5話 いつの間にか増えている
「ゲームをしよう」
堂々先輩が言う。
これはまさかと思うが、口に出して言えない。多分、取り憑かれている。
コックリサンの帰還に失敗した。
その皺寄せがこれだ。女の子達に危害がなかったのは、僕達が引き継いだからである。
帰らせてなくても、1週間以内にこの遊びをすればいい。
帰ってないのだから、降ろす必要も無いのだ。
しかし、弱った。
堂々先輩に取り憑かれたのが、だ。
優秀な人程、操りやすい。
しかも、今回のはかなり厄介な相手だ。霊というより悪魔だな。僕は分析する。
ゲームをふっかけてきた。
ならば、それに乗るしかない。そして、そのゲームで負かせば帰るだろう。
悪魔とは律儀な相手だ。
絶対にルールを守る。そして、勝負するのだ。
負けたら・・・その事は考えない。
必ず勝つ!僕に言えるのはそれだけだ。
「では、部屋の角に向かってくれ。そう、俺と対角線にな」
堂々先輩と対角線に並び、部屋の角で待機する。
「では、始めよう。目を瞑り、真っ直ぐに歩いて壁に手が触れればOK。そして、左に曲がり真っ直ぐ移動する。すると、俺の肩にぶつかる。そしたら、止まって待機だ。肩を叩かれたら、また同じく事をする」
「分かった」
「あるタイミングで俺が質問する。それに正解すれば君の勝ち。間違えれば俺の勝ちでいいか?」
「質問がある」
「なんだい?」
「時間は無制限か?」
「いや、7回までには質問しよう」
「答えを言う時間は?」
「それは無制限………だと、厳しいから、朝までならいいよ」
そうして、このゲームが始まった。
僕の肩が叩かれる。
両手を突きだし、壁に当たるまで進む。壁に手がついたので、左に曲がる。堂々先輩の肩にぶつかったので、僕は待機した。
何回背中を叩いたか分からない。
目を閉じているからだ。心の中で数えていたが、背中を叩かれると忘れてしまう。
背中を叩かれたので、真っ直ぐ移動する。
ここで違和感を覚えた。曲がっていないのに、背中に触れた。
僕はゾッとする!
おかしい!もしかして、増えたのでは!?
すると、早いタイミングで背中を叩かれた!
「い!?」
嘘だろ!?
2人でやっているのだ。最低でも2回移動しなくては、相手に触れる事は出来ない!なのに、1回分の時間しか経っていないのだ!
怖い!怖いけど、前に進む。
肩に触れると、背中を叩かれた!!
「え!?」
「さぁて、問題です。何人増えたでしょうか?」
僕は後ろを振り返えれなかった!
もし、後ろを振り向いたら帰って来られなくなるからだ。
考えろ!
何人増えたか?
「答えは一人です」
「へー、何で分かったの?」
「燐火が戻って来ましたから」
「やるねぇ。君。面白いよ」
答えはこうだ。
目を瞑れば方向感覚もなくなる。足音は堂々先輩が出せばいい。戻ってきた燐火が肩を叩く。そうすれば、沢山の増えた様に見せられるからだ。
「燐火も取り憑かれてたのか」
「うふふ。やるね」
「二人を返して下さい」
「勝負に負けた。だから、返そう」
堂々先輩と燐火は脱力し倒れた。
僕にはまだやる事がある。儀式の紙を破り、外にまいた。
風と共に、紙吹雪は流される。
これで帰還命令は完了だ。僕は燐火と堂々先輩を壁際に寝かせた。
悪魔は厄介だ。
僕はそう呟いた。




