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#1 出逢い

危ない表現は無いです。

短いお話ですが、BLがお好きな方はどぞ。


 七色に染まりつつある空の色が、滲んでいる。それはまるで、この秋空に彩りを添えているかのようである。

「お〜い、彼方〜夕飯だぞ!」

 弱い西日を浴びて、一人の少年が土手をキョロキョロしながら歩いている。

「彼方のやつ、何処まで遊びに行ったのかな……ん?」

 視線の先に土手の草むらに横になっている人影を見付け、その少年は駆け出した。

きっと少年は、その人影を先程から捜していたのであろう、彼方という少年だと信じてズンズンと近づいて行った。

「彼方?…ってあれ?」

 その姿を見下ろすかのようにして声掛けたまでは良かった。しかし、そこにいた人影は全くの別人であったために、彼の者の声は消え失せてしまったのである。

 そう、空を見上げて寝転がっているその姿、形はまるっきり違っていた。

 真っ黒な艶のある髪は、オレンジ色の光を浴びて淡く燈めいている。そして、腰まであるだろうと思われる長い髪、無造作に寝転がっているため草の上に四方に散らばっていた。

 それより何より、真っ白い透き通るような肌に浮かび上がっている黒目がちな瞳が、何か遠い目をしている事に気付き、その少年は目を奪われた。

「あ……すみません……人違いでした」

 一瞬見とれてしまった事の恥ずかしさから、言葉がぎこちなくて赤面しそうになる。

 しかし、こんな所で一体何をしているのであろうか?ふと疑問が生まれてしまうのを少年は気付いてしまった。

 自分とさほど年が違わないであろうこの者。視線は未だもって、空を静かに見上げている。今、一陣の風が吹き抜けていった。ブルゾン姿の少年の服がシャリシャリと膏をたてる。

「あの?此処で一体何をしているの?」

 少年は、興味をそそられて問いかけてみた。しかし返事は返ってこない。

 代わりに、今まで静かに横になっていたその者の右腕が、静かに弧を描いて空を指差したのである。

「空?」

 少年はその指が指し示す空を見上げた。

 何も変わり無い空は、悠然とそこにあるだけで何も自分に教えてはくれそうにも無く、再び目線を戻した。

「空がどうかしたの?」

 不思議に思いもう一度問いかける。再び風が二人の間を流れて行く。

「雲は、何故あんな風に形を変えながら流れていくんだろうね?」

 初めて言葉を発したその声は、イメージ通りの透き通った声で心地良く感じられた。

「何故って、それは上空に風が吹いているからだよ」

 少年は、当然の事をロに出していた。

「風……」

「そうさ、風が吹いているんだから、いつまでも同じ形を保っている訳ないでしょ」

 少年は、続ける。

「まるで初めて空を見るかのような事を言うんだね?何処から来たの?オレは、三枝葵。この土手の下に家があるんだ」

 視線を家がある方へと向ける。すると弟の、彼方を捜していた事を思い出してハッとした。

「ごめん。急いでるんだった。君はまた此処に来る?」

 葵は、何だかまたこの者に会いたいと思ったために、すかさず問いかける。

「風になりたい」

「え?」

 ボソリと呟かれた言葉が聴き取りづらくて、葵は聞き返した。

「ありがとう。葵君」

 会話が通じていないのかも知れない。お礼を言ったその者は、静かに立ち上がった。

 葵の背丈よりも高いその者は、フワッと、まるで春風のような穏やかな風を伴っているかのように、黒い髪を揺らしながら葵の横を通り過ぎた。

 その様子を、ただ呆然と見送る。まるで、この世のものでは無い者でも見ているかのような感覚を覚えていた。

「お兄ちゃん!」

 突然の背後からの声に、見送っている者にだけ気を取られて、彼方の声に一瞬気付かなかった。それ程、今立ち去って行く看の事に思いが集中してしまっていたらしい。背中を叩かれて初めてその存在に気が付いたのである。

「また、会えるかな……」

 後ろ姿のその者を見送りながら願った。しかし、その後、彼の者がこの場所に来る事は無かったのであった。


 今日は、転校一日目。

 夏も終わりを告げようとしている。秋の始まりの二学期。

 親の勝手な転勤の為に、葵はここ、静岡の二子高校に転入する事になったのである。その上、男子のみの全寮制。昨日、一通りの手続きを済ませて、荷物も運び終わり、葵は一段落を終えていた。

「葵も社会勉強と思って、寮生活でもしてみれば?」

 なんて、勝手な母親の言い種にも参ったものだ。

 今まで悪友と楽しんで来た、東京の華やかな高校生活。それが、一晩にしてこんな山しか無い田舎の学校(しかも全寮制)に押し込められるなんて、どう、のたうちまわっても自分には合わないだろうなと思うと、 お先真っ暗な気がしてならなかった。

