第8話(3)最大の槌
「大事なお話があります。東校舎の空き教室まで来てください……っと」
美蘭がメッセージを送信する。
(さて、来るかしら……?)
「……お~い」
廊下から雄大ののんびりとした声が聞こえてくる。
「……こちらです」
美蘭が反応する。
「ああ、お待たせ……」
「いえ、こちらも突然お呼び出ししてごめんなさい」
空き教室に入ってきた雄大に対して、美蘭は頭を下げる。
「いやいや、それは全然大丈夫なんだけれども……」
雄大が笑顔で手を左右に振る。
「そう、それなら良かった……」
「……で、大事なお話ってのはなんだい?」
雄大が尋ねる。
「……生徒会の広報活動にご協力をお願いしたくて……」
「広報活動?」
「ええ、ユーブロード配信よ」
雄大が頷く。
「ああ、アイちゃんが出ているやつか」
「ええ」
「……しかし、あんなカワイイ娘、どこから見つけてきたんだい?」
「ちょっとしたツテがあって……」
首を捻る雄大を見て、美蘭は笑みを浮かべて答える。
「へえ、ツテね……」
「まあ、それはともかく……配信する動画の種類をもっと増やしたいと思っていてね。速人君にも色々とやってもらっているのだけれども……」
「ああ、NTRだっけ?」
「RTAね」
「あ、それそれ……うん? まさか……」
「そのまさかよ。黄田谷雄大さん、貴方にチャンネル出演を依頼します」
「え~オイラには向いてないと思うけどな~」
雄大が鼻の頭をポリポリとかく。
「……貴方にピッタリの企画があるの」
「え?」
再度首を捻る雄大に対して美蘭はニヤリと笑う。
「見たか? 生徒会のユーブロードチャンネル?」
「見た見た!」
「しかし、たまに学食で見かけたりしたけど、あらためて動画で見るとすげえよな……あの大食いっぷりは」
「皿の上に山盛りになった料理がほぼ一瞬で消えたのはビビったぜ」
「外国人が『どうせAIだろう?』みたいなコメントしてたな」
「そう思うのも無理はねえけどな」
「……海外にも届くとは……想定以上の反響ね……」
ワーワーと騒ぐ男子生徒たちを横目にしながら、美蘭が空き教室に入る。
「亜久野さん!」
白いタンクトップに短パン姿の雄大がそこにいた。
「今日もまたノリノリね……」
「そりゃあもう! 旨いものを腹いっぱい食えるからね~。それで? 今日は何を食べれば良いんだ?」
「そうね、定番のメニューは大体食べ尽くしたし……」
美蘭が顎に手を添えて考え込む。
「確かに……」
「まあ、ひとつ思いついたのだけど……」
「なんだい?」
「……ブタの丸焼きよ」
「ぶ、ブタの丸焼き⁉」
「……共喰いという形になるけれど良いかしら?」
「と、共喰い⁉」
雄大が面食らう。
「……言葉責めはお嫌い?」
美蘭が悪戯っぽく微笑む。
「い、いや……な、なんか、ゾクッとした……」
雄大が笑みを浮かべる。
「……ただ食べるだけじゃあ、撮れ高が少ないかしらね」
「ん?」
雄大が首を傾げる。
「野生のブタを捕まえるところからやってもらおうかしら」
「ええっ⁉」
「チャレンジしてみない?」
「い、いや、この辺にいるのかな? ……!」
ブザーが鳴り響く。
「体育館に悪の組織が侵入⁉」
「ちょっくら行ってくる~!」
雄大が空き教室を飛び出す。
「……仏の顔も三度まで……この学院を制圧する!」
「ははっ! ハチ怪人さま!」
再び蘇ったハチ怪人の号令に戦闘員たちが答える。
「待てえ~い!」
「うん? なんだ?」
「『セイバーチェンジ』!」
雄大が左腕に着けた腕時計を操作すると、黄色の眩い光に包まれ、ヒーローの姿になる。
「き、貴様は⁉」
「『大きな心で悪を圧倒!』 最大の戦士、イエローセイバ―、大らかに参上!」
「イ、イエローセイバー⁉ ベストセイバーズは最近活動していなかったはずだが……」
「ど、どうしますか⁉ ハチ怪人さま!」
「ええい、気圧されるな! やってしまえ!」
「はっ!」
戦闘員たちがイエローセイバーに襲いかかる。
「喰らえ、『大の槌』!」
「ぐわあっ!」
イエローセイバーが大きな槌を地面に叩き付けて、群がる戦闘員たちを弾き飛ばす。
「何⁉ な、なんという大きさ! そんなものを軽々と振り回すとは……!」
「伊達に大食いはしてないよ~!」
「む、むう……」
「隙有り!」
「はっ⁉」
「どおりゃあ!」
イエローセイバーが大槌をハチ怪人の体にぶつける。
「ぐわあっ!」
ハチ怪人は爆散した。駆け付けた美蘭が声をかける。
「やったわね!」
「はは、ざっとこんなもんさ~」
「……」
「うん?」
「野性のブタと言わず、野性のクマ……行ってみない?」
「え? またハードルが上がったな~」
美蘭の提案にイエローセイバーは苦笑気味に応えるのであった。
お読み頂いてありがとうございます。
感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしています。




