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ヨルム様の独り言日記  作者: 斎藤 怜
5/22

5話

蛇が書く前回までのあらすじ


とうとう吾輩の出番参上!


下僕と人間は吾輩の登場に畏れ慄いていたようだが、さすが吾輩っ!


戦闘でも吾輩がくれてやったフェンルルの牙を使って見事勝利!


あれ、もしかして実質吾輩の1人目立ちでは?いやーまいってしまうなーこれはテコ入れだわーたはー笑



方針を決めた俺とアリシアはまず近くの教会のある町を目指した。


それは棺桶の心配は無くなったのでもう一つの心配を解消するためだ。棺桶を引き摺る鎖を買う為に売り払った天の衣、とまではいかなくても服は着るべきだろう。


棺桶に関しては情報屋に引き渡して、後で合流する、という適当な嘘でごまかしておいた。


それにしてもローブに裸では物乞い以下だ。


風邪にでも罹ったら厄介だ、とも危惧していたが、意外にも見た目に似合わず頑丈らしい。


寂れた行商路とは言え、あの廃村にも酒場があった。という事は行商人は通っているはずだ。


俺の予想は当り、数日行くとそこそこに栄えた町に辿りついた。


町に入るまで警戒を続けていたが、あの襲撃以来追手は来なかった。


「本当に風邪はひいてないんだな」


「はい、生まれてから一度も風邪をひいた事はありません」


何故か得意げに言われてもな?


「ほら、ここだ」


と、目的地に着いた。


時間帯的に集会を終えた後なのか、中から人がぞろぞろと出てくる。


ある者はそのまま帰路につき、ある者は仕事へ、そそくさとしている連中はきっと酒場にでも向かうのだろう。


人がいなくなるまで待つ事にした。アリシアは教会に向かって祈りを捧げ始めた。俺は周囲を見ながら待つ。


流石に町の中では襲われはしないだろうが、念の為だ。


最後の1人が出たのだろう、修導女が見送り出て教会の扉を閉じようとする。


そこへすかさず扉へと手をかけた。


「聖導師様のお導きを、修導女様」


教会お決まりの挨拶をしてはみたが、修導女はあまり俺を良くは思わなかったようだ。


顔は整っているが、目つきがきつい。


どうやら俺がよそ者、それも熱心な信仰があって巡礼しにきたわけではない、という事が分かっている顔だ。


「本日の集会はもう終わりました。残念ながらこの町の教会は宿としての施しは与えていないのです。どうか、お引き取りを」


「別に宿代をケチりに来たわけではない。実は求めている施しは特別な施しなんだ。なぁ聖女様」


と、俺の後ろにいたアリシアに話しかけ、彼女を前に出す。


「聖導師様のお導きを、修導女様。ですが私は聖女ではなくて、その聖女候補でして」


アリシアをみた修導女は一瞬面くらったように目を見開いたが、彼女が言葉を続けないので再び不機嫌そうに目を細めた。


あーこの娘。


挨拶はそれらしく言えるが、人との会話はてんで駄目だな。


「つまり、彼女は聖女候補なんだが聖抜都大ジリョーに向かう途中賊に襲われてね。あまり大声では言えないが身ぐるみを剥がされちまっているのさ。そこで教会でこうして助けを乞いに来たのさ」


と、一気に捲し立て、追加で金貨を1枚差し出す。


「無論、聖導師様への感謝も忘れない」


俺、金貨、そしてアリシアを順にみた修導女は何かを察したのか。俺を睨み、アリシアには手招きをし、彼女を扉の中へ招く。


「ひとつ、確認が。聖女候補様であらせられるのであれば聖印をお見せ頂けますか」


それはもっともだと思った。


そういえばどこに聖印があるんだか確認してなかったな。


「あ、はい。こちらです」


といって、アリシアは左手の平を修導女にみせる。それで納得したのか態度を改め、


「聖女候補様、巡礼と苦難の数々に祈りと感謝を」


とお決まりのお祈りポーズをとった。


「先ほどのお連れの方が言葉が真実であれば災難に遭われたご様子で。蓄えがあまりありませんが、どうぞ、身を清めください」


ご案内します、とアリシアを連れて行く。


彼女は不安げにこちらを見るが、俺はついていくわけにもいかずただ見送った。


扉が閉じ、時間が掛かるだろうと思い暇をつぶすか考えようとしたら、教会の中から悲鳴が上がり、扉が再び開かれた。


アリシアかと思いきやいたのは修導女でその剣幕にひるんでいる俺を、


ビターン……………!


頬を叩かれた。ビンタされた。


「最っっっっ低!!聖女候補様にあんな不埒な格好をさせるなんて…!」


誤解で叩かれることほど空しい事はない。


教会の前で俺はそんな人生の真実を知った。




「ありがとうございました修導女様。この御恩は忘れません」


アリシアが出てきたのは予想通り時間が大分経ってからだった。


教会の扉が見えるあたりの露店を冷かしていると汚らしいローブではなく、後ろ姿でもわかる修導女の格好になって出てきた。


俺は焼き菓子を引っ提げアリシアの元に戻る。


「どうだ、着替えはもらえたか」


俺の声に振り向いたアリシアを見たとき、あぁ本当に情報屋のおっさんを連れてこなくてよかったなと改めて思った。


道中手当と水浴びこそしたが、旅の汚れを完全に落とす事は出来なかった。


今の彼女はおそらくニコライの元にいた時と同じ位の美しさを取り戻していた。


「はい、これから大ジリョーに向かうという事で巡礼用に必要な道具一式も併せて頂きました。これでひとまず大ジリョーに向かう必須なものは揃いました」


「あーそうか、それは良かった。後は食料だな。次の町までの計算もしてここである程度買い込み、大山脈デス・フジャン直前の小ジリョーで調整すればいいだろう」


ほらよ、と露店で買った焼き菓子を渡してやる。


なんとか言葉を紡いだ俺。うん、不自然ではないはずだ。


正直年下の娘に「君の美しさに見惚れていた」なんて歯がゆくて言えない。


いや、酒があれば別だがな。


「ありがとうございます。…!おいしいです!これはなんて言う焼き菓子なんですか」


「さあな、露店で売ってたの買っただけだからな。もう1個買うついでに聞いてみるか」


はい!とそこまで大きくない焼き菓子を食べ終えたアリシアの返事を聞いていたら、通りが騒がしくなっていた事に気づかなかった。


「見つけましたよ!そこまでです!」



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