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二度目の測定

「ガキンチョ、どうだ調子は?」


ノックなしとは。部屋に入る髭オジはマナーを知らんのか。呆れ口調でアイナは窘める。


「もう、ノックしないのは、マナー違反ですよ? いい大人なんですからね」

「けっ、ガキが生意気言うなって。で、どうだ?」

「は~、大丈夫ですよ? ほらっ」


起き上がって、元気アピール。


「おう、調子良さそうだな。今日は診察の後、魔力鑑定をするぞ。後は、身体を動かしてみて異変がなければ、普通の生活に戻ってよし」

「おおぅ~やったーーー!」


鼻血ぶー事件が、どうやら大人達のトラウマになったみたいで、アイナが動き回るのを良しとしなかったのだ。髭オジのドクターストップもあったけれど。


退屈から解放されると聞いたアイナのテンションは上がる。ちょっと倒れる手前まで高まっていた。


「おーい、クソガキ。あんま興奮すっと、倒れるぞ? ちっとは大人しくしとけや」

「おおぅ…‥」


最もなご意見いただきました。




人生二度目の魔力?測定。何故、彼等は魔力って恥ずかしげもなく言えるのか。聞き返すのも恥ずかしい。幼児だからしれっと、『なにそれー』って聞けばいいのに。自分の羞恥心が恨めしいと嘆くアイナである。

ここは社会人スキルで華麗にスルーか。開き直りも大切なのだ。


(何だかよくわからないけど、この地方の独特な言い表しだと思えば、自分だったら言えないけどね)


中二病的発言をものともしない髭オジに、生暖かい視線を向ける。


「クソガキ、禄でもねえこと考えてんじゃねえよ」


生暖かい視線がお気に召さなかったのか、半眼で見下ろされた。柄の悪さが増したよ、ヒャー。



卓上のお盆を覗き込むと水が張ってあるのか水面が揺らいでキラキラ光が反射している。その様子をいつまでも見ていたくなるのだが、短気な髭オジの手前急ごう。素直に手を触れた。


(二度目は妙にこなれた感じがでるよね)


何となく偉そうなアイナだ。



手を触れて直ぐに水面が虹色に光った。虹色に光るのは前回と一緒だが、ちょっとテカリ具合が強くないかと、目を擦るアイナ。


「ちっ、クソ!」


(えっ? えっ? なになにそのリアクション! ちょっと髭オジ、舌打ちって!)


お盆を見下ろしていた髭オジの反応に不安になる。それは問題が生じた場合の態度ではないだろうか。状況を理解できていないアイナは、戸惑う。一回目と違った反応。アイナのちっこいちっこい心臓はバクバクと波打つ。





(ひぇ、何か不味った!?)


恐ろしくて、結果を聞くのが怖い。でも知りたい。複雑な乙女の心で髭オジに恐る恐ると視線を向け、言葉を待つ。

ものすごーく、嫌そうな顔で、頭をガシガシっと掻き毟った髭オジは、深い、ふっかーい溜息を吐いて、気を紛らした。


「あーー、そんな不安げな顔すんじゃねえよ。大丈夫だ。…‥ちょっと想像以上に魔力が増えてただけだ」


(はぁ!? なにそれ!?)






領主夫人襲撃事件から数日。予期せぬ変化が邸内を襲う。


「ご当主様、今までお世話になりました‥‥」

「ああ、君も今までよく頑張ってくれた。これは退職金と紹介状だ。次の職場も励みなさい」


そう挨拶を述べた使用人は、去り際に何度も何度も頭を下げ、申し訳なさそうにこの邸を出て行った。

かれこれ、何人目だと、やり切れない溜息を吐く領主。長年雇用してきた使用人達に落ち度はない。ないのだが、領主邸で働く者としては、忠義心に欠ける者達。


(咎めてはいけない‥‥のだが)


やる瀬ない。主従関係の脆弱さに情けなさが込み上げる。


「はぁ…‥まさか、この非常時に長年仕えてくれた者達に、逃げられるとは」


3年前の災害の復興も思うように進んでいないのに、今回の事件。新たな災厄を招かなかったのは、ただの運だ。ラウル魔導士の不手際で計画は破綻。単なる自爆である。


アレ(アデレード)を間近で見た者はショックが大きかろうと、領主は胸の中で謝罪した。





「よお、悪いな仕事中に」


悪いと言いながら、まったく悪いと思っていない顔の導師が、領主のいる執務室にやってきた。


「いや、構わないよ。丁度、休憩をしようと考えていた」


領主は、書き上げの途中の手を止め、導師にソファーに座るよう促す。目配せで部下たちを退室させお茶の用意を頼んだ。


「で? お前がこうして来るのは、何か緊急を要するからだろ」

「ああ。すまねえな、人払いまでさせちまって。実は、ガキンチョの魔力測定をしたんだが、結果がなぁ。あいつ、まだあんなチビなのに。三か月前の測定も、チビの割に中級程度の魔力で多かったんだが。それで俺が弟子にしたわけだが…‥」


歯切れが悪い。導師の様子で領主は望まぬ結果だったのかと、表情を曇らす。


「あーーーー、全属性の上に魔力が王族なみだ」

「は?」


(聞き間違いか? 王族がどうとか、私の幼少時の魔力量を知りたいのか?)


思考が上手く働かない領主を置いて、意を決したかのように導師は、言葉を続ける。ぶちまけりゃ、俺の気が軽くなると、面倒事を押し付ける予定の導師は半ばヤケクソ気味だ。


「チビサイズで上級魔力量、王族と並列だ。もし、このまま成長を遂げれば、魔力量も‥‥恐らく王様、超えるぞ? どうする?」


どうだ! と言わんばかりに、ニヤリと笑う導師の顔は‥‥最凶最悪。


「なっ!! それは、誠か!! 冗談では済まないぞ!」

「フン! 俺がその手の冗談言うかっての。本当だ、神官も見ていた。あっ、神官には守秘契約魔法を使ったから話が漏れることはない。安心しろ」

「!!」


驚き過ぎて、一瞬、呼吸を忘れた。だが、ニヤニヤ笑う導師を見て、事態が予想を超えすぎだと頭を抱えたくなった。厄災レベルの厄介ごとを押し付けてにきて、どこに安心要素があるのかと、導師の悪人面を殴りたくなる。


(…‥何故、次から次へと‥‥もしかして私は‥‥呪われているのでは…‥)



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