2話
えー、まさかの管理者誰も投稿していなかったので、投稿します。
朝露の降りる中、日差しが差し込む。
遺跡鉱山の谷にも日が当たり始め、本格的に朝を迎えた。
谷には既に廃村となり、ごろつき達が集まる場所となってしまいましたが、行商路は残っていた。
しかし、普段静かな行商路に、ガガ………と馬車が通る音とも違う重い物を引き摺る様な音が響き渡る。
その音を辿ると、見えたのは顔を覆うように目深に被ったフードにローブの姿。
元は白に近かった生地も何度も転んだのか泥に汚れ、裾は引き摺られ千切れてどこかみすぼらしい。
これだけであれば浮浪者であるが、その者は鎖を手にある物を引き摺っていた。
それは、白の棺桶。
立派な装飾は施されているもののそれは死者の寝床にして人の逝きつく最期。
こちらはローブの姿と違い引き摺られても道に跡を残すだけでそれは綺麗なままであった。
ローブの姿が引き摺る棺桶。
どうみても死神の行脚でしたが、木々の隙間から差し込む光が当たり、どこか神聖な光景にも見えた。
そんな神聖な空間を遠くから覗く影が複数。日差しが差し込む森の中にいても彼らに陽が当たることはない。
「みえた」
「近づくか」
「いや、燃やせ」
と、短いやり取りの後、影の一つが弓を構える。
引き絞るのもわずかな間。
影から木々の間を通り抜け、矢が飛んでいくのがはっきりとみえる。
ガッッッ!!
「……!」
突如響いた音と衝撃にローブの姿はびくと振り向く。
すると、棺桶に火矢が刺さっていた。ローブ姿は慌てふためき矢を抜こうとするが、矢は深く刺さったたか、はたまた手に力が入らないのか抜けない。
火はすぐに広がりはしませんが、刺さった部分の装飾は焦げ始め、白い装飾を黒く焦がしていく。
ローブ姿は矢を離し、逡巡の後、その小さな両の手で燃える矢じりを包み込んだ。
―――――――――!
悲鳴にもならない小さな叫びが、じゅ、という音にかき消された。火は消え、棺桶に残るのは矢とわずかな焦げのみ。
その一部始終を見ていた影達は迷うことなくローブへと近づき、
―――俺はローブへと近づく影どもを槍で振り払った。
何かを引き摺っていた後を追い森へと続く行商路を走れば、なにやら白い塊とそれに被さる布の様な塊を発見した。
情報屋の言ってた事が真実で半ば安堵、半ば怒りを感じ舌打ちする。
近づくにつれ、それがローブと棺桶であること。そしてその棺桶に矢が刺さっている事がわかった。
「ドンピシャかよ」
俺は服の上から胸に手を当てる。
首からぶら下げているのは2つ。その一つ、牙を模した首飾りに手をかざすと、まるで胸から生えたかのように黒い靄を放つ槍が現れる。
それで今まさにローブに死を与えんとする影に向かって掴んだ槍を振り払った。
本当に寸のタイミングだった。
「悪いな、こいつは俺の金づるでな!渡すわけにはいかねんだよ!」
近づいてきた影は4つ。
うち2つはまとめて振り払ったので残り2つ。黒い装束で影のように見えたが、頭に狼を模した仮面をつけている。
文字通り、こいつらが聖女候補を暗殺しに来た狼で確定か。
「狼ってのは森の中じゃなくて森を抜けた小屋で襲い掛かってくるんじゃないのか」
俺の軽口に返事はない。と思いきや意外にも、返事が返ってきた。
「本物の狼はそんなおとぎ話の様な真似はしねえよ」
俺は自分の魔槍の真ん中を持ち、左右から2人同時に襲い掛かる刃を受け止めた。黒一色でわかりづれえが、武器は短剣。
おそらく毒塗り。
短剣の間合いでは圧倒的に不利なので弾いて距離を取る。そのついでに棺桶のそばまで下がる。
ローブ姿の人物を確認したいが余裕はなさそうだな。
狼、と呼べる暗殺者はどうやら1人ではなく、暗殺者集団だったようだ。
返事を返したのは堂々と俺の正面に立っている奴だ。
こいつも他の連中と区別がつかない黒装束に狼の仮面だ。
「1匹狼という言葉がある。がそれは誤解を招く。狼というのは本来集団で暮らし、賢く、そして誰も傷つく事なく獲物を狩る。味方に犠牲を強いる等愚か者のすることだ」
「へえ。さっき2人ほど吹き飛ばしたが、死んだんじゃないか?」
「まさか、我々はあの程度では死なないぜ。それよりもおまえも裏社会に生きる人間だ。・・・この状況、意味はわかるだろう?」
狼を名乗る暗殺者集団は既に俺の前と後ろで道を塞ぐだけでなく、周りの木々や草陰にも隠れて完全に囲んでやがる。最初は4つだった影の数も今は、不明。
数えるのが無駄なぐらい増えやがった。
「で、まさか死出の旅路の暇つぶしにそんな豆知識を教えてくれたわけじゃないだろ」
「もちろんだ。俺達は賢く狩りをする。それは相手が獣であろうと人間であろうと。率直に言おう。今すぐその娘から離れてここを立ち去れ。そうすればお前は助かるだろう」
