0 その表情が、忘れられない
(どうして)
視界が開けた時、取り返しがつかない悲劇に少女はただ絶望することしかできなかった。
煌びやかな部屋の中、目の前の黒い髪とグレーの瞳を持つ男が剣を少女へ向ける。
(私……殺される……なんで……)
「命を賭してもこの罪は償えないと思え」
男の冷たい声が響く。
(罪……? 私が一体何をしたの……?)
反論したくとも恐怖のせいなのか声が出ない。しかしそれもそのはずだ。目の前の男の憎悪に満ちた瞳と殺気が少女に注がれていたからだ。この瞳を見て少女は気がつく。
(ああ……また私はこの夢を視ているんだ)
少女は漸く目の前に起こっていることを夢だと確信する。
(そしてこの後のことも知ってる。私はこの人に…………殺されるんだ)
予想通り剣が少女の胸を貫く。
そして気がついた時には場面が変わっている。この夢はいつもこの流れだ。
(これは私が死んだ後の世界だ……)
自分は既に死んでいる。この夢は自分が命を落とした後に起こる世界の状況のようなものを視ることができる。どうしてなのかは分からないが、必ずいつもこの流れだ。
そして内容もいつも同じだ。少女を貫いた男は世界に悲劇をもたらすというものだ。少女の命を奪った男は時に王族を殺して玉座に座る。たてつく民は粛清する。結果、平和だったこの国に戦争やクーデターが頻発し、人々は争いの渦中に投げ出される。
荒廃したこの国で人々が嘆き悲しむ。争いだけではない。飢餓や疫病が流行し、この国だけではなく、世界すら滅びかけていた。たった一人の男のせいで。
その男は憎悪や悲しみ、溢れかえるような負の感情を浮かべた瞳で滅びゆく世界を見下ろしている。
「…………………………ごめん」
(なんでそんな顔をするんどろう……私を殺して世界を滅ぼす張本人の貴方が)
男の暗い表情がなぜだかずっと忘れられない。