8話
前回は失礼しました。
寝ぼけて投稿したため、タイトル他ミスがありました。
後日訂正します。
「くそ、いてえええええええ」
「叫ばない、無駄に血が出ちゃうでしょ」
「そこまで深くねえよ。いつつつつつ」
あの後騎士マッシュは俺を殺さずに見逃し、挙句にあの目つきの悪い修導女を呼んで手当てをさせている。
教会の中は静まり返っていて、俺のうめき声が響いてしまう。
明かりは治療の為の最低限しかつけておらず、俺、アリシア、そして意外にも綺麗なまなざしをして
いた修導女の顔がうっすらと照らされていた。
「あんた、まさか目が悪いのか」
「ええ、生まれつきね。だから顔つきが怖いでしょ?いつも睨むように見てるから。近くなら見えるんだげどね」
気を紛らわせる為にそんな会話を紡いだが、突如、傷口がカッと熱くなる。
「いって!!!何すんだ!!」
「塗り薬よ。今は染みるでしょうけど、塗れば傷も膿まないし、熱も抑えてくれるから。これで明日いっぱい安静にしてればね」
「あ、明日は………」
アリシアが俯く。
「明日1日中は安静にだって?あんた昼間広場にいなかったっけ?…明日には奴と決闘だ。正々堂々とな」
「はあ?こんな目に遭ってまだ決闘とか言ってるの?無理に決まってるじゃない。死ぬ気?」
こっちはそもそも決闘すらする気はなかったけどな。
そうアリシアに言ってみようかと思ったが、それは完全に八つ当たりだ。
八つ当たり、よくない。
とはいったものの実際こんな状態ではまともにやり合えるわけがない。
斬られたのは左脇と二の腕、剣の切れ味が良くなかったせいか臓器には届かなかった。
が、奴に蹴っ飛ばされた際の打撲がひどい。
このせいで体のあちこちがズキズキ痛むし、傷も動けば血がにじむ。
本当に何日か安静にしないといけない状態だ。だが、奴は明日必ず決闘に来い、と言った。
行かなければどうなるか。いや、
「いや、やるしかねえ」
「いやどう考えても無理よ。私からも口添えするから延期してもらいましょう」
「言っとくが、俺たちを庇うような発言を奴にしたら、冗談抜きでお前も俺たちと同じ扱いになるぞ?」
「それは………」
目つきの悪い、もとい目の悪い修導女は言いかけるが考えるように黙り込む。
「…………………」
「…はあ」
気まずい沈黙に耐え切れず、俺は財布からいくらか金を出し、アリシアに差し出す。
「アリシア、頼み事良いか?」
「はい!なんでしょう」
「これであの酒場から今日の残り物でいいから適当に肉と酒、もらってきてくれないか。あるいはパンでもいい。とにかく食いもん、よろしく」
「でも」
「重要な事なんだ。明日、どうあがいても決闘は避けられない。どうせ行かなきゃ抵抗できずに捕まるだけだ。だったら最善を尽くすしかないだろ」
さ、行った行った、と手を払う仕草をする。アリシアは俺の言葉で多少なりとも元気が出たのか金を
掴んでと、と、と、と走ってお遣いに行ってくれた。
そう、例えどんな最悪な手段でも最善を尽くすさなくちゃいけない。
そして、朝。教会広場前。
朝というか既に陽が昇っていて昨日と同じ時間だ。
昨日と違うのはこの町の人間がほぼこの教会前広場に集まっているという事だ。
広場を囲むように騎士の連中が等間隔で広がり、その周りを町の人間が囲む、という状態だ。
そしてその輪の中心にいるのが俺と、騎士マッシュ。
こっちはぼろぼろの体を引きづって来てるというのに向こうは堂々とした井出達だ。
だんだんムカついてきた。
俺は苛立ちを隠そうとせず、昨日アリシアが買ってきたパンを乱暴に食いちぎった。
「最期の食事、ですか」
「うっせえこっちは傷だらけの体無理やり動かしてきてんだパンぐらい食わせろ」
「やれやれ。元はあなたが原因でしょうに。この決闘も提案したのはあなただ。私を責めるのは八つ当たりでは?」
やれやれ、といった感じに肩をすくめ、おもむろに奴は兜を取る。整った顔立ちが出てくる。
「これで私の顔を間違えることはないでしょう」
「俺はおまえの顔なんて1度も見た事ないから意味ないけどな」
「違います。今あなたはこの顔を覚えるのです。これがあなたを殺す者の顔です。その穢れた体から解放された魂が、天に戻られてもなお、この顔を忘れないよう覚えるのです。立会人はやはりシスター、それと私達の中から1人、出させいただきます。両人、それでよろしいですね」
そう言って、奴は剣を構えた。目の悪い修導女と区別のつかない騎士1人が頷く。
脳筋に騎士という地位、気取った口調に整った顔。なにもかもがむかつく存在だ。だから、
「てめえの顔なんか気に食わねんだよ!!」
言ってやった。
そして俺は立会人が合図を出すのを待たず、胸から魔槍を生み出し、奴のむかつく顔めがけて投げつけた。
