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第1話(1)通学

昨夜は別の作品のエピソードを間違って投稿してしまいました。

こちらが続きとなります。

混乱させてしまい、申し訳ありません。

今後はこのようなことが無いように気を付けます。

                  1

「……いきなりしくじった!」

 おろしたての制服――上半身はブレザー、下半身はスカート――に身を包んだ、若い女性がこれもまた新品のローファーを履いて、歩道を慌てて走る。

「まさか目覚ましのアラームをセットし忘れるなんて!」

 綺麗な黒髪をなびかせながら、女性が顔をしかめる。それによって少々歪んでしまっても、なおも綺麗な顔立ちをしている。すれ違う人が思わず振り返るほどの美貌だ。ただ、この場合は違う意味で振り返っているのだが。女性は声を上げる。

「このミスコンプリート! 完全なるミス!」

 そう、この女性の正体は悪の組織に所属する女幹部、『ミスコンプリート』である。若手のホープとして順調に出世し、まだ末席ではあるものの、組織の幹部にその名を連ねている。運動能力は一般人に比べると高いため、同世代の女性と比べてもかなりの俊足だ。すれ違う人々が振り返ったのはその為である。

 ちなみにミスコンプリートというのは、コードネームのようなものだ。彼女の『完全な、完璧な』仕事ぶりから付いた名前である。彼女自身もこの名を気に入っていた。ただ、その名に似合わぬ、初歩的なミスを犯してしまっているのだが……。

「……はっ! いやいや、私としたことが……」

 ミスコンプリートは走りながら首を左右に振る。

「今の私は一般人だ。一般社会に自然に溶け込むように振る舞わなければ……」

 ミスコンプリートはそう呟いてから考える。

「……はて? どう振る舞えばいいのかしら?」

 ミスコンプリートは首を傾げる。

「う~ん……」

 ミスコンプリートは考えを巡らせる。

「……そうだ! あれだわ!」

 ミスコンプリートは何かを思い出す。

「これを口にくわえて……」

 ミスコンプリートは肩にかけていたカバンからトーストを取り出し、口にくわえる。

「さらに……ああ、思い出した!」

 ミスコンプリートは続けて思い出す。

「いっけな~い、遅刻、遅刻~!」

 ミスコンプリートは、令和の時代とは思えない口調のセリフを口に出してしまう。

「ふっ、これで完璧ね、完全に周りに溶け込んでいるわ。さすが私……」

 自画自賛をするミスコンプリート。完全に浮いてしまっているのだが。

「……はっ⁉」

 勢いをつけ過ぎたミスコンプリートが、曲がり角で人とぶつかってしまう。

「うおっ!」

「きゃあっ⁉」

 ミスコンプリートは派手に尻もちをついてしまう。ぶつかった相手も体勢を崩して、ミスコンプリートと同じ様に尻もちをつく。

「……」

「ちょ、ちょっと、あなた!」

「お、俺が吹き飛ばされただと……?」

 尻もちをついた人物が信じられないといった様子で呟く。その人物は男性だ。まだ少年と言っても良いかもしれない。さほど大柄ではないが、体つき自体はほどよく引き締まっている。その少年は少しボサっとした真っ赤な髪と意思の強そうな眼が印象的であった。

「あ、あなた! 聞いているの⁉」

「……え?」

 少年は体勢を立て直しながら、ミスコンプリートの方に視線を向ける。

「え?じゃないわよ! どこを見て歩いているのよ⁉」

「……それはお互いさまだろうが」

「はあっ⁉ まさか、この完璧な私のせいだと言うの⁉」

「なにが完璧だよ……むっ⁉」

「え? ……はっ⁉」

 少年の視線の先をたどったミスコンプリートは自分のスカートの中身がすっかりあらわになってしまっていることに気が付き、慌ててそれを隠す。少年が呟く。

「く、黒……」

「~~! どこを見ているのよ! エッチ!」

「どわっ⁉」

 体勢を立て直したミスコンプリートが鋭く強烈なビンタを少年の左頬にお見舞いする。

「まったく! 警察にでも突き出してやりたいところだけれど、わたし、今急いでいるから! 運が良かったわね!」

 スタっと立ち上がったミスコンプリートがその場をさっさと後にする。

「ぶ、ぶたれた……?」

 少年は左頬を抑えながら呆然と呟く。それから少し時間が経って……。

「……はい、皆さん、お静かに……少し時期が外れましたが、今日からこのクラスに転入生が一人加わります。皆さん、どうぞ仲良くしてあげてください。それでは自己紹介を……」

 促されたミスコンプリートが前に進み出て、口を開く。

「皆さん、初めまして。亜久野美蘭(あくのみらん)と申します。よろしくお願いします……」

 亜久野美蘭と名乗った、ミスコンプリートが丁寧に頭を下げる。そう、彼女は今日から悪の組織の女幹部から女子高生になるのである。

お読み頂いてありがとうございます。

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