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夢の中だと思っている。

 

 「‥‥夢の中なのに夢から目を覚ます夢って‥‥‥」


 見覚えのない他人の寝室で気持ち良く目覚めてしまった。

 

 「これ、お持ち帰りされちゃったってやつ!?」


 目覚めた直後は見知らぬ天井を見つめドキドキのシチュエーションに胸を躍らせた自分である。暫く恥ずかしさに悶えてしまった。 

 思わずぬか喜びをした自分が今は恥ずかしい。だが散々悶えた後だからか今は無かったことにして落ち着いた。


 「うん、どう考えても夢だよね、これ」

 

 一度取り乱した後は妙に冷静になれるのかと知らない事実に気が付いた。

 冷静になれば頭も働くのだろう。


 「夢占いに興味なしだったから今見ている夢の意味わからないね」

 

 夢占いに明るくなくても周囲を観察するぐらいなら出来るかな‥‥

 辺りを見ても誰もいない。夢の中でも一人寝とは‥…

 

 振り返ってみた私は、他人の部屋で上質なシーツに包まれて朝を迎えた。しかも久し振りの充ち足りた幸福感のまま目覚めると言うご褒美付きで。それとは別に刺激が五感を擽る違和感に戸惑いもある。サラリと肌に触れるシーツの感触が生々しい。気持ちは夢と思い込みたいのに直感は違うと訴える。それでも僅かな齟齬は些末な事と切り捨て今を甘受する。なのにあり得ない考えが頭を擡げてくる



 ―――もしこの世界が現実なら


 今の私に『お泊まりOKな関係』は異性同性問わず思い当たる人物がいない。仲良しの女友達は誰かの妻になっているし、男友達は‥…うん、友達以上の関係に発展したことはないし気楽にお泊りできる程の仲でもない。勿論、彼氏などと言う夢のような存在はいない。


 (恋愛経験どころか恋愛のレの字も知らない)


 そんな私が他人のお宅にお泊りだなんてハードルが高過ぎる。敢えて考えられるのは酔った勢いで‥…うん、あり得ないね。


 ‥‥‥夢オチ。間違いなし。

 

 持論に確証を得て一安心。これで心置きなく周囲の探索に集中できる。

 

 (良かった)


 憧れでもある『お持ち帰り』だが実際には無理。

 羞恥心で悶えること間違いなし。そんな私には夢で充分。

 一度馬鹿げた発想は置いておこう。


 


 現実では在り得ない場面なら逆に楽しもう。そんな思い付きに胸が躍る。

 

 

 「わ~、ちっちゃ!」


 声が甲高い。何時もの声と全く違う。


 「ふぇ~声までぇ!」


 これが自分の夢が見せる技かと思うとしみじみ感慨深くなる。

 じっくり我が身を見下ろして『クスッ』と自然と笑みが零れた。

 



 「何歳ぐらいだろう? 幼児になっちゃった」


 見下ろした身体は『幼児仕様』変身願望ならぬ幼児返り? 若返りにしたって返り過ぎだと思う。

 そう幼児サイズなの! 成人女性が一晩で幼児になるわけがない。だからここは夢の中で間違いない! 生々しいけどね。

 暫くは身体を見渡し、ほっぺを触るとぷにぷにっとして柔らかい。

 お手手も二の腕も、むっちりぽにょぽにょ。ぷにむちぷにもち我を忘れて触感を楽しんでいた。


 「はっ?!」


 我を忘れて幼児の魅惑ボディに陥落しそうな自分を戒めた。気を取り直して部屋の観察を続行しよう。 

 

 興味本位で部屋の中をグルリ~と見回しこの部屋が女の子の喜びそうな可愛い仕上がりなことに気が付いた。それにサイズは小さ目だが高級感のある家具に天蓋付きベッド。一般家庭では先ず使わない代物に目を瞬かせる。部屋は広いから圧迫感はないけれど見慣れなさで違和感が強い。

 

 これが自分の想像力の賜物か、部屋のディティールは満更でもない。


 (わ~お、想像力豊かじゃない私って。うふふ、悪くない)


 全体的に少女チックな仕上がりだけど一々上質な物で揃えてある。

 うひょー、お人形まで‥…これ絶対私の趣味ではないよ



 「あっ、ドア」

 

 ドアに気がついたらその先も気になるでしょう。好奇心と言う名の誘惑にはあがらえない。ゆっくりベッドから床に降りてドアに近付く。 


 これは、開くの? いや開けても大丈夫? 開けていいのかな?

 気持ちはドアの向こうの世界にある。

 だがしかし、ここには越えねばならない試練があった。


 …‥幼児の背丈ではドアノブに手が‥…届くのには少し足りない。


 (むむむ、これどうしよう…‥)


 諦める気にはないが現実問題ちょっと届かない。椅子? 台? 何かない? 周囲を鷹の目の様に鋭く見渡しても都合の良い物は見当たらない。


 全然、目が覚める気配もない今の状態で大人しく部屋で過ごすのは退屈。

 それに普段の目線よりかなり下。床が近い。何時もと違うだけで新鮮に思える。これはイイ暇つぶしになるねと楽しみたい欲望を抑えるのは難しい。


 『探検しようよ~』芽生えた悪戯心には逆らえない。逆らわない。


 (ソファーの上のクッションを台替わりに使えばいけるんじゃない?)

 

 閃いた私は賢いねと自画自賛を忘れない。クッションを敷く。

 ちょっと不安定な気もしなくはないがここは気合で乗り切ろう。やればできる。そう信じよう。

 

 「ぐっ、ぐぅ、がっ‥‥」乙女らしからぬ声は気にしない。それよりも部屋の外だ。やっと手が届いたドアノブをもう一度回す。

 「ぐぅぅぅ‥‥」手に力が入らない。


 (ちょっとちょっと、どうしてこのドアノブ高いところにあるの?)


 何故、ドアノブが届かない設定なのかと苛ついてしまう。

  

 (私よ、ここは低い位置で良くない? 高い位置にする必要あった?)


 自由の効かない夢にイラッときた。

 

 悪戦苦闘の末、ドアを開けることが出来た‥…わけではない。

 外側から勢いよく開いたのだ。

 ノブにへばり付いていた私は開いたドアの勢いに負けた。


 ゴン!

   

 (ああ、幼児の身体って頭が大きいんだっけ…)

 

 案の定バランスを崩した私は頭から床に倒れ…‥薄れゆく意識に女の人の悲鳴が聞こえた気がする…‥‥


 この後のことは知らない。

 

お読み下さりありがとうございます。





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