俺の憎しみのこもった魔槍をそれでも、既に構えていた剣であっさりと弾いた。
弾かれた剣は周りの騎士の1人に飛んでいき、騎士と周辺の群衆から悲鳴があがる。
「この、くそ、く、むかつく、態度、しやがって」
俺は連続して魔槍を投げた。
槍自体は何度も生み出せるが、3本目あたりから脇に血がにじむ感覚がある。
あまり体力の余裕はなさそうだ。
一方、鎧に身を包んだ奴はその剣で次々と飛んでくる魔槍を弾いていく。
しかも、弾く先は群衆に飛んでいかないよう、上手く方向を決めて弾いている。
器用な真似を。
「逃げ出さないから何か策があるかと思えば、まさかの悪あがきとは。見苦しい」
うるせえ。俺はひたすら魔槍を投げた。接近戦をすれば一瞬で終わる。だから俺は魔槍を投げ、奴を足止めし続けた。疲れからか1本狙いがズレ、奴に届かず、手前に落ちる。
だが、魔槍は影となり、地面へと溶け広がっていく。
昨日の夜その光景を体験していた奴は「フェンルルの牙」が咬みつく前に、飛び退いて下がった。
それにつられてか周りの群衆も下がり、更に輪が広がる。
魔槍を投げ続けるうちに額に脂汗が浮かび、息が上がってきた。
多分、熱も出てきた。思わず、苦しくなり魔槍を投げる手を止める。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
一方奴は息を切らす素振りすら見せない。
途中で何回か「フェンルルの牙」が発動するよう手前に投げつけ投げたが、それすらも弾き切って見せた。
苦しい。
俺は息を整える為、膝に手をつき、深く呼吸する。
「ここまでですか。もう諦めはつきましたか」
奴の近づく足音が聞こえる。重たい鎧のこすれる音に反して軽い足取り。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
思いっきり叫んだ。
何もかもやけになったかのように、だ。
俺は魔槍を1本、広場の中央に投げた。
それは地面に落ちると影へと溶け、大きく、今まで以上に広がっていった。
影の広がりが止まる様子を見せないので、奴も仕方なく下がり、周りの群衆も悲鳴を上げ更に下がった。
その瞬間、俺は背を向けて走り出した。
向かう先は教会裏にある雑木林。
広がった群衆の輪の薄い所めがけて走り、
「どけ!どかないと殺すぞ!!」
と叫び、道を開けさせた。
奴も追っかけてくるが、追いかけるには影を迂回しなければならない。
「皆を避難させなさい!決して影には触れない事!立会人は不要。ここからは私1人であの賊を追いかけます。レディー、例えどんな結果になっても逃げ出さないように。いいですね」
奴が周りに気を掛けている間に俺は雑木林の中へと入った。
奴に追いつかれる前に何としても辿りつかないといけない。傷口の開いた体で疲れながらも何とか走った。
心臓の鼓動が体中に響くが、そんな事は気にならなかった。ふと、雑木林が途切れ、開けた場所に着いた。
ここは雑木林の中の伐採跡。
雑草が生い茂り切り株がいくつも残っている。
目的地に辿り着き、そして、吐いた。
もう吐き気を我慢できない。
昨日の夜から食べ続けていた胃の中の物を全部、吐き気が収まるまで吐き続ける。
「今更死の恐怖に怯えているのですか。ですが、後悔してももう遅いです」
以前も同じ様な状況になった事があった。
その時は吐き気を我慢したが、その後が酷かった。
何日も吐き気続けた。
俺が吐き終わると、既に奴が追いついていた。
どうやら、俺が吐くのを眺めていたらしい。
「なんか言ったか」
「いえ何も。ですが恐れる事はありません。力を抜けば、痛みを感じない、と聞いたことがあります。あなたが苦しまないよう一瞬で終わらせてあげます。シスター、聖女候補である彼女の心配も不要です。我が主、アルドラゴ様であれば彼女を匿う事が出来る。最もあなたにとって彼女はただの金貨にしか見えていないようですが」
確かにアリシアは金づるだ。彼女を送り届ければ金貨300枚。正直それだけあればもうこんな面倒くさい事やらなくても暮らしていける。
けど昨日の夜、アリシアとの会話をしていて妙な違和感を感じた。普通の暮らしを望まない。
聖女のとしての役割。
そのせいで今命追われる立場だというのにアリシアはそれを諦める様子がなかった。
というより他の生き方を否定しているかのように感じた。
それが何故か気になる。
奴が剣を握る手と足に力を籠め、こちらへと突っ込んでくる。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次辺りで決着がつくはずです。たぶん。
本編で出てるキャラの短編集も投稿してます。そちらもどうぞ。