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異界ー1

ようやく投稿出来ました。

 

(あれ、ここどこだろ? )


 フッと意識が浮上し目を開けると知らない場所だった。

 ああまたこのシチュと、既視感に慣れたきって声も出ない。

 ヤレヤレと身体を起こそうとして、違和感に気付いた。何やら随分と硬い上で寝ているなあと手で探れば、驚くことにそこは床。御影石のようで、おまけに何か細かい模様が描かれている。が、床に間違いない。


(へ? うそ、床の上で直に寝てたの? え、なんで?)


 自分の置かれた状況に思い巡らせても理解できず戸惑う。確かに王都に向うと言われ連れ立ったはず。それが、こうして床の上に転がされて放置である。


(え‥‥と、信じられないけど、もしかして私、捨てられた?)


 どっかの男に捨てられたっぽいセリフを呟いて、やだなと苦い顔をした。


「うそよね…‥」

「…‥やっと起きたか」

「はぅ!」


 突然、背後から嫌悪に塗れた低い声を掛けられビクッ!と身体が跳ねる。驚かさないで欲しい。


(うそ、誰かいた!)


 人気のない場所に捨てられ、一人きりだと誤解していたアイナは、飛び上がりそうなほど驚いた。まさか人がいたなんてと内心ドキドキである。それでもと、恐る恐る振り返るとそこには見慣れたおじさん二人。物凄く不機嫌な顔の髭オジでも、何故かホッとした。どうやら一瞬でも庇護を失った恐怖を味わい息を詰めていたらしい。良かった、口に出せない安堵を、うん、と飲み込み、ああそうだと現実を思い出す。


(この大人達、子供を直に床に転がしていたよね)


「どこか痛いとか具合が悪いとか、身体は大丈夫か?」


 視線を合わすようにしゃがみこんだクルクカーンに気遣かわれ、扱いの酷さを詰る気持ちが霧消した。


(わっ! 領主様ってこんなにかっこよかったんだ)


 至近距離で顔を見たのは始めて。翡翠色の瞳が心配の色を帯び、不敬にもキレイだなと見入った。


「…‥どうかしたか?」


 心配そうな美形って、憂いを帯びて色気あるよねーと幼児が決して口にしてはいけない感想を慌てて振り払う。恥ずかしすぎて慌てて誤魔化した。


「大丈夫です。ご心配をおかけしました。えぇと、あの、もう王都に着いちゃたんですか? 本当に近いんですね。あっと言う間で驚きです」


 床の上に転がされていた事実が、どこかに飛んで行った。

 イケメン最強。


「あ″?」


 ニマニマと悦に入ったアイナを見たラグザスはこの非常時に何を呑気にと、不機嫌な声色と共に頭頂部を鷲掴みする。大人気ない八つ当たりだ。


(イタイ! ここに幼児を虐めるオジサンがいます!)





 頭を擦るアイナを余所に、二人は頭を悩ましていた。


「それにしても、この場所は一体どこであろうな。ラグザスは知っているのか?」

「さあ、俺も初めてだ。だが、どうやら俺達は招かれたみたいだな」


 ラグザスの雰囲気から、この場がどこか見当をつけていそうだとクルクカーンは目を細める。憶測でモノを言うつもりがないのだろうと思うも彼の苛立った態度に、良からぬ現象かと不安が募るクルクカーン。

 明かに宜しくない表情の二人を見てハッと何かに気づいたアイナ。もしや、まさか、と恐る恐る尋ねる。


「あの、所在地がわからないって、もしかして、迷子ですか? だったら来た道を引き返せば」


 大の大人が―――。

 言葉を言い終わる前に、グーでグリグリと頭頂部を弄られた。


(イタタタ! 酷くない?!)




 暴力に訴える髭オジは碌でもない奴と内心でブチブチ呟くアイナも、不機嫌なラグザスに、


「‥‥道がないんだよ」

「…‥‥なんだか人生に行き詰った人のセリフ‥‥あ、なんでもないです」


 どうやら違ったみたい。睨まれた。何でよ。


「我等は転移門を使うために、確かに転移陣の上に立っていた。だが私は発動させておらぬ。誤作動を起こすとしても魔力を供給していなければ発動などしない。…‥何故発動した」


 クルクカーンも状況が掴めず困惑したのか、自分に言い聞かすように話し出した。その様を見れば、充分困惑しているのが伝わってきた。


(なんてこと! 常識人と思っていた領主様もファンタジー界の住人だったとは!)


