15話
いまのいままで意識を失ってました。(大嘘)
「待て、アリシア近づくな」
「え」
俺はアリシアを庇うように彼女の前に立った。糸目の商人が乗った馬車が近づき止まった。だが、第
一声を発したのは、商人ではなく、
「やってくれたな盗賊風情があ…」
左腕を切り落とされ、血まみれになった半裸の男だった。弓の勇者、と呼ばれていた奴の姿はほぼ瀕
死で、既に大量の血が腕から流れたのだろう。ビビッて顔を青白くしている商人より血の気がなかった。
「あんた、生きていたのか」
俺は情報屋を見る。情報屋は知らん顔をして、口笛を吹いている。
「貴様ら…このオレを虚仮にしたばかりかこのオレの黄金の籠手を奪い取るとは。ただ死ねると思うなよ…貴様らまとめてこのオレが思いつく限りで最大の苦痛と拷問を与えてやる」
今すぐにでも倒れておかしくない重傷だが、それでも半裸の男から意識と殺気が途絶える事はない。
「やめとけよ。あんたの仲間は2人とも倒したし、あんたもその傷だ。死ぬぞ」
「この程度でくたばるなら勇者なぞ名乗らんわ!!」
半裸の男が残った右腕を振る。が、狙いが逸れたのか俺の顔横を掠めて金色の線が飛ぶ。見れば、こ
れまた黄金で出来た針?の様なものが地面に刺さっていた。
「針の暗器か。しかもこれまた黄金で出来ている!おいお前さんこいついくらもってるんだあ?出来れば延べ棒が出来るくらい持ってるとおっさんうれしくなっちゃう」
情報屋の軽口にその針で応えるが、熊の鎧には刺さらず弾かれて落ちた。
「もうその辺で止めておけ黄金の」
「!」
どうやら戦車乗りの大男の意識が戻ったらしく、背後で巨体が起き上がった。
「あんた、生きてたのか」
「背中に剣を担いでなければ我が体は真っ二つであったろうよ。だが、この通りだ。腰が半分ほど切れて骨が逝ってるがな。黄金の、ここいらが退き時だもう止せ」
「貴様、このオレに命令する気か。このような屈辱を味わっておいて引けと?」
「死にたければそうすれば良い。だが我ら勇者はである。勇猛果敢であれ蛮勇を示す者ではない。それではただの猛者よ。何より、主からの命、忘れたわけでなあるまい?」
「………」
「棺はあったか?」
「……………ない」
「ならばもう用はない。引くぞ」
く、と半裸の男が顔を歪ませ馬車から降りた。糸目の商人はそれで気が抜けたのか体から力が抜け
て、どうやら気を失ったようだ。
「なあ小娘よ」
巨体の男がアリシアに話しかける。俺は庇おうとしたが、アリシアは俺の後ろから出る。
「はい」
「お主の役目はもう終わっている。というより始まってすらいなかったがな。これ以上は自らを傷つけ、周りを巻き込んで傷つける。そこに意味があればこそ価値はあるが役目が終わっている以上、価値もない。それでも向かうというのか」
「私には」
アリシアが左手を撫でる。
「私にはこの聖印があります。それは私でもまだ役目が、役割が果たせるという事です。例えあなたに言われた事が本当でもこれは、私にしかできない事なんです」
「………」
アリシアはいつも、この様な問いにこう答えてきた。
俺が聞いた時もそうだ。他の人生を探せばいい、と言ってやった時も、自分の役割がある、自分にし
か出来ない役割がある、と。
本当にそんな生き方でいいのか。
「ならば後は好きにするが良い。我らが追手もこれ以上は追うまいよ。だが、もし、降臨の儀に現れるというならその時は今一度覚悟をするが良い。進むのか退くのか」
「追手が来ない、というのは本当か?」
「少なくとも我ら聖導貴族様の配下から差し向けられる事はなかろうよ」
さて!
