呪夢の見る間ー導師と領主ー②
「霊廟なんぞで見つけたとは‥‥何故そのような場所を捜したのだ。お前何か知っていたのか?」
不可解な事は友が何故霊廟などと歴代領主の墓の中を捜したのか。
何か思う事があっての事だとは思うが、突拍子の無い話ではないのか?
友は俺の釈然としない顔を見て、「ああ誤解させたようだ」と弁明を始めた。
「今回見つけたのではないのだ。3年前に我が妻と子を埋葬したであろう。その時に偶然見つけた物だ。何気なく手元に置いていただけだ。まさか今こうしてお前に見せる日がくるとは」
「‥…ああ、そう‥‥そうだったな。すまねぇ」
「気にするな。私も今まですっかり忘れていたのだ。調べるのであればお前が適任だろうと思って持ち寄ったのだ。どうだ、何か足しになりそうか?」
‥…失念していたが災厄の大災害で友は第一夫人と息子を亡くした。友は偶々王都にいたため災厄には巻き込まなかったが代わりといっちゃあなんだが妻子が犠牲となったのだ。喪失感を抱え未だ癒されていない友を見るのは俺も辛い。
だがこればかりは‥…友の心が癒える日が早く来ることを願うばかりだ。
「‥‥中身を見て見ないと何とも言えないがどうだろう? ん? 何だこれ、保存魔法が掛かっている?」
手渡された日記の中を検めると意外な事に保存魔法が施されていた。
何の変哲もないただの日記ではなかったのか。
「‥‥日記に保存魔法? これはそこまで価値のある物か?」
「ああ、お前もそれが気になったか。私も単なる日記に保存魔法を掛けてまで保管する持ち主の意図が読めず、もしかすると日記は偽装で秘密の手記かと思ってな。出来ればお前に調べて貰いたいのだ。実は、その‥‥書かれた言葉が古くて私では満足に読み解けなくて‥…はは、古い言葉は苦手でな」
そう言えば学生時代から古語が苦手だったなと当時を思い出して納得した。
だったら俺が引き受ければいいか。万が一、呪術が記載されていては問題になるから丁度いいか。
「はは、それなら話は別だ。わかった暫く借り受けるとしよう。解読でき次第報告を入れる。それでいいか?」
「ああそれでいい。すまぬが宜しく頼むぞ」
俺は日記に手掛かりがないか検証を行うため友と別れた。
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「ふぅ‥…いくら読んでもただの日記だ。はぁ‥‥恋した男への恋慕しか書いていねえ。くそっ、読むだけ無駄だ!」
保存魔法を掛けてまで残したい日記なのかと持ち主に文句を言いたい。筆者は頭の中身が随分とお目出度い女だった。
惚れた男の気を惹くためにあれこれ奮闘したが努力は徒労に終わる。真心が通じない相手に嘆き至らぬ自分を哀れみ、どこかいけなかったのかと後悔が綴られている女の悲恋の内容だった。
「ちっ、全く関係のない話だったな‥‥はぁ、また振り出しに戻るか」
友の好意とは言え、何が楽しくて他人の傷心した心情が書かれた手記を読まなければならないのか。つい、愚痴りたくなる。
ああ酒でも飲まにゃ…やってられねえ。
何気なく手にした日記の最後のページを何となく眺めていると、薄らそこに何かを消した跡が見えた。
「ん? 何か書いて消したのか‥‥ええ~と、ちっ、かなり古い文字だな、不鮮明で何を書いて‥…? えっと‥‥望む、世界…目覚め…ぬ夢? 魔力、捧げ? く…もつの‥‥魔力? 術、条件…‥くそ、読み難いが、何でこんな場所に書いてあるんだ?」
只の悪戯書きにしては気になるワードでまとめられている。だが途切れ途切れで文章として読めない。暫く繰り返して読んでみたがこれ以上、この日記から読み解くのは難しいだろう。
「さて、どうしたもんか‥…」
淡い期待でしかなかった日記が最後のページの意味深なワード。
暗中模索状態に僅かな、ホンの僅かな手掛かりになる可能性を見つけて俺は徒労が報われるかと期待が膨らんだ。
トントン
「導師様! 領主様がお呼びでございます」
部屋をノックし入って来たのは領館の護衛騎士だ。領主の命で取り急ぎやって来たと言う。このまま村はずれの結界の森に同行を願われた。
友は一足先に現場にいるのだと言う。
そこで発見されたモノを一緒に検分して欲しいのだと。
俺達は急いで現場に向かう。