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呪夢ー⑩

 そうか、私達って二人で話した時間が少なすぎたんだ。

 

 そう結論付けたのは、会話を試みることで王子様の態度が軟化したからだ。

 そして何度目かのループを繰り返した後、私と王子様の距離は縮まった。

 

 

 巻き戻りの初めは、必ずあのガーデンで3人のお茶会の場面。これだけはどんなにループしようが変わらず見せられる。それ以外の場面は大なり小なり変化が起こったのに。

 

 多分だけど、王子様とフローレンスちゃんのすれ違いはあのお茶会でだと思う。私達は間違えた。誰を優先し気に掛けなければいけないのか、見誤った。

 

 些末な出来事と侮るなかれ。最初の一歩のズレ、ボタンの掛け違え、どう表現しようがズレや歪みが生じる一歩を見逃すから結果が大きく歪んだと思う。

 

 私のこの気付きは強ち間違いではないと思っている。現に王子様との関係は良好で、義妹の付け入る隙が無いのだから。ふふ、伊達に何度も何度もしつこくやり直しはしていないからね!


 だけど、この世界のフローレンスちゃんの死は免れない決定事項らしい。

 それに気が付いた私は、このループ地獄から抜け出るために積極的に王子様と関わることにした。結果は変わらなくても私はフローレンスちゃんとして生きている。せめて今だけは楽しくしたい。


 フローレンスちゃんは王子様の事を嫌っていない。ただ彼女が受けた淑女教育が異性に対する女性の態度を雁字搦めにしていた。赤裸々に気持ちを伝えることも人前で触れ合うのも破廉恥だと思わされていた。

 好意を伝える方法がお手紙や贈り物(自前の刺繍入り)。しかも華美に形容し、下手すればポエミーな手紙を人様に送りつけるだと?! 

 恥ずかし過ぎる。


 無理、どーやっても無理。

 これで相手に自分の気持ちを伝えろと?

 単刀直入に『好き』は赤裸々すぎて破廉恥な女と揶揄される案件になる。


 伝わらないよ! そう声を出して叫びたい。

 

 フローレンスちゃんの秘めた想いは王子様に伝わることは無かった。

 偏に義妹の策略の結果ともいえるが、フローレンスちゃんの異性に対して控え目な態度も一役買っていたのではないか。

 長年の拗れた関係。故意に歪められた二人の気持ち。

 ドラマや恋愛小説の中なら、モヤモヤ、モヤりつつも、逆境を乗り越え、お互いの気持ちを確かめあい、愛を得るハピエンになるだろう。

 でも、この世界は違う。ハピエン‥‥誰もなってないよね。

 本当の結末、真実は私が見ることは叶わない。



 はぁ‥‥王子様と二人きりなシチュエーション‥‥あ、恥ずかしくて無理。





 「王子様はわたくしの義妹が好きなのですか」

 

 何度目かのループで単刀直入に王子様に聞いた。ちょっとジレジレ展開に角度を変えようとアレンジぶっこんでみた。

 

 決して、飽きたからではないよ?


 「な、馬鹿は休み休み言え! 其方の妹ではないか、何を言うかと思えば! はぁ、ははあ~ん、さては私の気を惹こうと「してません」…あ、そう」


 あっ、つい即答しちゃった。

 王子様はしょんぼりへなって情けない顔で縋る様な目で見てくる。

 えっ? 


 「コホン、え~王子様はわたくしの事がお好きじゃありませんよね?」

 「うっ、あ、え~、う‥‥‥‥‥‥そんなことは無いぞぉ」

 

 はっ? 声、小っちゃ、何て?


 「わたくし達の婚約を、王子様が気が乗らないのでしたら解消しませんか? 二人で親に頼めば、もしかしたら聞いてくれるかも知れません」

 

 いい話だと提案したんだけど、王子様、驚愕って顔でこっちを見てる。

 えっ、何その顔

 ‥…どうしてそんな悲しそうな顔するかな?

 

 「‥…い、嫌だ! 解消などしない!」

 「えー!? 何でよー、義妹と婚約したらいいでしょ?! チェンジ、チェンジで!」

 「ば、馬鹿者! 絶対解消しないからな!」

 「えーどうしてよ!」


 パンパン

 「はぁ~い。お二人さん、熱くならないの~ はいはい、お茶飲んで冷静に」

 

 くーちゃん、ナイスアシスト。


 


 「あ、すみません、ちょっと熱くなり過ぎちゃいましたね‥‥はぁ」

 「‥‥む、いや…‥」

 「「‥‥‥‥‥」」


 ちょー気不味いんですけど?!

 

 「あ、其方は私が嫌いなのか‥…だから婚約を解消したいのか」

 

 しょんぼり元気のない王子様、これは意外だったね。

 嬉々として受け入れて義妹とくっつくかと思ったのに。


 「違います。王子様を嫌ってなどいません。王子様がわたくしといるより義妹と一緒の方が良いのかと、気を利かせただけです」

 「そ、そうか! 気を利かせただけ‥…そうかそうか」

 


 嬉しそうに笑うなんて‥…

 男心は良く判らない。

 



 

 学園生活は比較的穏やかで(義妹と取り巻きが煩いのを除外して)王子様と良好な関係を築き上げた。

  

 あ~報われる努力って、素晴らしい!!



 おっと、王子様がお出ましだ。


 「フローレンスよ、何処に行くのだ」

 「はい、勉強をしに図書館へ行こうかと」

 「そうか、私も同行しても良いか? 実は授業で判らない箇所があってな、出来れば教えて貰えないだろうか」

 「わたくしで判ればですが。ご一緒出来て嬉しいです」

 「おお、そうか‥‥私も‥‥だ」


 うわ~い、青春だ~。

 


 学園内に蔓延していたフローレンスの悪評も鳴りを潜め、嫌がらせも減った。完全に王子の影響だ。彼が主導したわけではないだろうが、お節介な輩が気を回したのか。でも、そこに王子の意向はなく誰かの思惑に私達は踊らされた。王子もフローレンスも義妹も取り巻きも、みんな幼すぎたのだ、禄でもない大人に好い様に使われた結果だった‥‥と評したくーちゃんの眼差しは憂いていた。


 (くーちゃんも謎多き人物だよね)

更新が遅くなりました。


お読み下さりありがとうございます。

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