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夢の中の見知らぬ女性ー②

 彼女が消えた。そしてこの場には誰もいない。


 『わたくしの気持ちが…‥‥』 


 私の意識に流れてきたこの言葉の主は彼女だと思う。

 この場に居ないのに何故か彼女の気持ちが、感情が、理解できるのだ。

 どうしてかは分からないが私には彼女の気持ちが手に取る如くわかるのだ。

 まるでシンクロしたみたいに…‥‥


 今の彼女は一人の美しく高貴な女性であろうと奮闘する健気な人だ。

 

 今、私の目の前には見知らぬ年配の女性が。厳しい表情で見下ろしている。

 どうやら叱責中らしく刺々しい言葉がまるで刃だ。

 

 ‥…えっ? この人私に苛ついて暴言吐いてるの!?


 どうしてなのかと戸惑うのだが声が出ない。ひたすら耐えるしかない。

 散々吐いてスッキリしたのか年配の女性は満足気に姿を消した。

 次は老夫婦だ。これまた聞くに堪えない嫌味のオンパレード。


 ‥…はぁぁぁ? 何なのこの人達? ちょっ意味わかんないだけど!


 逆らえない。口答えが許されない。彼等が言い終わるまでジッと待つ。


 次は知らない夫婦。若いな。今度は何だろう、どうせ禄でもないと思う。

 案の定、若夫婦はお互い罵り合い侮蔑の眼差しを向け合っていた。だが二人は私に目を向けることは無く完全に居ない者として無視をするのだ。何故か私は自分の両手を二人に差し出すのだが‥…一瞥も無く二人は背を向け拒絶を表す。


 ‥…うわっ、これ結構、酷くない? 一番キツイかも。


 暴言や嫌味を吐かれてもまだ耐えれた。だって私を見てくれるもの。でも求めた手を取ることもなく無視されたのは正直辛い。空気の様に扱われるのは私の存在を認めていないのだと突き付けられた気がして落ち込む。

 『私って、要らない子なの?』

 

 どうやら若夫婦は彼女の両親で、一人っ子らしい。男の子が欲しい両親から要らない子だと思われ愛情を得られないでいた。

 この両親に対する感情が一番揺れる。動揺が激しいのだと思う。

 求めて得ることのない親の愛、助けを求めても受け入れられなかった、安心できる居場所を親の元で作れなかった。何とも複雑な感情が湧いて湧いて溢れてしまいそう。

 

 ‥…これ、無理くり蓋して感情が溢れないようにしてたんだろうね。辛いな


 誰もいない暗い部屋が見える。私の目頭が熱く何かが溢れそう。


 ‥‥これ? ああ、涙だ。そっか泣きたかったんだ。


 声を出さずに一人で泣くのだ。グッと唇を噛み締めて。涙が溢れても声は上げな‥‥上げれないんだ。


 

 

 彼女は怒りと悔しさと悲しさを胸に抱え苦しんでいた。その苦しみを打ち明けることも手放すことも出来ず独りで苦しんでいるのだ。

 そう、辛くて苦しくて。どんなに苦しくても声に出せない。でも心は悲鳴を上げていたのだ。悲痛な泣き声に私まで苦しくなると同時にそこまで耐える理由を知りたくなった。

 たった一言『助けて欲しい』が言えない。グッと言葉を呑み込み一人耐え忍ぶ彼女を誰が責められると言うのか。

 人前で泣く事が出来ない彼女を可愛げが無いと思うか? 私は思わない。泣きたくても泣けない人はいるのだから。耐えて耐えて頑張る彼女に『泣いていいよ』と私は声を掛けていた。聞こえたのならいいのだけれど。




 他人に弱みを見せることを禁じられていた彼女。何故禁じられているのかは知らないが、ずっと我慢を強いられている。弱さは弱点だと教育され強くあるべきだと。強い者が正義で弱気者が悪いのだと教え込まされていた。

 ‥…洗脳だよね、これ。幼い頃から価値観を植え付けられ強いられている。

 

 彼女の本音は違う。強さを正義とは思わず、その強さを正しく使うことが正義だと理解していた。弱者が悪いのではなく悪くなる環境が良くないと考える彼女にとって施された教育は苦痛以外の何物ではなかろうか。

 逆らわず従順にあるべきだと教え込まれたその先に彼女は何を見たのだろう。

ジッと彼女の後姿を見ていると知らない感情が私の中に流れて来た。

『わたくしは弱い。いつも誰かに守ってもらいたいと切に願う者。でも誰もわたくしの言葉に耳を傾けないで‥…』

 

 ‥…周囲が許さない、弱い存在でいることが許されない。孤独を抱え独りで立つ事を余儀なくされた孤独な人。強い女だと虚像を押し付けられた悲しき人。愛情を求め愛を乞うても得られなかった寂しい人。

 ‥…ああ、彼女は諦めたのだ。得られる筈の栄光も名誉も‥‥愛情も。全て諦め独りで生きる道を選ばざる負えない境遇に追い込まれた哀れな人。私は自分と共鳴する彼女の報われない想いに泣きたくなる。

 

 『貴女は誰の為にそこまで頑張ったの?』


 この言葉は私か彼女か何方からだったのか。私達の意識はシンクロしている 

 

 ‥‥ああ、私、彼女だ。彼女が私だったんだ。


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