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呪夢ー目覚めの前

 やって来ました最大イベント。


 繰り返しの最終イベント。


 乙女の私にトラウマ級の恐怖を味わわせたイベント。


 そう、それは、結婚式である。


 フローレンスちゃんの場合、結婚式=命日だけどね。



 何度も味わったからストレス耐性は付いたね。くーちゃんにもメンタル強とお褒め頂いたぐらいだ。鋼な心臓かもね。



 とは言え、ウンザリ、鬱々だよ。


 「はぁぁぁぁぁ‥‥」

 


 バージンロードが黄泉への旅路とは‥‥あっそう言えば結婚は人生の墓場って誰かが呟いてたっけ。私の場合、比喩でも何でもないよね。はぁ。


 って、これ毎回ぼやくの。もう様式だよ。





 目の前に聳える大聖堂。


 ああ、この光景が人生の終わりであり始まりでもある‥‥他の人なら意味が違うね‥‥私の場合、まさに今生の終焉地なんだけど。

 

 でもね、今回のループは今までの結集の意味合いが濃いわけ。

 ひたすら王子様と一緒に過ごす時間を大切にした。もう全身全霊捧げたと言っても過言でない…は大袈裟だけど。

 王子の性格を知り尽くした後だもん、上手く立ち回れたよ私でも。


 二人の仲は良好で今日の日を迎えた。

 この後、また巻き戻るからと、おざなりにせず誠実に向き合った。

 

 私、アイナになってから、愛菜だった時も、これほど他人に真摯に向き合うことってあったかな‥‥


 相手の顔色を見て自分を押し殺すのでもなく、また、片意地張らず、頑なにならず、自分の気持ちに向き合って『どうしたいのか』『どうされたいのか』真剣に考えることが出来た。自分の人生じゃないのに。

 

 自分(フローレンス)の気持ちを大事に受け取めることで、喜怒哀楽の感情を冷静に見つめる事が出来たのは、まさしく福音だ。


 だから、王子様の感情の起伏にも冷静に応対できた。

 『冷たい』『無関心だ』『好きじゃないから』過去に王子様に詰られた言葉は今生は聞かない


 お互い‥‥かどうかは判んない。でも少なくとも私は寄り添えた、ううん、寄り添った! 頑張った! 私、めげずにやり切った!


 誰も褒めてくれないから、自分で褒める! だって自己肯定は大事だよ!




 自分を鼓舞して結婚式に挑む私は、まさに戦場に赴く女戦士、なんてね。

 そんな私にも、どうしても遣り遂げたい事がある。


 それは…

 

 「着きました」


 考え事に浸る私を、これからの出来事に意識を向けさせたのは、護衛の無情な言葉だ。抑揚のない声が私の緊張を否応なく高まらせた。

 

 ああ、これから。

 私の‥‥フローレンスの正念場がもう間もなく。


 馬車から降り立つ純白のドレスに身を包んだ私を迎えるのは赤いカーペット  まるでこれから起こる惨劇を彷彿させる、鮮血の色。


 ‥‥これ、選んだ人の趣味悪いわ~


 皮肉に、嫌味を言いたくなるのは仕方ないよね。


 

 ベール越しに見据える大聖堂の扉。

 今は開いてるの。


 ‥‥どうせなら開けっ放しにしててよね。


 顔を正面に向け、決意を漲らせた視線を逸らすことなく大聖堂を見据える。

  

 ベールを被る私の表情が周囲に見えなくてホッとするよ。見れたもんじゃないからね。たぶん、鬼の形相? ぷっ、花嫁の顔じゃないわ。



 バージンロードを花嫁の父親に手を引かれて‥‥は勘弁してよ。

 もたもた歩いているうちに暴徒騒ぎが起っちゃう。


 大聖堂の扉は閉じられ、私は中に入れず彷徨い、刺殺まっしぐら。刺客は死角からやってくるのだ‥‥なんてね。 


 何度も味わったのだ、きっと回避できる。

 と言ってもフローレンスちゃんの死は免れないよ。ただ、死に場所を変えたくて抗うのだ。


 馬車から降りた今が肝心。


 内心ドキドキしながらドレスの中でヒールを脱ぎ捨てる。ドレスの裾をたくし上げる格好は淑女にあるまじき姿‥‥。


 あっ、そこの人、はしたないって顔をしないで。

 あなた達も、みっともないって言わないで。

 四の五の言ってられない状況だと自分に言い聞かせ、私はダッシュをかます。


 「あっ! これっ、フローレンス!」

 「お、お待ちを!」

 

 突如、花嫁が介添えの父親の手を振り解いて走り出したのだ。周囲の戸惑いと驚きが、ざわざわと騒めく声が波のように広がり行く。「ヒュー」と口笛で茶化す人にどよめく人、なぜか黄色い悲鳴まで。


 …‥あっ、あれだ。結婚式が待ちきれなくて走り出したと誤解されたか~ 


 ちょっとどころじゃない恥ずかしさに心の中で悶絶だよ。グッと堪えてひたすら走る。兎に角、『大聖堂の中に入る』それだけを目標に走り切る。


 

 間もなく扉に‥‥突如、鳴り響く爆音と悲鳴。

 

 ああ、始まった、死へのカウントダウンだ。


 今生最後のイベント。

 目下の目標はフローレンスちゃんの最期に王子様と別れの言葉を交わす事である。



 

 扉が閉まる前に辿り着いた私は、身体を滑り込ませて中に入る。

 堂内は外の騒ぎに気付いた皆が騒然とする中、警備の者達が機敏に動く。


 王子様がフローレンスちゃんに気が付いて、ホッと安堵の表情が離れていてもよくわかった。私も王子様の顔を見たせいで、ちょっと気が緩んじゃった。


 ドスッ!


 「グゲッ!」


 ‥‥ああ‥‥刺されちゃった‥‥


 気力を振り絞って私は耐える。まだ最後の言葉を言えてない。


 喧騒の中、取り押さえられた女の泣き叫ぶ声が、どうしてか遠くに聞こえる。

 とうとう立っていられなくなって身体が崩れ落ち‥‥る前に誰かが受け止めてくれた。しっかりと抱え込まれたのがわかる。


 「フローレンス! 大丈夫か! しっかりしろ、今医者を呼んだ、大丈夫だ助かるぞ、おい、しっかりしろ! わ、私を見るんだ!」

 

 ああ、王子様が受け止めてくれたんだ。

 私の意識は、辛うじて…まだある。

 

 「お、おうじ さ ま なかな いで  きい て おうじ さま わたし のこと わすれて おねが い  しあわせ になって ね…‥」 

 

 「な、何を言う! 忘れろだと…馬鹿なことを言うな、其方は助かる…のだぞ‥‥おい、幸せになるのは一緒になって…だ‥‥聞いているか‥‥なぁ」


 「あ  なた を ゆる し ます どう か しあわ  せに」    



 もう、何も聞こえないし見えない‥‥‥



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