8話 珈琲はブラック無党で!
「日比野 燐火!行きます!」
な!?
先を越された!こういうのは、トップバッターが楽なのだ。失敗しても許される。トリを務める僕にプレッシャーがのし掛かるのだ。
「趣味は桜坂高校の坂を自転車で登り切る事です!」
「「おー!!」」「それ知ってるぞ」
称賛の嵐。
僕への更なるプレッシャー。ハードルが一段と上がった。これは必ずスベル。何かないか?
「寺師羽根 奏介!行きます!
趣味は普通です!普通が一番ですから!」
皆、ポカーンとした顔をしている。
何それ?テレビ観賞とか、音楽観賞とか言ってくれた方がマシじゃね?見たいな。
僕は部屋の隅に行って、三角座りをした。
「あ、おい!泣くな!寺師羽根君!?」
国光先輩が慰めてくれたのだ。
しかし、ぼくは忘れない。堂々先輩が言い出した事を!この怨み晴らすべきだと!
「あははは!面白いよ!君!」
「可哀想だよ。その辺にしておこう」
「でも、これは奏介が悪いと思うな」
僕のガラスのハートは見事に打ち砕かれた。
泣いてはいないさ。照れ隠しに後頭部を手で擦った。
自己紹介が終わり、仕事も一段落する。
そこで、お茶にする事となった。珈琲、紅茶、お茶を用意され、僕は珈琲を選択する。
「てらっち!ミルクと砂糖は?」
「てらっちって………ブラック無党で!」
「ラジャー」
フレンドリーに呼ばれ、少し驚いた。
田中さんは、他のメンバーにも聞いて回る。
燐火は紅茶を貰い、それを堪能していた。
まだ6月、梅雨の季節。少し寒いので、温かい飲み物は丁度良い。インスタント珈琲といえど、中々の旨さだ。僕は香りを楽しむ。
「奏介は本当に珈琲好きだね」
「僕の血液は珈琲で出来てますから!」
「てらっち!ちょっと、手首かっきって!」
田中さんの冗談はジョークに聞こえない。
「俺も珈琲派だ!だが、ミルクは入れるぞ」
「それ不粋ですよ!カレーに生卵入れるモンです!」
「まろやかになって旨いだろが!カレーを馬鹿にするな!」
堂々先輩はやはり苦手だ。
話が噛み合わない。でも、この強引な感じは悪くないと思う。
「寺師羽根君は例えで言ってるのですよ。カレーを馬鹿にしてませんから」
国光先輩がフォローしてくれた。
雑談を終えて、僕達は帰宅する事に。
生徒会長と副会長はまだ仕事がある様だ。昨日の件を済ませてしまいたいらしい。田中先輩と国光先輩は、クラスの用事で教室へ行った。
だから、僕達は先に校門を出た。
「いい人で良かったね」
「そうだな」
道の角を曲がる。
やはりあの電柱が気になるのだ。嫌な予感しか無い。
「燐火、ここは通るのを止めよう」
「変な奏介。いいよ♪遠回り楽しい!」
「意味わかんね」
「違う!いつもと違う道だよ!普通、通らないでしょ?だから、楽しいんだよ!そこ分かる?」
「へいへい」
「"へい"は1回でよろし!」
燐火には敵わないわ。
近くの分岐で別れ、僕は家に着いた。
「奏介!奏介!!」
おじいちゃんに呼ばれ、僕は返事を返す。
リビングに行くと、おじいちゃんが手紙をくれた。
「何これ?」
「知り合いへの手紙じゃ。それを渡せば分かる」
「もしかして、除霊士?」
「いや、お祓い士。とでも言っておくかのぅ」
除霊とお祓い。
どう違うか分からない。とりあえず場所を聞いておかないと。
「で、その人は何処に住んでいるの?」
「おお!忘れておった!」
ポケットから紙を取り出し、それを受け取る。
彦根口。隣町か。電車で5つ。30分という所だ。
「電話しておいた。今週の土曜日に予約しておいたのじゃ」
「土曜日か」
「何か予定があるのか?」
「あ、いや、多分大丈夫」
「こういうのは早い方がええ」
「………そうだね」
僕は今週の土曜日に、お祓い士の所に行く事になった。
生徒会の仕事がなければいいけど。まぁ、そこは堂々先輩に言っておくか。燐火には上手く伝えて貰わなくてはならないからね。
何も言わないと、休みの日には遊びに来るからな。




