界に靡く髪へ咄嗟に手を触れながらも既にフードが外れてしまっている為諦めて手を離す。この場にいる全員の目に留まってしまえば今さら隠したところで意味はないからだ。アイリスは開き直ることにする。


 一方山賊たちはそんなアイリスの髪色と端正な顔立ちから目の色を変え、そんな山賊たちの様子にいち早く気が付いたのが領主だった。


「娘さん! 早く逃げなさい!」

「え?」

「いやいやお嬢ちゃん……違うね。お嬢さん。お嬢さんにはもっと別の『遊び』を教えてあげよう」


 山賊のうちの一人がアイリスに歩み寄ろうとする。


「いえ、さっきの王都流の最先端の遊びを教えていただければ十分なんですけれど……」

(王都流! 最先端!)


 冷静に言ったアイリスだったが、頭の中はずっと未知な流行にわくわくしていたのだった。


「娘さん!」


 領主がアイリスを庇うように前に出る。


「貴様らの目的はわしらのはずだ。こんな通りかかっただけの娘さんには関係ないだろう」

「俺はそこのお嬢さんと話しているんだ。お前は出てくるなよ」


 アイリスとの話を遮られた山賊はイライラしながら手を前にかざす。「領主様!」や「やめろ!」といった焦りを含んだ声が周りから上がる。


 山賊はイライラしながらも、ふと何かを閃いた顔をする。


「確かに暴れられても困るしな。恐怖で支配するのは効果的かもな……」


 ぼそっといった山賊の言葉はアイリスたちには届かない。


「お嬢ちゃん、見てろよ。これが王都流の遊びだ」


 山賊はニヤリと笑みを浮かべて魔法を領主に放つと、先ほどと同じ光が場を包む。そんな中アイリスは一人領主へ向かってくる魔法へ手を伸ばす。


「えい!」


 飛んできた魔法を思いっきり誰もいない地面にむけて叩くと、地面に強くめり込んだのだった。


「無属性の射撃系統……基礎攻撃魔法に類似するものでしょうか」


 冷静に今起こった魔法を分析するアイリス。基礎攻撃魔法とは無属性の魔法弾で射撃する魔法のことだ。しかし今回は魔法発動の光が眩しく一瞬光属性魔法の可能性を疑ったアイリスだったが、すぐにそうではないと確信する。

 

「あの眩しさの感じは光属性系統ではありませんね。ただ魔力を魔法へ完璧に変換できていないだけなのでしょう。魔法にならず放出された魔力が光になっているだけですね」


 相手の魔法を叩いた手をヒラヒラとする。片手で払える程度で、基礎攻撃魔法にすらなっておらず、その程度の魔法だった。完璧に魔力が魔法に変換されていたら威力はあがるだろう。


「お嬢ちゃん、まさか魔法師……いや、今のは素手だけ……? いや、そんなことはない! 俺の魔法が素手で……」

「娘さん……」


 混乱している山賊の男と驚いているクレアの領主。


「それで、今のが王都流の最先端の遊びなのですか?」

「………………」


 山賊の男は驚きのあまり声を失っている。


「やっぱり流行りにはついていけないみたいです……王都こわいですね……」

「………………このっ!」


 山賊は自分の魔法が素手で振り払われた事実から頭に血を上らせ、アイリスへ手をかざす。どうやら魔法を放つようだ。


(今みたいな魔法なら手で振り払える……だけどそれだけとは限らない……違う魔法が来る可能性の方が高い。なんとか後ろの人たちを巻き込まないように移動しないと…………)


 アイリスは前でも後ろでもなく右に走ると山賊の男も手をアイリスと同じ方角へ動かした。

 その様子を確認すると、アイリスは前に走り出して距離を詰める。


「この女……!」


 山賊の男が先ほどの魔法のようなものを放つ。それを後ろに巻き込む人がいないか確認した後ひとつひとつ避けていく。

 他の山賊は魔法を使えないのか使わないのか、魔法を使わず素手や武器を使って襲ってくるが、それをすばやく器用な動きで避ける。

 武器を持っている相手は素手で手首をねらって武器を落とさせ、素手で襲ってくる人は背負い投げをした。


「えい!」


 そして最後の仕上げとばかりに魔法を避けて山賊の魔法師を背負い投げたのだった。


「ふう」


 パンパンと手の埃を払うように叩き、周りを見渡す。そこには襲ってきた山賊が全員目を回して倒れていた。


「娘さん……」


 心配と驚きがどちらもある様子の領主は恐る恐る声をかける。


「あ! おじいちゃん大丈夫ですか? とりあえずこの人たちしばらく起きないと思うので早く立ち去った方がいいですよ。それじゃあ私用事がありますので」


 ぺこりとお辞儀をして周りを見渡す。


「用事? この辺りは物騒だぞ」

「そうみたいですね。でも私ランタンを取りに出かけた領主様たちを迎えに行かないといけないので」

「…………娘さん……それはわしらのことだ」

「え? クレアの領主様……?」


 アイリスからしたら領主たちを探しに来たついでに絡まれていたご老人を助けたに過ぎなかったのだ。

 

「じゃあ助けって……この女の子か!?」


 領主の周りにいた人々は顔を真っ青にさせる。

 見た目はただの十代の少女で、頼りなく映ったのだろう。


「いや、それでもあの山賊を倒すくらい強いし……」


 人々は周りを見渡し、見た目と実際の違いに驚き混乱する。

 目の前の端正な顔と綺麗な髪色を持った華奢な少女が、見た目と異なり魔法を使った様子もなく素手だけで制圧したからだ。


「娘さん、貴女は一体……」


 領主がアイリスに聞こうとしたが、遠くから人間ではない地面を駆ける音が聞こえて来た為、全員が意識をそちらに向ける。

 アイリスは人々を庇うように咄嗟に前へ出るが何を察したのか人々たちは明るい顔でその音のもとへ走りだしたのだった。


「キングギデオン!」


 なぜかとてもかっこいい単語を発しながら。

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