目覚めたあと
後半の視点は領主と導師です。会話だけです。
「お前、本当に何も覚えていないのか? 全く?」
目覚めたあと、入れ代わり立ち代わり人が訪れ、状況が分らずに混乱を招いたが、見知った顔がチラホラ。どうやら多大に心配をかけたようだ。
(ひぇ~、皆さん、ごめんなさい-)
まだまだ経過観察が必要と言われ、今だベットの住人である。憔悴した神官さんと疲労困憊の髭おじから見下ろされ、具合はどうかと心配される。
(知らない間に、めちゃくちゃ過保護になってない?!)
状況説明を受けたものの、いまいちピンとこないで困惑したアイナだ。
どうしたものか、思い悩んだところでどうにもならないと開き直る。
考えても無駄なことは、無駄なのだから。
いくら睡眠中のことを聞かれても、寝ている相手に、その質問は無茶だ。
声に出して言わないが、心の中で呟いてやり過ごす。
(はぁ…私の方が知りたいよ。‥‥それにしても、何か大事なことを忘れてる気がする。あ~思い出せない!)
「おう、ガキンチョ。お前、暫くこの邸で療養な。呪いを身に受けたんだ、後遺症が出ないか様子を見たい。いいな? 大人しくこの家の主の世話になれ」
「えっ、そんな‥‥ご厄介になってもいいのですか? 私、記憶も、身元もわからない子ですよ? ご迷惑じゃ‥‥」
「はっ! ガキが生意気言うんじゃねえよ。主が良いって言ってんだ。ガキはガキらしく大人の世話になっとけ。変に気を使うな。アホたれ」
「ぬぅ…わかりました。後でお家の方にご挨拶します」
分かり難いが、どうやら髭おじの心遣いのようだと、不器用な相手に、クスリと笑みが零れる。
(確かに幼女だもんね。大人の庇護下に置いて貰えるのはラッキーね)
✿
領主の執務室にて
「どうだ、あの子の様子は?」
「ん? ああ、今のところ異常はないな。だが、今後の影響は…」
「そうか、わからぬか。ふぅ‥‥あのような幼子に。ラウル魔導士は、くそ!」
「‥‥そう気を病むな。ガキは目覚めた。今はそれでいいだろう」
「…‥あぁそう…だ。そう思う事にしよう」
「ところで、調査は?」
「…‥はぁ‥…実行犯が死亡したのは正直、痛手だ。まさか、その日のうちに牢内で変死するとは。ラウル魔導士の背後にいる人物は不明だが、奴が零した使徒様? だったか。どこの組織の者か今調べさせている。あとは、アデレードの実家…あいつ等は王都に住む宮廷貴族だ。一筋縄ではいかぬだろうな」
「宮廷貴族か‥‥厄介だな」
「‥‥ふっ、元王族の私が、どこまで食い込めるか、だがあの話が事実なら、確実に追い込めるぞ」
「だが、証拠は? あるのか?」
「‥‥なくはないぞ? だが出処が」
「ああ、魔導士のか」
「そうだ。私では見つけられなかった証拠を、何故奴が持っていたのだ? 信憑性も疑わしい…‥」
「でも、お前は、疑ってはいないのだろ?」
「…‥‥‥真実を突き止めたいだけだ。そして我妻と子、ジョアンナを養女として引き受けた前領主夫妻。彼等の無念を…法の下で晴らしたいだけだ」
「…‥ああ」
「なぁ、私的な裁きを望む私は領主失格か?」
「‥‥‥領主も領民に違いない。法の元、裁かれる者は裁くべきだろう。何を弱気な事を言ってる? しっかりしろ、領主様」
「ふっ、く、くっくっ、ああそうだな、しっかりせねば」
「これからお前はどうするのだ? 私にあの幼子を預けて、何処へ行く?」
「ああ、ちいとな、調べたい事があって、暫くこの領地を離れるわ。その間、あのガキンチョを頼むぜ? あのガキには何か秘密がある気がするんでな」
「連れて行かないのか?」
「子供を連れて行く場所じゃねえ…‥って、何だよ? その顔! 疚しい場所じゃねえって! 仲間んとこだよ」
「ふはっ、悪い悪い、冗談だ」
「ちっ、しゃーねぇな」
「長くなるのか?」
「さてね? わからん」
「…‥」
「…‥」
「いつ立つのだ?」
「二・三日ガキの様子みてから行くわ。‥‥くれぐれもあのガキ、守ってくれ」
「?! ‥‥わかった。領主として守ってやろう」
「ふっ、頼もしいな、頼むわ」
「任せろ」