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フェランディスの問題処理係  作者: 雲居瑞香
第2章 異国の花祭り
19/43

【14】

ハロウィンですねー。私は思いっきり仕事ですが。









 宮殿内に移動し、女性陣のみが再度ゲストルームに集まっていた。その女性陣の中にベレンガリウスも含まれている。いや、生物学上は間違っていないし、本人の意識も『自分は女性である』というものであるが、外見はやっぱり男である。

 まあ、多少の違和感はあるが、そこは気にしない。


「私の祖父の予言のこと、知ってる?」


 お茶会の続きでティーカップを手にしているニコレットが尋ねた。彼女の祖父は、つまり、ギルバートの祖父と同じ人物を指す。この二人は、いとこ同士なのだ。


「ダリモアのニコラス王太子のことですね。存じています」


 ベレンガリウスの尊敬する人物の一人である。王にならなかった人物だが、ある意味王になるより有名になった。彼になされた予言が事実であったとされるからだ。

「私は予言について調べているけど、私の祖父の予言に関しては『真実だった』と考える人が多いみたいなの」

「お言葉ですが皇妃様。予言なんて、その人間が言われたとおりに行動するから真実のように見えるのであって、予言自体に拘束力はありません」

 大国の皇妃に対して言い切ったベレンガリウスであるが、ニコレットは気にした様子もなく「うーん」と首をかしげた。


「まず、私のことは名前で呼んでよ。ニコラでも可」


 そう言えばヴォルフガングは彼女をニコラと呼んでいたか。しかし。

「そんなに恐ろしいことはできません」

「えー」

 ベレンガリウスは帝国に到着したばかりのころ、ヴォルフガングに剣を向けられたことを忘れたわけではない。あれは怖かった。基本的に泰然自若としているベレンガリウスだが、あれは本気で怖かった。

「では、わたくしはニコラ様と呼ばせていただいてよろしいですか? わたくしのことはエミで構いませんので」

「わかったわ! エミね。ねえエミ、あなたのお姉様、どうにかならないの?」

 融通が利かないんだけど、とすねるニコレットだが、エミグディアは別のところに反応した。

「お姉様……」

 その言葉に違和感があるらしい。まあ、エミグディアはずっとベレンガリウスを『お兄様』もしくは『ベガ』と呼んできたし、今更呼び方を直されてもベレンガリウスも気持ち悪い。

「……まあ、ベガは昔からこの調子なので。遠慮がないように見えて小心者というか」

「悔しいが、当たっている気がする……」

 特にエミグディアに見えないところでヒセラが大きくうなずいているので、当たっているのだろうと思われた。ニコレットが「そっかぁ」と微笑む。


「それで、予言のことだけど」


 突然話が戻った。


「おじい様の予言もだけど、私の予言のことは知ってる?」


 ベレンガリウスとエミグディアの姉妹(!)は目を見合わせ、それから首を左右に振った。予言を受けた人物のことは何人か聞いたことがあるが、ニコレットのことは聞いたことがなかった。


「『父親を滅ぼすだろう』っていうのが、私の予言。この予言のせいで、私はヴォルフ様に嫁いでくるまで修道院にいたの」


 体の良い軟禁をされていたのだろうとうかがえる。親殺しの予言なのだ。当然と言えば当然の処置である。される方はたまったものではないが。


「結局、私の予言は当たったと思う?」


 ニコレットに問われ、ベレンガリウスとエミグディアは答えられなかった。予言とは幾通りの解釈もあり、当たったと言い張ることも、外れたと言ってのけることもできる。

 ニコレットの予言に関しても同じことが言えた。『父親を滅ぼすだろう』という言葉。父親を殺す、とも取れるし、没落させるとか、そう言う意味にも取れる。

 実際に、ニコレットはハインツェル帝国に嫁いで来て子を産み、それがきっかけで先のロワリエ王は息子に王位を譲っている。前ロワリエ王の自業自得であると言えるが、ニコレットの予言が完遂された、と考えることも可能だった。


「……私は、ロワリエ王が予言に踊らされた結果だと思いますが」


 ベレンガリウスが何とか言葉を発すると、ニコレットはにこりと笑った。


「私もそう思うわ。父は私を軟禁したらしいけど、あの予言を聞く限り、私が父を殺す、とは言っていないもの」


 さらりというニコレットも、結構現実的だ。融通が利かないと言われたベレンガリウスであるが、ニコレットもなかなか辛辣であるな、と思った。

「ベガの言うとおり、予言はその予言の通りに動くから現実になるのよね。まあ、無理やり予言の通りに解釈しているだけっていう可能性もあるけど……まあ、それはいいわ。でも、予言を与える『予言者』って、何者なのかしら」

「確かに、そうですね」

 ニコレットの指摘にベレンガリウスも同意を示した。確かに、予言者は何者なのだろう。フェランディスでイバン王の即位時に予言を授けたのは吟遊詩人だったと言う。ニコレットに関する予言を授けたのは占星術師だったそうだ。まあ、いまどき『予言者です』などといっても怪しまれるので、吟遊詩人や占星術師を名乗るのだろう。どちらもやっぱり怪しいが、予言者ほどではない。


