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騒動

 「まさか、本当にこの場所に連れて来られたのか」

 「あの坊主が嘘を言っていなければだ」

 「‥‥騎士団長、周辺の捜索を始めてくれ。数名は私と共に中に入るぞ」



 俺達は坊主の目撃情報を元に、歴代領主が眠る霊廟の前にいる。

 友は直ぐに異変に気が付いたようだ。

 霊廟に侵入出来ないよう普段は防御魔法と結界が張り巡らされているのに、今は完全に決壊していると言う。

 あの魔導士の仕業か。

 これだけでも実力のある男だとわかる。よくそんな奴が今まで大人しくしていたな‥…。


 「しかし、見事だな。あの魔導士、腕は良さそうだ」


 俺達は真っ暗な建物の中に入り、ガキと魔導士を捜し始めた。

 ひんやりと冷たい空気が身体に纏わりつく。気分のいい場所ではないな。

 先行していた騎士達が、何か見つけたか前方が騒がしくなった。



 「領主様、子供が、子供がいました!」

 「一人だけです!」


 「何だと? どこだ!」

 「こちらです、この棺の奥に寝かされています」

 


 近付いてみると毛布に包まれたガキが敷物の上に寝かされていた。魔法陣もなく床の上に敷物を敷いて寒くないよう取り諮られていた。ガキは変わらず眠ったまま外傷もない。

 俺は一先ず安堵した。

 (無事‥‥で、良かった)


 俺達は罠が無いか注意深く探ったが、何もないこの状況に少々拍子抜けだ。

 子供を攫ったにしては、何事もないとは、ただの徒労でしかないだろう。


 「まさか、…‥誘導?」

 「え、何だ? ラグザス‥‥」

 「いや、子供を攫った割に罠も何もない。これは俺達を誘い出すだけの誘導だったのではないかと‥‥」


 「導師様? …それならば、お早くお邸にお戻り下さい!」

 







 


 「旦那様! これはどういうことですの!? やはり女を囲ってらしたのね! 酷いわわたくしを馬鹿にして! どこの馬の骨よー!!」

 

 邸に戻るとアデレード夫人の悋気が酷く侍女や侍従達が困り果てていた。

 俺達も一体何事かと慌てて夫人の元に駆け付けたが、騒ぎ立てて話に成らない。何時も側にいる侍女も宥めようとしているが全く耳を貸さない様子だ。


 「アデレード! 何を騒いでいるのだ、いい加減にしないか!」

 「何よ何よ! 皆してわたくしを除け者にして! 旦那様、わたくしが何も知らないと思ってるのね! 知っているのよ、女を連れ込んでいるのでしょ!」


 「な、何を君は言っているのだ? 私が女を? 馬鹿を言うな、君のその妄言は何処から来るのだ! いい加減にしなさい!」

 「何ですって! だったら客間にいる女は誰よ! 知らないなんて言わせないわよ!」


 「客間?」

 「女? ‥…も、もしや!」


 もしやと思い、俺達は急いで夫人の言う客間に向かった。

 行方がわからない孤児院長かも知れないと嫌な予感が脳裏を過ぎる。



 「ここか‥‥いいか開けるぞ」

 「ああ、騎士団長もよいな」

 「はい、では」


 部屋に入ると案の定、寝台で寝かされた女‥…孤児院長の遺体があった。

 

 こんなところに‥…

 誰もが苦い思いを噛み締め、そっと女に近付く。

 アデレード夫人も俺達の後を着いてきていたのか、何か騒いでいるが相手をしている時間はない。

 


 「まさしく孤児院長だな‥…」

 「ああ、だがどうしてここに?」

 「‥…騎士団長よ、ラウル魔導士はまだ見つからぬのか。ここに彼女を安置したのは彼だろう。兎に角、一刻も早く捕まえるのだ!」


 「はっ! 数名を残して後は邸内と外の探索だ! 急げ!」


 「ほら! 見なさいよ。女を囲ってたじゃない!」

 「アデレード、彼女は行方不明の孤児院長で‥…既に亡くなっている」

 「はっ? 何を仰っているの? わたくしを騙そうだなんて「アデレード! いい加減にしないか! 私達はこの事件を追っているのだ、君の相手をしている暇はない!」…な、何ですって! ふざけないで! もういいわ、わたくし王都に帰ります!」


 夫人の怒りは頂点に。

 怒り心頭の状態でこの邸から出て行くと叫んでいた。

 本当に状況を見て貰いたい。

 今は一刻も早く孤児院長の遺体を調べ、異常が無いか検分しなければならないってのに‥‥‥


 

 「あ、領主様! 遺体が、遺体の周囲に黒い靄が!」


 「はっ? 何だと?! ラグザス、これは!」

 「ちっ! お前らこの部屋から出て行け―!」



 

 「キャー! だ、誰か、お、奥様-!」

 「奥様がー!」


 「こ、今度はなんだ!? 騎士団長!」



 俺は急いで女の周辺に結界を張り巡らす。黒い靄は女の身体から湧いて出ているのか。よく見ると黒い靄の中に赤い靄のような何か蠢く気体が見える。

 一体なんだ? 



 「ど、導師様! 子供が! 子供の身体から黒い靄が!」

 

 ちっ! 忙しねえ!

 「おい、お前、ガキを連れて来い! さっさとしやがれ!」


 

 部屋の外からは叫び声や悲鳴が。

 室内では怪しげな黒い霧靄と赤い気体が。

 それなのに、今度はガキかよ!


 ああ‥‥今日の俺って厄日なんじゃねえか‥‥‥くそぉ!



 

 「導師様! 子供を!」

 「おお、そこに寝かせてくれや! お前ら誰でもいいから神官呼んで来い! 急げ早くしろ!」

 「はっ!」

 「おい、教会に行くぞ!」

 「こっちは不味い! 魔導士が! 魔導士が夫人を!」


 くそぉ! 一体何なんだ! 何が起こっていやがる!


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