目覚める前の遣り取りー② 【導師視点】
「先ず、お前は未洗礼の子供に魔力を扱わせることを日常的に行っていたのか。答えによってはお前は処罰対象だ。俺に嘘は通じないぞ」
「嘘など申しません。神に誓い真実を述べます。今回初めてです。幼い子に魔力制御は難しく好奇心で抑えが効かないことも分かっておりますので教えることはありません。ですがあの子にだけは教えようと躍起になったのも事実です」
「そうか、嘘を吐いていないな。では余計におかしな話だ」
――この国での魔力操作の訓練を行う年齢は洗礼式後の8歳からだ。それ以前は推奨されてはいない。理由は魔力の扱いに不慣れで事故を起こしやすいのが一般論として浸透している。それもあるがその昔、どこかの国で幼い子供を中心に人道主義に反する人体実験が行われた。方法は許されないがそのお陰で幼児に無茶な魔力操作は成長に著しい弊害を齎すと判明、おまけに感情に呑まれ魔力制御が上手く出来ず暴走してしまう。人体実験は魔力量を人為的に且つ効果的に増幅を狙っての話だったと言う。だが結果は不成功。その上、実験研究者、支援者、多くの者が処罰された、歴史に残る凶悪な事件として我々は踏襲させぬよう目を光らせているのだ。‥…まあ、特例はあるのだがな。幼児でも魔力操作の訓練をさせなければならないこともあるのだ。今回は俺がやるべき事だった。なのにこの神官は脅威を感じてだと言いやがる。
「ジェーンとか言ったな孤児院長、そいつはどこにいる。二人の子供が不可解な意識不明の状態にも関わらず何故見舞いに来ない。お前はどう思う」
「確かに、変だと思います。孤児院の子供に関しての責任は孤児院長にあります。その院長が一度も様子を見に来ないのは‥‥何かあったのでしょうか」
「この状況を知らせたか?」
「はい。遣いを出しております」
「‥‥‥それでも来ないのだな。わかった此方から会いに行こう。お前はここで此奴の様子を見ていてくれ。もう一人も付き添いをつけているな?」
「はい。神官が付いております。‥‥導師様、私が彼女を呼んで参ります。ここでお待ち頂ければ宜しいかと」
そう言って神官は孤児院に向かった。
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「いない…だと?」
「はい、孤児院の者も探しているのですが見つからないと申しております」
‥…何故いない、何だか嫌な予感がする。
「おい、もう一人のガキの元に案内しろ。お前はここに残れ」
そう言って教会の者に案内させもう一人の男のガキが寝ている部屋に向かう。
変わった様子の無い子供に安堵し状態を検証する。見れば酷い衰弱で魔力もほぼ空に近い。生命量すれすれと言ったところか。
――魔力は多すぎても少なすぎても人体に弊害を齎す。多すぎて魔力過多となれば制御不能で体内に溜まった魔力が体外へと流れ出ようとする。逆に少なすぎると栄養失調の状態と同じく生命維持が困難になり命を落す。どちらもバランスを崩せば命取りだ。少なければ大人しく死ぬだけだが過多であれば苦しさの余り暴れる。それが周囲を巻き込み場合によっては甚大な被害を被ることがある。どちらがマシかと言われれば…‥どうだろう。ガキの死なんぞどちらも後味の悪いものだ。死なせたくはない。
「‥‥極度の衰弱か、しかし良く生きているなこいつ。おい、薬は飲ませたのか」
付き添っていた神官に施した処置の内容を詳しく聞き出す。小規模の教会だと偶に薬切れなどと、とんでもない事が普通にあるのだ。特にこの教区は数年前の災害で多くの死傷者を出した場所、聞いておいて問題は無かろう。