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呪夢ー⑧

 謹慎後からの学園生活は針の筵。アウェイ感半端ない。

 

 先生はフローレンスから賄賂を受け成績操作をしたとして懲戒解雇だと後で知らされた。序でに私も「教師に賄賂を贈り味方に付けようとしても無駄でしたね」と。冤罪かーい! 私達は学園の誰かにしてやられたのだ。


 フローレンスは逆境にも負けず奮闘し、その頑張りを成果として知らしめた。

 卒業まで学年首位をキープして努力の賜物を惜し気なく見せつけたのだ。


 王子との婚約は卒業しても解消どころか破棄もされず今に至る。

 最大の謎である。印象操作で悪評を流された令嬢を王子妃にするのか。一体何を考えているのだろう。

 仮に政治絡みであれば義妹でと頭の挿げ替えを進言したが王子は一考もなく却下した。別れ話も耳を貸さない。煩わしさから関りを断てば他に好きな男がいるのかと執拗に絡まれたのは誤算だ。この王子、何がしたいのだろう。






 卒業して1年。

 不仲の王子との関係改善は徒労に終わり滔々婚約式を迎える羽目に。

 美しく成長を遂げた彼女は殿方から露骨に秋波を向けられていた。それは婚約者の王子が居ても構わずにだ。

 異性からの熱い視線やアプローチに不慣れな彼女は終始胸がドギマギ。頬を染める彼女の横でギロリと睨み威嚇を止めない王子がキモくて萎えた。やはり彼を理解するのは難しい。



 ある日、側近の一人から婚約解消されないのは王命だからであってお前の為ではない調子に乗るなと釘を刺された。

 地盤強化を目論む王家の求めに応じた政略結婚。お相手は公爵家直系の血筋であれば尚良し。それだけでフローレンスに白羽の矢があたったのだ。決して王子の意向ではない、勘違いするなと忠告を受けた。


 王子の当たりの強さは劣等感と抗えない無力感からか。くだらない。

 立場の弱いフローレンスに八つ当たりをしたのだろう。

 だがこれは王家の望んだ縁組。せめて開き直って良好な関係を築き上げて欲しかった。そう思うのは私の我儘だろうか。


 恋愛だけが愛情じゃない。

 王子よ、情けは人の為ならずだ。せめて友愛の心情は持って欲しかった。

 それも無理なら…将来自分を支えてくれる部下だと認識を改めて欲しい。

 彼女は貴方の敵ではない。拗れた関係を修復するのは‥‥一人では難しい。

 





 鬱々と迎えた結婚式の日。

 

 これ程、憂鬱な結婚式を迎えるとは。

 人生初の体験がトラウマを生み出すレベルだとは夢にも思わなかった。

 思い描いた結婚と乖離し過ぎて泣けてくる。



 あれから一度も先生に会えていない。これは予想外だった。てっきり何処かの場面で助けてくれるかと期待してたのに。残念。出来れば今日、会いたいな。

 



 

 いよいよ結婚式の場面。

 妙な緊張で手汗掻きそう。やだな手汗の酷い花嫁って。

 大聖堂で挙式とは。いやはや激しい動悸で口から心臓が飛び出そう。

 目前に白亜の殿堂である大聖堂。この聖堂に足を踏み入れるのか。

 望んだ結婚ではないが感慨深く建物を見てしまうのは、思わずか。



 ドオォォン ドオォン ドン! ドン!


 突如、響き渡る爆音。

 吹き上がる炎と硝煙の匂いと共にその場は騒然とした。動揺が走り逃げ惑う人々の悲鳴や怒声が飛び交う。逃げる群衆に紛れた怪しい人達が攻撃を始めたのだ。混乱を極めた群衆が逃げ道を塞ぐ。一瞬にして外は大混乱だ。

 騒ぎに乗じてこの場を離れなければ我が身が危うい。数人の護衛に守られながらその場を後にした‥‥‥


 ドンッ! 


 何が起こった!? 

 突然背中に強い衝撃が、遅れて激痛が身体を蝕む。身を捩らすことも出来ない。思わず呻き蹲る私の背後で誰かが叫び泣いていた。

 喧騒でよく聞き取れない‥…

 身体が‥‥動かな…‥‥さ、寒い‥…

 だ…れ…か‥‥

 

 


 ガラ―ン ガラ―ン ガラ―ン 


 遠のく意識に教会の鐘の音だけが鮮明に聴こえる。

 

 後は‥…






 「うぇぇぇぇーーー? えっ!?」

 

 目覚めた先はまさかのガーデン。

 既視感のあるテーブル席にちょこんとお座りしていた。

 

 「今のは…‥…」


 思い出すと身の毛がよだつ。仮想世界と言えど疑似死したのだ背筋に冷たい汗が伝わる。全身に震えが走り思わず背中に手を回し傷跡を確認した。

 無傷…でも、まだ心臓がドキドキしてるよ。

 「こ、こわ…‥」

 幾ら過去だとしても殺される体験はもう御免だ。勘弁してよ。

 ‥‥手の震えは止まらないし指先も冷え切ってる。

 恐怖は‥‥感情は心に刻まれるわけか。

 

 「と、とと取り敢えず、喉を潤そうか‥…」

 恐怖に打ち勝つ手段は‥‥

 「よ‥‥おしぃ‥‥お菓子食べて、元気出そう‥‥」

 取り敢えずお腹を満たせば震えは止まるか…‥止まればいいな。


 まだ暖かい紅茶を一口。バターの良い香りを放つ焼き菓子を摘まんでお口にポイっとすれば、ちょっとホッとする。味わう事で現実を感じたい、ちょっとした願望だ。

 


 「ふぅー、落ち着いたよ。あ~ここってはじまりのガーデンだよね。うん、間違いない。‥‥ここに戻ってきちゃったか~」

 

 大きな溜息と一緒に胸に詰まらせた苦痛を吐き出す。怖がっていてはこの世界をクリア出来ないのだ。これから起こる未来に負けられないと己を鼓舞する。

  

 「そう言えば、この後、義妹が登場するんだよね。はぁアレ面倒なんだよね。あ~前途多難かなぁ~」


 私は雲一つない青空を見上げ、再び理不尽なフローレンスの人生を送るのだと心を決めた。

 

 「ああ、お菓子、美味し―!」

 

  

 この後、強制的に繰り返されるやり直し人生が待っているだなんてこれっぽっちも考えていなかった私は心ゆく迄お菓子を頬張った。


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