 戦慄とはこの事か。アイナは思わぬ体験に感慨深く、そして緊張の場面に趣味全開のクルクカーンは残念なイケメンだったと評価をこっそり下げた。個人の趣味をどうこう言う気はないがせめて時と場所を選んで欲しかった。溜息でそう。


「クソガキ、また下らんことを考えてやがるな」


 髭オジは、ガキは呑気でいいよなと呆れていた。





 道がない=後がない。そう受け取ったのだが違ったみたいと、へらっと笑うと呆れた顔の髭オジはいいから表を見ろと手招ねく。言われるがまま建物を出るとそこは…‥。


「ふぇ?! な、なんですかここ?!」


 目に入ったのは水平線。

 どう見たって、どこを見たって、黒い水面しかない。しかも曇り空。

 黒と灰色の世界だった。


(何だか如何にもって感じだよねー)


「見えるのはこの建物だけだ。この建物をグルっと回っても同じ景色しか見えぬ。小島に建つ廃屋しかないのだ。‥‥小島から陸地に続く道はない。やはり、転移門でしか移動できぬか」


 二人はアイナより先にこの景色を見ていたのだろう。クルクカーンはアイナに現状を教えつつ、転移門でしか移動できない場所が国内にどれだけあったかと思索する。


 アイナはこの光景を世界の絶境スポットみたいだなーと、前世の記憶が刺激されていた。

 自分達のいた建物の外観は、廃教会っぽい。よくこんな如何にも的な場所があったものだとワクワクした。

 これ、夜なら心霊スポットもってこいの場所だわと、うきうきしちゃう。パワースポット大好きアイナは意外と心霊スポットもいける口だ。


 景観全てがアイナの琴線に触れた。



 そのアイナと対照的なのがラグザス。

 食い入るように見入ったかと思えば顔を顰めた。その有様は、見たくないと拒絶するかのよう。

 クルクカーンは彼の異変に気付き、黙って様子を伺う。

 その顔には怒りと悲しみが満ちていた。この場所は彼に忘れていた遠い過去を思い出させたのだ。


 クルクカーンはやはりラグザスはこの場所を知っていたかと勘付いた。だが、強い拒否感に苛まれた友を想うと追及できないでいた。いつもの彼なら軽口叩いて打ち明けそうなものを、どこかもどかしく感じた。



 そしてクルクカーンは、もう一人、異変を感じた幼子に意識を向けた。

 泣き喚かず冷静に周囲を見分する幼児を奇異だと警戒した。

 この国では、行商人や旅人でもない限り普通は生まれた街から外に出ることはない。外の世界を知らないまま生を終わらせる。このように突如見知らぬ場所に連れて来られれば不安で泣いたり、もしくは、物珍しさで燥ぐもの。例え、貴族の子であってもこの幼さであれば泣き騒ぐ。


「この場所って、水没した街っぽく見えますね。それと、陸地に繋がる道が見えないのは、満ち潮だからじゃないですか? そのうち海水が引けて道が出てくると思いますよ?」


 アイナは潮汐現象だろうと、至って冷静。

 だが、今のアイナは幼女である。幼女が大人に対する物言いではない。


 はたして‥‥。このように状況を分析する幼女がいるかと、クルクカーンはアイナの異常性に気がついて、身震いした。得体のしれないモノを見る目を向けてしまったが、努めて明るく振る舞う姿に、現状が理解できていない?とも思う。どちらにしろ変な子だと結論付けた。




 アイナは前世、写真で見た廃墟の中にダム建設で沈んだ街があったなーと記憶を探っただけだったが、それを知る者はいない。領主のクルクカーンにまで変な子認定されたとは知らないアイナはへらへらしてる。










「この場所は…‥俺の生まれ故郷に似ている」



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