「予言は昔あった魔法の名残だと言われていますし、占い師なんかがでっち上げている感じでもなさそうですもんねぇ」


 エミグディアも首をかしげながら言った。ベレンガリウスも特に興味がなかったので、予言に関しては調べたことがないので知らない。


 だが、ニコレットは違ったようだ。

「二人は、エルピスのお姫様の話を知っている?」

「エルピスって、昔大陸にあったと言う?」

「そう。今は帝国の一部だけどね」

 とニコレットは微笑みつつエミグディアの問いに答えた。帝国は多数の国を併合しているので、昔大陸にあった国がそのまま帝国に飲みこまれている、ということも多い。エルピスは現在、自治区になっているはずだ。

「……そのエルピスのお姫様、というと、二十三代国王ハリラオスの妹姫、サフィラ王女のことですか。通称、琥珀姫エレクトラ

「そう。その琥珀姫ね」

 と、ベレンガリウスの言葉にうなずくニコレット。空になった彼女のティーカップに、侍女が紅茶を注いだ。

「ありがと、マリーア。琥珀姫の記録に、予言のことについて載ってるの」

 前半は侍女に、後半はベレンガリウスたちに向けられた言葉だ。ベレンガリウスは博識であるが、基本的に政務に関係ないことは頭に入っていない。重要度が低いが知りたいことは、本で調べるようにしていた。逆に言うと、いらないことは忘れていくのである。人間、よくできていると思う。


「琥珀姫の記述によると、彼女は予言者と思われる『魔女』に遭遇しているんだよね~」

「魔女、ですか」


 ベレンガリウスも比喩的に『魔女ブルハ』と呼ばれることはあるが、実際に魔法が使えるわけではない。ベレンガリウスの能力はどこをとっても人間の範疇を越えていない。と、本人は思っている。

「そ。その魔女に『近いうちにエルピス王国は滅ぶ』っていう滅びの予言を与えられてるの。で、その後、実際に滅亡の危機に瀕してるし」

「ですが、エルピス王国はその後も続いているではありませんか」

 エミグディアが意見した。エルピス王国は古い国家であるが、帝国に併呑されるまで独立を保っていたはずだ。滅んではいない。

「まあ、そうなんだけど……問題は、予言を授けた魔女の方」

「……今の話の流れからすると、その魔女がエルピスが滅ぶように差し向けた、と言うことですか?」

「確証はないけど、私はそう思うの」

 ニコレットが真剣な表情でベレンガリウスの言葉に同意を示した。ベレンガリウスが目を細め、顎に指を当てた。


「先に情報を流して、その通りになるように画策するのは、戦略として理にかなっています。正直に申しますと、私も良くやりますし」


 情報と言うのは、何事においても重要だ。ベレンガリウスがいつもぼろくそに言っているフェランディス王イバンも、情報の重要性は理解している。第一王子クリストバルの方はあまり理解していないようだが。

 正確な情報を得るため、ベレンガリウスは違う方向から間諜を多数はなったりしているが、そんな裏事情は置いておき。偽の情報に踊らされて失敗する、というのは良くある話だ。個人規模でも国規模でも起こりうる話である。


「もし、その魔女が本当に自分の予言が事実になるように裏工作をしているのだとしたら、やはり予言は存在しないと言うことになりますね」


 ベレンガリウスの言葉に、ニコレットは笑って「そうよね」と答えた。

「ええっと。つまり、どういうこと?」

 エミグディアが説明を求めてベレンガリウスを見た。ベレンガリウスは肩をすくめて簡潔に答えた。

「つまり、皇妃様や我が国の予言も、誰かがその通りになるように画策しているのではないか、ということだ」

 その説明にエミグディアは納得したらしく、「あー」と声をあげた。

「ってことは、フェランディスとかダリモアとか、ロワリエとかで予言をした人物を誰かが操っていたかもしれない、ってこと?」

 エミグディアの言葉に、ベレンガリウスはうなずいた。

「失礼ですが皇妃様。この話を陛下になされましたか?」

「……一応したけど、ヴォルフ様はピンとこなかったみたい」

「そうですか……では、宰相のフォーゲル公爵に申し上げるといいかもしれません」

「ふーん……なるほど」

 本当に、この推測が正しいのだとしたら相手は戦略家だ。ニコレットの説明が悪かったと言う可能性もあるが、これをヴォルフガングが理解できなかったのだとしたら、彼は適材適所、自分に出来ないことを他人に割り振っているのだろう。おそらく、宰相フォーゲル公爵がこの国のブレーンだ。


 ベレンガリウスはニコレットをまじまじと見つめた。てっきり、彼女は研究者肌の人間だと思っていたのだが、こうした人間の裏も読めるのか。などと失礼なことを考えていた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


やや違和感のある女子会(笑)

ベレンガリウスは全部自分でやってしまうけど、ヴォルフガングは得意な人に振り分けてる気がする。

ちなみに、今回出てきた『エルピスの琥珀姫』はもう一方の連載である『琥珀姫』のサフィラのことです。『琥珀姫』は『フェランディスの問題処理係』より1000年くらい前を想定しています。


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