 そんなことを考えながら、朝食は寮の食堂で終わらせて、そそくさと今後の準備に取りかかる葵。

 始業式は、体育館で行われる事になっているのだが、その前に、職員室に顔を出さなければならなかった。

 しかしこの学校は、広い!の一言に尽きる。小学校、中学校、高校とエスカレーター式の学校ともなればこんな広い敷地になるのかも知れないが。それにしても、何処を見渡しても、木々が立ち並んでいて葵の目には、森か林かと思い違いしてしまう程にであった。

「だあ一一一!何処なんだよ!ここは!」

 そんな事を叫びながら、葵は寮を出て、駆けずり回りながら、敷地内を彷徨っていた。

 ふと、脇の木立から声が聞こえて来たために、誰かがこの辺りにいると察し、道を聞こうと足早に駆け寄った。

「すみません」

 木立の影から聞こえていた声が、葵の声で遮られる。

「今日からこの学校に転入して来た者ですが……」

 一瞬目を疑った。

「何だよ……今良いとこなんだから邪魔すんなよな……このチビ!」

 突然襲いかからんばかりに、目の前に歩み寄って来た大柄の男は、葵の胸ぐらに手を掛けんとしている。

「え?あ…道が分からないので、教えてもらいたいのですが……」

 一瞬躊躇ったものの、どうにも分が悪いと察して後ずさる。

「道だ?んなもん、この先の掲示板でも見るんだな!分かったらさっさと行きな」

 まるでこの場からさっさと去ってくれとばかりだ。

「そうですか。どうもありがとうございました…失礼します」

 葵は言われたた通り、この場からさっさと離れた方が無離だと、シャツのネクタイを直して後ろを振り返った。

「じゃ!オレもこの子と一縮に行くよ!」

 突然後ろから腕を掴んで来る者がいた。

「え?」

 突然掴まれた腕を引っ張るかのように、駆け出すよう促されたのである。

「おい!瑞樹!待て!」

 そして、後ろから追い掛けて来る大柄な男。

 葵は何がなんだか分からずに、この瑞樹と呼ばれる者に先導されて走らなければならなくなったのである。転較早々の一大事、そんな予感であった。


「此処まで来れば、もう平気だろう」

 ド派手な金髪のその青年は、校舎の一角の水飲み場で、顔を洗い終えて薄っぺらい鞄からタオルを取り出しながらそう言い放った。

 葵はというと、その近くの階段に座り、ハァハァ息を整えている。

 見かけは華奢な感じだが、一体どうして。その走りっぷりは葵の数段上を行く。

「いやあ、助かったよ。君が来てくれて」

 そう言いながら、瑞樹と言う青年は、葵の隣に腰を下ろす。

「オレ、三年D組柳瀬瑞樹。君は?」

 にっこりと、微笑んでいるその端正な顔に吊られるかのように、今あった物が全て飛んで行った気分になる。

「三枝葵。一年D組のハズなんですけど。確か……」

「ああ、転入生だったよね。さっき道聞いてたから。ごめんごめん。いきなリ、こんな事に巻き込んじまって」

 顔を洗ったわりには、頭から水を被ったかのように、濡れたその髪の毛を掻き揚げながら、瑞樹は人懐っこそうに微笑んでいる。

「どうかしたんですか?あの追っかけてた人。ただ事じゃ無いような勢いでしたけど?」

 先輩と分かったからには、敬語なる物を使わないと。只でさえ全寮制なんだし。恐い人には見えないけど念のため。葵なりに、したたかな先輩後輩のあり方は心得ている。

「ああ。忍の事?良いの良いの放っとけば。全く五月蝿くてたまんないんだよな。いつまでも保護者みたいに付きまとうんだから」

「はあ……」

 困ったもんだとでも言うかのように、瑞樹は頬に手をのせる仕種をする。その瞬閥、耳のピアスが目に入った。いや、それよりなりより、首筋にキスマークらしき物がしっかりと刻み込まれている。葵はドキリとした。

「あの?職員室何処なんでしょうか?そろそろ行かないと……」

 何だか、関わってはいけない人の側にいる気がして来たために、そそくさと立ち上がろうと腰を浮かせる。

「そっか。職員室は、その校舎の一階にある。さて、オレはこれからさぼり。君は始業式楽しんで来いよ」

 指差されたその校舎の入りロがここからも伺う事ができる。ホッと息を付く事が出来て葵は生きた心地がしていた。

「ありがとうございました。では失礼します」

「また会おうな」

 ブンブン手を振りながら微笑んでいる瑞謝を尻目に、葵は急いで駆け出した。

 あと五分で始業式は始まる時聞であった。






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