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目覚めの前に 【別視点】

やっと更新ができました。遅くなりすみませんでした。

今回は、アイナが目を覚ます前の出来事です。



 コンコンと眠り続ける少女に語り掛ける。

 夢の世界で共に過ごし苦難を乗り越えた‥‥友達。


『あーちゃん‥‥あーちゃん‥‥起きないわね』


 声を掛けると言っても実際は脳内で語るだけ。本人の意識が底深く落ちている今、意思の疎通は無理かと理解した。アイナを起こすのを止め、現状把握に努めると気持ちを切り替えた。




 眠っていたアイナがゆっくりと目を開ける。だが、ソレに気が付く者は誰もいない。ここはしんと静まり返った深夜の寝室、音を立てなければ誰も気付かない。


(さて、ここはどこかしら?)


 ゆっくりと体を起こすも、動きが緩慢で鈍い。何故だか身体に力が入らなくて心許ない。この身体、えらく脆弱ではなかろうか? ふと心配になる。


(アイナの身体だと思うのだけれど、これは意外だったわ。まさか幼女だったなんて。話した限り成人女性かと思ったのに、当てが外れたかしら?)


 取り敢えずの身体チェック。予想外だったが気後れすることなく受け入れた。

 所詮自分の身体ではない。大した問題ではないかと開き直る。


(さて‥‥微かだけど感じるわ)


 僅かな魔力残滓を嗅ぎ分け、お目当ての人物を探る。

 ベットから起き上がっても身体がふらつく。これでは危なくて歩けないなと、出だしを挫かれた心境だ。どうしたものか。


(あっ、魔力は多いわね、この身体。ふふ、僥倖、僥倖)


 早速、魔力を体表に纏わせ、内部魔力も動かす。体中隅々まで満ちた魔力に満足し、対外魔力を漲らせる。


(ふふ、これなら大丈夫そうね)


 魔力でコーティング。身体強化を行った。


(さぁ、時間が無いわ、さっさと探しましょうか)


 心の中で誰に聞かすともなく呟く。応えてくれたら嬉しいのにと。






 ✿


(やっと見つけた。魔力の波動が弱くてうっかり見過ごすところだったわ)


 目の前には生きているのが不思議に思える枯れ木のような老婆が横たわっている。


(このままだと数日で息絶えるわね。さて、どうしたものかしら。困ったわ)


 知りたい事があるのだ。出来るだけ感じ取った魔力残滓を辿り状況を聞き出したい。そう思って意識のないアイナを使って動いているのだ。目の前の老婆に語る気力があるのか悩ましい。


(残りは二人。一人は…殆ど消えかけてるわね。まぁこの老婆と変わらないか)


 また探し回る労力も時間も、魔力も惜しい。この老婆で手を打とう。

 そう考えを変え、老婆の延命を決めた。


(はぁ、何年ぶりかしら。それにしても、媒体なしでおまけに小さい身体だけれど、力を使えるかしらねぇ。まぁ悩んでも仕方ないわね)


 人気がないと確認した室内で室内灯を頼りに老婆に向って力を使う。媒体がない以上、言上で底上げするしかないか。


「癒しの女神、フリララよ。御身の御力を分け給え。捧げるは我が祈り。生を受けた喜びと、日々の糧への感謝の心。癒しの女神フリララよ。我が魔力を捧げます。どうかこの者を癒し給え」


 ファっと身体強化で使用していた魔力が動く。

 淡い光となった魔力が老婆に流れる。


「はー、久ぶりに使ったわ。ふふ、でも上手くいったわね。これもあーちゃんの魔力のおかげね」


 若干、老婆が若返った気がしなくもないが、年寄りの若返りは分かり難い。

 それよりも消えかかっていた気力が満ち出した。これで生き長らえると安堵した。


(さぁ、元気になったようだし聞き取りしなきゃね)





 ✿


(さっきの老婆は譫言ばかりで会話にならなかったわ。時間の無駄ね)


 お目当てが外れで、ちょっと気落ちしたが時間が迫っているのだ、次に期待だ。


(次は‥‥あっ、この部屋ね。…この人も殆ど消えかかってる)


 同じように室内灯で照らされた部屋には顔に布を掛けられた人がベットに置かれていた。その姿は弔い仕様。亡くなっていたのかと残念に思う。


(この人の魔力、僅かだけど、あの女性のだわ。赤いモヤを作り出した。そうだったのね、既に亡くなってたの。多分、術を発動させるために自ら犠牲になったのね)


 命を犠牲にして叶えたかったのかと、何とも言えない気持ちになる。

 思い詰める程の情が自分には理解できないなと冷めた感情で永い眠りについた女性を見つめる。

 術は不完全だった。完成していればアイナが、自分が、あのループから抜け出る事は叶わなかっただろう。あの術は震撼ものだ。今更だが身震いが止まらない。


(この女性も外れか。最後の一人に期待するしかないわね)


 未だ事情を掴めないでいる。少々焦りが出た。


(あら? ここってお邸よね? どうして誰もいないのかしら? 不寝番もいない? 人手がないのかしら?)


 邸の大きさから貴族家で間違いない。なのに不寝番や護衛を見かけない。何故だか胸騒ぎがする。


(ちょっと急いだほうが良さそうね)


 魔力的に問題はないとみた。なら多少の無理は効くか。再度、感知するために魔力を薄く薄く広範囲に広げる。これが魔力感知になるのだが魔力量の多いアイナである。結構な範囲を巡らせた。


(えっ? 何この魔力?!)


 感知していた魔力とは違う魔力を感知した。強力で嫌な気配まで着いている。


(この魔力‥‥とても嫌な感じがするわ。このまま近寄るのは危険な気がする)


 アイナの置かれた境遇が不明なこともあって迂闊な行動は自粛すべきかと思いやる。とても貴族令嬢には見えなかったのだ。慎重すぎるぐらい慎重を期していいだろう。


(あっ!?)


 今まで感じていた魔力が急に揺らいだのだ。ドキリと胸が打つ。嫌な予感が。

 気は焦るも未だ嫌な魔力が蔓延ている。動けなくて歯痒い。


 暫く待てば、あの嫌な魔力が消えた。そう、一瞬でだ。

 移動したとしても経路に魔力を感知できそうなものだが、それすらも感じない。


(なにこれ? まさに瞬間で消えたみたい)


 嫌な魔力の持ち主が消えたのだ。急いだほうが良いだろう。慌てて地下へと向かった。





「あぁ‥‥遅かった‥‥」


 辿り着いた先に男の死体が。


「また、ハズレだったわ…‥」


 これで、あの術の事情を知る者がいなくなった。ガックリと落胆が隠せない幼女の姿。

 男は地下牢に入れられていた。罪人なのか? それにしては二人いる牢番が眠りこけている姿は異常ではなかろうか。


(どうやら手を回した者がいたのね。それにしても手練れな感じがするわ、これ以上、探るのは難しそうね。今夜はここまでかしら)


 地下牢の前で佇む幼女はいただけない。とぼとぼと部屋に戻る姿に覇気はない。




(はぁ、無駄骨ってやつね。残念。部屋に戻って休むしかないか。あーちゃんが起きれば何かわかるかしら?)


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