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暗闇の中でー②

 時間の感覚が掴めなくなった。どれほどの時間が過ぎたのか判らなくなっている。下手すれば時間は止まっているんじゃないかとも思えてしまう。それほど、この空間が異質なのだ。


 目の前で相変わらず言葉を垂れ流している人物を、じっと観察する。作り手ならこの空間からの脱出方法も知っているのではと、勝手に上がる期待度を抑えられない。けれど頼りに出来ない人でもある。安易に喜んじゃいけないのだ。



 それよりも長考を続けるくーちゃんだ。顎に手を当てるのは癖なのだろうか、そんなどうでもいい事を思ってしまう。


 ‥‥あの人の洩らした言葉を拾って考えてみたの。それで思い出した術があったわ。


 思考の海から戻ったくーちゃんの思いがけない言葉に気が逸る。

 

 ‥‥くーちゃんの知ってる術だったの?

 …‥ええ、まぁそう…とも言うわねぇ…‥


 とても歯切れの悪い彼女の返答に妙な引っ掛かりを覚えたが術への興味で感じたそれを見逃した。



 ここから先はくーちゃんの知識と推察で紡がれた術の全貌…と言うより推理になる。正解か。事実か。私達に知る術はないのだろう。


 

 『幽世の狭間』‥‥くーちゃんが推察した術の名称。

 

 生を終えた者が訪れる幽世の界。これは死して幽世の界に渡るまでの狭間に留め置く術だという。

 幽世というのが、愛菜の知っている言葉で言うと霊界?あの世?にあたる。

 死者の魂をこの世とあの世の間に留まらせる‥‥要は成仏させず、ずっと後悔の念に苛ませるために閉じ込める呪いの術らしい。

 

 ええ?! 酷い! 鬼か! 

 信じられない内容にびっくりだ。


 くーちゃんも困惑顔で『蘇生術ではないの』と。

 実際は『幽世の狭間』に酷似している術なので、くーちゃんも当惑顔。何故この人物が誤解したのか判らない。多分、騙された?と思われる。

 成程、これで矛盾点が解けた。



 呟きを拾い続けた結果、判明したことは他にもある。と言っても、推測の域だけど。

 この人物はレギオン先生ではないかと私達は結論付けた。正解だと思う。

 私達が辿り着いた背景は、学生のフローレンスに横恋慕した先生。王子の婚約者としての彼女の苦労。結婚式の凶行。事件の背景を知った先生が彼女の敵討ちのため禁術に手を出した。

 蘇生術は古の術で、魔力的にも技量的にも申し分のない先生だからこそ扱えた…ううん、扱おうと企んだが正解か。

 結局、違う術を施し、後味の悪い結果を招いたか。



 何と言うかぶっちゃけ、ヤバいよね、この人。鳥肌ものだね。だって、ハッキリ言ってこの人無関係じゃん。恋人でもなんでもないんだよ。それなのに横恋慕した相手の敵討ちで、凶行に手を染めた。信じられない。

 だが信じられない予想はまだ続く。

 そう、先生の指す『捕らえた奴等』について。

 それは、王子と義妹で間違いないだろう。動機はフローレンス殺害犯の義妹と元凶の王子を生贄にし術を完成させるためだと思われた。


 彼等を自ら殺め、その魂をこの世界に閉じ込めた。それが術の発動条件ではないか‥‥くーちゃんの知識から補填した推理だけど。


 糧とされた魂だけがこの世界に生き、延々と終わらない悲劇を繰り返す。

 くーちゃんは呪いだと言ったのは、成仏も生まれ変わることもできず、後悔や怨讐や執着‥‥抗えない苦しみを与え続けることだと。


 聞かされた私は鉛を吞んだような重苦しさに堪えようのない憤りを抱く。

 一人のためにどれ程の犠牲を払ったのか。残された家族は堪らないだろう。この人物…レギオン先生(仮定)は、余りにも自分勝手ではなかろうか。凶行に走る前に、いや、フローレンスの不運はそれ以前からあったのだ。その時に手を差し出すことは出来なかったのか。 

 過去の出来事を今、幾ら悔やんでも、もう取り返しがつかないのだ。 

 何とも言えない無力感が、後悔先に立たずである。

 


 先生は実行犯の義妹と元凶の王子の魂を幽世の狭間に閉じ込めた。彼等は何らかの思いでフローレンスに執着していたので術に嵌めやすかったのだろう。彼等の魂を閉じ込めるために‥‥多分、この点を騙されたのだろう。術を補完させるため先生も自分の命を差し出したのだ。

 

 正直ドン引きだ。誰も報われない話に虚しさが舞う。やり切れなさを持て余す私には気が付かなかったが、くーちゃんは思い詰めた表情で、『何故この術が』と、零していた。

 


 ――零れ出た言葉に憎悪の色を込めて


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