10 古典的は意外と有効です
襲われたクレアの人々は森の中で周りに注意を向けていた。
「助けは本当に来てくれるのかな」
「弱気になるでない! それでもやらねばならないんだ。今は時を待つしかない」
ビクビクしながら周りを見渡すクレアの人々に領主は叱咤した。
そしてその時はあっさり来た。
「なんだこれは!」
「うわあああ!」
「なんで上から丸太が降ってくるんだ!」
遠い場所から男たちの悲鳴が聞こえてくる。そしてその声に覚えがあるのだった。
「領主様……」
「ああ。はじまったようだな。…………最悪な方向に」
山賊は散々な目にあっていた。
頭上から丸太が降ってきたと思い、何とか避けることに成功しても今度は死角から丸太が飛んでくる。それをよけたら地面にツタが巻き付けてあり、そろって転んだ。
「いってえ! やっぱりあいつ待った方がよかったんじゃねえか?」
「そう言っている間にも時間がたっちまうだろう! 俺たちなら余裕……だ!」
今度は網に足元を掬われるが、山賊の一人が魔法で網を吹き飛ばす。
ここまで案内した『あいつ』はこの罠にいち早く気が付き、罠のない迂回ルートを探しに行ったのだった。
そして『あいつ』は仲間の山賊たちへここにいるよう伝えたが、山賊は待ちきれず動き出してしまったのだった。
「ったくこんな古典的な罠に引っかかるかよ!」
段々罠に慣れてきた山賊たちは魔法を駆使しながら迷いなく進んでいた。進む方角に蔓延る罠。何もないところに罠はない。だからこそ進んだ先に必ずクレアの人々がいる。そんな確信があったのだ。
そしてその確信は現実となった。
「帰れ! 一体俺たちがお前らに何をしたっていうんだ!」
クレアの人々が前に出て領主を庇うようにしてから山賊に叫ぶ。
「何をだと? 俺たちは気に入らないだけだ。お前たちは『力』がないくせに俺たちよりも豊かに暮らしていることが!」
山賊の一人が手を前に掲げるとそこから歪な丸い何かが出現して人々の足元へ一直線に放たれた。
「うわああああ!」
人々は驚きのあまり尻もちをつく。それを見て大笑いをする山賊たち。どうやらさきほど放たれたものは魔法のようだ。
「さあお前らの残りのランタンを渡せ。こんなことをしている暇はないんだ」
「暇だと……? お前たちの目的はなんだ」
庇われていた領主が前に出る。
「目的だと……? それはあの町を支配することだ!」
「おい、そんなこと言っていいのかよ……」
「いくらこいつがクレアの領主だとしても単なる老人だ。ここで消えてもらう。何も問題ないだろう」
ニヤリと笑った山賊に人々は震える。それでも目的を案外あっさり言った山賊たち。目的を知ることができれば打開の手は生まれる。
「クレアを支配だなんてやめておけ。あの町には様々な考えや境遇をもった者がいる。そんな者たちをお前らごとき小童が支配できるなんて思うなよ」
「こいつ……!」
山賊は激怒しながら手を前に掲げる。今度は地面へではない。その手の先には領主がいた。
「領主様!」
「庇うでない。ここで私は奴らを止める義務がある。クレアの領主として」
庇おうとする人々に制止を促しながらも山賊を強い眼差しで見つめる。
「その目……癪に障るんだよ!」
山賊から放たれた魔法が領主めがけて放たれる。
「領主様!」
叫び声と魔法による輝きがあたりを包み込んだのだった。
「ふう……間一髪……危なかったです」
領主はゆっくりと目を開ける。
そこには自分を庇おうとしていたクレアの人々と、それすらも庇うように前へ立っている外套を深く被った華奢な人間……声の高さからして少女が立っていた。
「こんな優しそうなおじいちゃんに手を挙げるなんて……人として最低です」
ぴりぴりした雰囲気を無邪気に一掃した少女がそこにいた。
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