「此度!!我ら勇者の活躍は非常に残念なものになったがこれにて一件落着とする!!槍のを拾って帰るとするか!!」
「その必要はない」
「おお!槍の!!」
自分も重傷なのにでかい声を取り戻した大男の元に帽子を目深に被りなおした最後の勇者が合流した。
「貴様も相変わらずくたばり損ないよ!まるで不死身だな!!」
「………」
槍の勇者はそれに応えず、俺の方をじっと見てきた。
「なんだ、もしかしてまた見たいのか」
と、俺が声をかけるも、
「お前、本当に分かってないのか?」
「何がだ」
「一応忠告してやる。その力、次に使えばもう後はない。それほどまでにお前の体は呪われてる。もう手遅れだ」
「あっそ。ご忠告どうも」
力、とはヨルムの事だろう。あんな奴に言われなくてもこの力は俺だって極力使わない。
それで満足したのか、それ以上は何も言わず、大男の戦車に乗った。そして3人の勇者達はそれぞれが
違った表情でこちらを見て(あるいは睨みながら)小ジリョーの方へ去っていった。
「おーい、おきろー」
「ん、んあ」
糸目の商人を起こす。商人自体には怪我はないみたいだがアリシアが血を拭ってやり、一応は馬車自
体も綺麗にしてみた。それでも破れた幌、血の臭い、そして明らかに出発前より減った積み荷の数々
を見て、
「おわああああああああ?!」
商人は再びきぜつするかの様なショックを受けていた。
「う、うるせえ」
「あ、あ、あ、積み荷が、新しい行商路が、」
「正直巻き込んですまなかった。積み荷の弁償もする。という事でわるいが引き続き大ジリョーまで乗せてってくれないか」
「はあ?!おたく、まじで言ってます。大体積み荷って言っても替えの効かない魔導の素が山積みだったし、金貨の20や30じゃ弁償にもならないと思うんだけどなあ!!」
う、まあそれはその通りだろ。だが、
「そこをなんとか」
「いやこれ以上巻き込まれるのはごめんなんだな!」
「追手はこれ以上もう襲ってこない。俺達が倒した。だから」
「無理無理無理無理!悪いけど、ここで降りてってもう二度と関わらないで欲しいだけどなあ!」
「へー、あんた魔導の行商人?」
俺が糸目の商人と話していると情報屋のおっさんが話しかけてきた。まだ鎧を脱いでいないのでまる
でぬ、と熊が覗いてきたかのようだ。
「ひ」
「ああ、この熊みたいなおっさんは大丈夫だ俺の知り合いだ。このおっさんも大ジリョーまで乗せてくれればこれ以上ない行商の護衛になるし、頼むよ」
「そうは言っても。なら、まずは弁償の方をどうにかして欲しいんだけどなあ」
「弁償ねえ」
情報屋が目を細めて語りだす。
「確か魔導関連の行商は一部の商人にしか許可が出ていないはずだなあ。その上、その商人達にはもったいないくらいの支援がされている」
例えば、
「積み荷の損失。破損や賊等による被害が発生した場合も全額賠償ではなく、むしろ賊に襲われたのであればその被害に関して補填がされる。例えば、そこの幌が破れているところとかな」
それに加えて、
「そういった物があると、保険に必ず加入されられるはずだ。これはどの商会にも聖導都からわざわざ通達がいってるはずだ。ということこはだ、そういった補填や被害に関する補償に関しては誰しもが知ってるはずだ。商人人ならな。しかも俺が掴んでいる情報だと新規開拓路の為に出来た新しい道が載っている地図ももらってるはずだ。それも最新版の」
「へーそーなんだー。だ、そうだ商人さん」
「え、あ、あははは。そういえばそうだったなーと、説明を受けた気がするんだけどなあ」
「へーじゃあそれを忘れてた、と。おっさんが話してくれてたから思い出せた、と」
「そうそう!そうなんだな!」
「じゃあ被害者になったついでに何も知らない俺からこれ幸いと余分にたかろうとしたわけじゃない、てことでいいんだよな?」
「も、もちろん!その認識で間違いないと思うんだけどな!」
「じゃあ弁償はその保険分差っ引いて良いよな?はい」
と言って、俺は糸目の商人に金貨2枚を渡す。
「こんだけ!?」
「2枚なのはこっから俺達を大ジリョーまで乗っけてくれる駄賃だ」
「そしてこれはこの情報屋の情報代、ということで」
2枚あった内の1枚を情報屋が素早い手つきで取っていく。そして、商人の手に残るは金貨1枚。
「な、な、ん、な」
「どのみち、あんたもあんだけ小ジリョーで大暴れしたんだ。もうあそこには戻れないぜ。だったら俺らと一緒にさっさと悪い噂が広まる前に大ジリョーに行った方がいいぜ」
「そうそう。おじさん、情報屋だけど悪い噂も」
何故か区切って、
「大好きさ」
「良し、話はついたな。アリシアこの優しい商人さんはまた俺達を大ジリョーまで乗っけてくれるってさ」
俺は念のため遠ざけていたアリシアを呼び寄せた。
「本当によろしいのですか?」
「ああ、はい。よろこんでー」
商人の気の抜けた返事に多少バツが悪いのは認めるが、この商人も俺を騙そうとしたわけで。
「まあ色々あったが、無事解決できた。後は山超えて大ジリョーに向かうだけだ」
「はい」
と言って、アリシアは馬車に乗り、祈り始めた。
「おう、祈っとけ祈っとけ」
「おっさんもお祈りしちゃおっかなあ。お隣で」
「きもいので止めろ」
こうして、情報屋を加えた5人で山脈デス・フジャンを超える事になった。その先に待つは大ジ
リョー。これ以上、めんどくさい事になりませんように、と俺もアリシアに倣い寝転がりながら祈っ
た。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
いやね、すっかり忘れたんですよ。で、思い出したのが家を出た後。
そして今帰ってきて投稿したわけで(大真面目)。
ほんっとすいあせっした!!!




