特訓と
「朝よ、ディーンおきて」
今朝起こしてくれたのはソフィアだ。俺と目が合うとニッコリ笑いかけてくれる、クリクリの目に黒髪が良く似合う。
いつものルイナさんのような荒々しい起こし方とは大違いだ。
「朝だー!さっさと飯済ませて特訓だ!」
今はカミラさんの家で特訓のためカイと共に寝泊まりしている。
みんなで食卓を囲む、カイは嬉しいような寂しいようなどちらとも取れる表情を浮かべていた。どちらにせよカイらしくない表情だった。
ここでもカミラさんのハンター教室
「そうだな、今日は個人ギルドについて話をしようか、」
「私は、カミラさんのギルドでハンターになったの!」
「ソフィア、その話は...」
カミラさんとソフィアが一緒に暮らしているのはそういうことなのか。
「いいや、話させてもらうわ、カミラさんは雷竜に選ばれたすごいハンターなのよ」
わぁ、とカイの目が輝いた。
「カミラさんが全盛期の頃には、五十人ものギルドメンバーをかかえて、大陸最大のギルドとして名を馳せていたの」
やれやれと、カミラさんが続ける
「五人一組という当時珍しかった編成で一世を風靡してたんだ。
でもな、ある特任中にレッドゲートに囲まれちまってな危うく全滅しかけた。そこで、大怪我を負っちまったのさ。おかげでだいぶ制限のついた体になっちまった。それで、、、」
「でも、だからって大陸一のギルドを解散させなくてもよかったんじゃ?」
思わずディーンが口走った。
「そうはいかねぇんだ。ギルドの長がみっともない姿晒しちゃァ行けないんだ。Aランクのハンターもごまんといた。そいつらの名が廃る。」
さっ、思い出話はこの辺にしようか
カミラはマップを取りだした。
朝食を終え、マップに示されたグリーンマップ多発地区に俺たちは出向いた。
そこからは単純だ。出てくる次元獣という次元獣をひたすらに討伐して行った。しかし、それは苦難の連続だった。
「目をつぶって破壊させるんじゃない!目で潰すのではなくその意識を手で行うんだ!」
スキルは意識的な要素が大きく俺が今までやっていたのは目をつぶることで次元獣を破壊していた。
だがこの特訓では目をつぶるのではなく手を握ることで破壊を発生させるという特訓だ。
「目よりも手の方がコントロール、筋力ともに上だ!あの時のように抵抗されても手なら耐えられるかもしれない!」
グリーンゲートから出てきたのは、十数頭のウリボーのような次元獣、話をしながらカミラさんは次々と片付けていき、残すは三体のみとなった。
この三体に集中していく、
熱を帯びる目、その意識を手にも移していく。上腕三頭筋が熱を帯び始めた。
腕を、俺に向かって突進してくる三体のウリボーに向ける
ドクン
「うっ」
目の奥の奥、脳みそが揺らぐ
目で潰しちゃダメだ、、、
手に力を入れてじんわりと握っていく、
ある所まで握っていくと、公式の野球ボールを力ずよく握っているような感覚になる。
ドゴーーン!!
突進してくるウリボーのわずか後ろのアスファルトを粉々に握り砕いてしまった。
視界の隅から突然雷撃が飛びウリボーを仕留めた。
「ディーン、ちと発動に時間がかかり過ぎだ。」
危うく突進を食らうところだったぞと心配そうなめで俺を見ていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「エネルギーの出力がまだ不慣れなようだな、余計に消費しすぎている。あと、まだ目で潰しているな。」
日が暮れるまでこの体当たりな特訓は続いた。その頃には俺の腕は内出血だらけになっていた。
「ディーン内出血をみてみろ、肘から手首の十五センチ下までの範囲が内出血している。これは十五センチ分まだ目の力を使ってるってことだ。
あと、エネルギーの調節をちゃんとこなさないと内出血じゃ済まないぞ。」
と、腕が爆発するジェスチャーをしながら説明してくれた。
「カミラさん、ディーン!」
カイと特訓をしていたソフィアが遠くから声をかけてきた。
「カイ、ちょっと本気出しすぎちゃったみたい」
駆け寄ると、カイも俺の腕のように膝関節の当たりが内出血していた。
「オーバーヒートだなこりゃ」
よいせと、カイを担ぐカミラさん手馴れてるようだ。俺たちは家路についた。
その夜、
腕の痛みでなかなか寝付けなかった。ガチャンと玄関が開く音がした。
窓の外を見ると、カイが出ていくところだった。
感じる、
カイの悲しみを、今のカイは悲しみに満たされている。
俺の胸の高揚を感じる、初めて次元獣を倒した。あの時の高揚、、、
シャツの胸元を握りしめる
破壊を...
いつの間にか、眠っていたのだろうか
目が覚めた。
今のは、、、夢だったのか?
いや、シャツにしっかり握ったシワが残っている。
なんだ、この生き物が感じる“負”の感情に対する快感は、
夜も深け、時刻は零時を回っていた。
カイは、まだ帰ってきていないようだ。カイの向かった場所へ不思議と足が動いた。しばらく歩くと遠くにカイ姿が見えた。
俺が近づくにつれ、カイの恐怖心も増していった。夜は、手に取るようにして相手の感情が分かることに気がついた。
さらに近づいていき、カイが恐る恐る後ろを振り向いてきた。
俺と目が合うと胸をなでおろした様子だった。
「なんだ、ディーンか、昼間と雰囲気違うな」
エネルギーの質やら密度やらがなんだか違うと言われた。
そう言われ、ステータスを確認してみると、各ステータス値が格段に上昇していた。『闇夜鼓舞』という自信強化スキルが付与されていた。
カイと、そのまましばらく無言のまま、静かな街をさまよっていた。