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森での採集ー①

 「さて、皆も良く分かっていると思うが森の奥には行っちゃ駄目だからな。年上の子は下の面倒をちゃんと見るんだぞ~、いいな~わかったら行ってよし」


 モルトさんは学校の先生っぽくざっと彼等を振り分けた。一丁前の班別だ。

 

 (わお、めっちゃ手慣れてる~)

 

 手際のいい仕分けを披露してくれたモルトさんは残り滓っぽい私達チビッ子を集めて「よ~し、今から俺達は食べられる野草と木の実を集めるぞ、一人になるなよ~」と、どうやら私達の面倒を見る気でいる。お兄ちゃん気質なんだ。


 (ふふふ、やっと私の出番だね! いいとこ見せちゃうから!)


 私は前世で覚えた山菜の知識を披露する時が来たとやる気に満ちていた。木の実はコケモモぐらいだけどなんとかなると思っていた。そう、実際に採集するまでは何とかなると思っていたのだ‥‥‥




 「あ、アイナちゃん、それは違うよ。野草っぽく見えるけどそれ雑草だよ」

  …‥ヨモギモドキ。

 「わ、アイナちゃん、それどこで見つけて来たの? 毒のあるキノコだよ」

 ‥…大き過ぎるつくし。

 「‥…‥アイナちゃん遊んじゃダメだよ」

 ‥…わらびっぽい何か、よく見ようと上に掲げただけなのに。


 (お、おかしい! なんでこうなるの!? 私の計画ではざっくざっく春の幸を採りまくってチビッ子達に羨望の眼差しを受けるはずが…はっ! そうだここは日本でなかった! 外国の山草なんて知らないよーーーー!)


 計画が‥…自分の価値を示す案が功を成さない。

 

 (わ、私…‥採集に来ても役立たずなのーーーー!)


 人気取りの採集をするつもりはないが、せめて話せたらと思っていた。だが全く話せる気がしない。チビッ子から遠巻きで見られているのだ。視線が刺さる。

 

 (この場にいる誰よりも年上な私が一番足を引っ張ってるじゃない)


 ガックリ項垂れた私をモルトさんが「そう落ち込むなよ、俺がちゃんと教えてやるから」パチン(^_-)とウインク。落ち零れな私を引き受けてくれる。


 (おおおーーーイ、イケメン‥‥イケメンがここにいた)


 茶髪に薄い茶の瞳の没個性的な顔立ちなのに、今、めっちゃイケメンに見える。中身が。

 面倒見が良くて優しくていい人っぽい彼が彼女に振られた過去を引き摺っているのは残念だなとこっそり思う。道中、故郷に帰る際に結婚を申し込んだら振られたんだと遠い目で教えてくれた。(モルトさん、どんまい)


 

 私は採集レッスンの申し出を快く受けることにした。知らないなら教わればいいだけだもんね。 ふふ、まだまだ挽回のチャンスはあるよ。



 チビッ子達も交えつつ、どれが食用でどんな特徴があるかを丁寧に教えてくれる。本当に子供の世話が苦にならないのが分かる。それに先生っぽい。アイナも真面目に野草を眺める。

  

 (ふへー、似て非なるだね、ここは)


 脳内に新たな情報をガリガリ刻んでいく。どうやらアイナの記憶力はいい。一度で覚えられるのだ。愛奈との違いが早速見つかった。

 

 

 

 野草の採集をある程度、終わらせたらモルトさんが「この時期ならベリーが採れるな、甘くて美味しいぞ」とプチ情報をくれた。

 

 (えっ? ベリー? ストロベリー? 何?)


 キョトンと呆けていたらモルトさん、沢山採るぞとニッコリ笑顔。すみませんお世話になります。


 まだ私達のいる場所は森の手前、少し中に入れば生えているそうだ。歩きながらモルトさんはどの辺にあるのか教えてくれる。気分は引率の先生と課外授業を受ける生徒だ。


 「その木の下を見てご覧、ほらこれがベリーだよ」


 そう言って見せてくれたのはワイルドベリー? 

 ちょっと大きいから別種類かな、赤い実が美味しそうなベリーだった。

 

 「ほら、味見」

 

 モルトさんから差し出されたベリーを一口、洗ってないけど気にしたら負けなやつだと思うことにして頂いた。他の子供達も嬉しそうに食べている。


 (ぐふぇ‥‥‥す、すっぱ)


 甘くないんですけどこれ、酸っぱいなぁと口から吐き出したいのを我慢する。他の子は美味しい、甘い、と大喜びだ。


 (はぇ? 私の味覚が狂った? 孤児院食の弊害?)

 

 皆と味覚の違いに唖然としたアイナ。そこはモルトが「アイナちゃんはもしかしたらもっと甘い味を知っているのかもね」とフォローしてくれた。

 

 (ああ、確かにそうかも。砂糖や人工甘味料を知っていたらこのベリーを甘いとは、どちらかと言うと甘酸っぱい? だよね)


 ちゃんとした甘さが欲しくなってしまった。これはこれでいけるかもと思い直したがもう少し完熟したら甘くなるかも? と首を捻る。

 

 皆は一生懸命捥ぎ取っているのだが、いかせんチビッ子の手だ、まどろっこしい。


 どうにも羨望の眼差しを受けるには‥‥‥遠いね。


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