「へーそいつは良い提案だなあ。ちょっと迷うなあどうしようかなあ」
目を走らせる。前?駄目だ。後ろ?下がれない?右は?わからない。左は?多分右より数は多い!ならば、
「ならば、」
「ならば?」
「ならばー………」
「・・・露骨な時間稼ぎか。いいだろう。まとめてやれ!」
左右からの弓か!ギリリ、と弦を弾く音がし、次の瞬間、
左の森が轟っ!と音を立てて木々が薙ぎ倒され吹き飛んだ。
今の一撃で左に隠れていたやつは全滅しただろう。
「ち、増援!?」
「やっぱ森の中で出会うのは狼じゃなくて熊さんだよなあ!」
更に大地が揺れんばかりの轟音が響く。音は止まずに、バキバキと音を鳴らし、木々をなぎ倒していく。
「オラッ!!オラァ!!森の熊さんのお通りだコラァ!!」
どうみてもそこらの熊よりおっかない姿を鎧を着込んだ大柄な男―――情報屋―――が叫び暴れだした。
こちらは全身を鈍い黒鉄に覆われた重鎧でなんの茶目っ気か本当に熊の耳を模した兜をつけている。
そんな鉄の巨躯がその身の丈とほぼ同じ大きさの斧を振り回し、森とて狼の仮面どもを一緒くたに薙ぎ払っていく。
間違いなく死んだろう。
視線を戻せば右側の連中の1人がこちらに弓を構えていた。
「させるかよ!!」
俺は槍を短くし、投擲する。
槍は弓が放たれる前に矢を粉々にし、ついでにそいつの胸に突き刺さった。
この混乱に乗じて逃げればいけるか!?
「俺と数人は残れ!!他は全員であのふざけた大男を仕留めろ!!」
その程度の指示で意思疎通が通じたのか、連中のほとんどが暴れる鎧熊と化した情報屋の方へと向かう。
こっちに向かってくるのは喋ってた奴含めて4人!!
「槍を投げたのは失敗だなあ死ね!!」
「見てたのか」
と、俺はおもむろに胸に手を当てる。
そして手には再び黒い靄を放つ槍を握っていた。
俺の事を素手だと勘違いして突っ込んできた1人をその勢いを利用し突き刺す。
並んで来たもう1人の顔面を蹴り飛ばす。
その間に槍から死体を抜き、その陰から現れた3人目の短剣を受ける。しつこく刺す動作を繰り返してくるので、こちらも合わせて繰り返し弾く。
相手の腕が伸び切るのに合わせて槍を引き、空かさせる。
短剣が脇腹すぐ脇をかすめるが体が伸び切った3人目の後頭部に柄を叩き込む。
ここまでで2人。
「そこまでだ」
冷静な声に嫌な予感がして振り向くと、狼の首領と思われる男に捕まったローブ姿があった。距離こそ数歩先だが、どう考えても取り返すのには間に合わない。
せめて自力で逃げてくれればなあ…
心の中で毒つくが時すでに遅し。
「まさか、魔槍、か?」
「そうだ。あんたも暗殺なんてやってる裏社会の人間なら知ってるだろ?」
「まあな。なんでも遺跡で見つかる古き神だかが持ってた武器だとか。実物は初めて見たがね」
「そう、この魔槍『フェンルルの牙』は実態を持たなくてな。言わば使い捨てなんだなこれが。で、面白いのが」
「そんな時間稼ぎはもうひっかからねえ!!武器を捨てて、仲間に降参するよう言いな!!」
「そいつは無理だ。その前にあんた、死ぬぜ?」
「その前にこの娘が死ぬ。であれば何も問題はねえ。さあ!」
まぁそうだよな。例え槍を投げようと、おっさんが暴れまわろうと、ローブの娘は死ぬ。
そうすれば報酬も無し。文無し。
「わかった。武器は捨てる。いいな」
起き上がった狼の1人が俺の真後ろに立ち、短剣を背に当てる。
俺は槍から手を放した。
槍の穂先は地面へと向き、落ち、溶け込むように地面へと影を落とした。
槍が落ちた場所から瞬く間に影が広がっていった。その影は水の波紋の様に広がり、狼の首領の足へと触れた。
「「ぎゃあああああああああ」」
背後と正面。同時に断末魔が響いたのを俺は見届けた。
「この槍の面白い所はもうひとつあってな。『穂先に触れた敵を噛み千切る』て特性があったんだが、時間稼ぎじゃなくてちゃんと聞いとけば良かったのにな」
ずたずたに串刺しにされた死体を見下ろして言ったみたが、もうすでに意味はなかったようだ。
さて、本題だ。
遠目には只の布切れにしかみえなかったローブ姿が人質から解放され、棺桶にもたれながらこちらを見上げている。
顔は見えないがどうやら安心させてやる必要があるみたいだな。
俺は槍をあえて取り出し自分の肩に構え、こう尋ねた。
「問おう。あんたが俺の依頼者か」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
連続投稿するとは、になってしまい申しわけありませんでした。
今、投稿します。
ちなみに最後のセリフは原案者たっての希望です。ゆえ、
そういえばオーバーロードのアプリ、配信始まりましたよ奥さん