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美しくない王

作者: 束田慧

 とある国の王家は、代々美形であることで有名だった。国を興した始祖から先代に至るまでがそうであったことが、数多の記録と国民の記憶に残されている。

 歴代最高の美男と謳われた先代は、先人達に倣って王国一の美女をめとったが、何年経っても、一向に子を授かる気配はなかった。

 複数の側室もあてがわれていたが、これもまた先祖代々の習わしで、妾子が王になることなどあり得ない。反面、男児が生まれなかった場合は嫡女が王国一の美男を婿に迎えることも間々あったが、不妊に悩む王は一人としていなかった。


 前例のない事態に先代は為す術もなく、結果、病気で早死にしてしまった彼が遺したのは、十数人の妾子だけ。

 それも、突如勃発した後継争いの最中に次々と暗殺され、最も後に産まれた忘れ形見ただ一人だけになってしまった。

 王不在のままでは、国が傾いてしまう。困り果てた大臣は、齢一年に満たない幼子を即位させ、自らが後見を務めることを決意した。

 側室と言っても、いずれ劣らぬ美女揃い。その子どもである新王も、きっと美形に育つであろうと信じて。


 しかし、数年後。

 多感な年頃になっていた王は、国民から「偽物」の誹りを受けることになる。

 彼が即位した時、反発を恐れた大臣は、先代が死の間際に授かった奇跡の王子として、嫡子であると偽って公表していた。


 王は美形。


 その史実がまるで、神の意志によってもたらされていると信じ込んでいるかのように、国民にとっては事実を超えて真実になっていた。

 正当な後継者である自分達の王が美形になることも信じて疑わなかったはずだ。

 しかし、端的に言えば、王はまだ子どもではあるが、お世辞にも美形とは言えない姿に成長していた。

 国民にしてみれば、信じていた神に裏切られたことと同義なのだ。信心深い者ほど、その拠り所を失った時の絶望は大きい。

 王が偽物――つまり妾子であるという噂は瞬く間に広がり、絶望は怒りへと変わった。

 永きに渡る善王の統治で、対内的には平和と中立を保ってきた王国に亀裂が走る。

 王への陰口から始まり、国中を巻き込む暴動にまで発展。このままでは内乱が勃発するのも時間の問題であった。


 そんな折、幼いながらも立派に王の務めを果たしてきた王はついに心を病んでしまう。 大臣をはじめとした臣下達の助言も聞かず、ついには諸外国の暴君も真っ青のとんでもなく理不尽な方策を打ち立てた。

 自分を相対的に美男にするための法、すなわち、王より美形の者は処刑する、という悪法である。

 当然国民の反発は強まり、反王国派となった諸貴族の私兵軍に義勇兵が集って王国派と一触即発になったが、内乱には至らなかった。

 そうなる前に、ある貴族が王に提案をしたのだ。彼は反王国派とも通じており、双方に待ったをかけられるほどの権力者だ。

 王への接触も独自のパイプを駆使して秘密裏に行い、医学の優れた異国の地に出向いて連れてきた、最高の美容整形技術を持つという男を引き合わせた。

 先代ほど、とまでは言わないまでも、少しはマシになるかもしれない。自暴自棄になりかけていた王は、失敗する可能性も無視して、その提案を受けることにした。

 優秀な医者と言っても、王という立場から見たら怪しげなよそ者だ。臣下達が賛成するはずがない。

 貴族の領地に遠征するという名目で、多くない兵を引き連れて赴き、医者との面会から手術まで、全てが極秘裏に行われた。


 遠征期間は数ヶ月。その間、王は、自軍の兵とは一切接触せずに医者のもとへ通い、そして、手術は成功した。ぱっと見では王と分からないほどには美男と言っていいだろう。

 術後、医者の了承を待って、凱旋するべく自軍を招集しようとした王だったが、やってきたのは貴族の私兵軍だった。

 妙に殺気立っている。まるで親の敵でも見るような目だ。彼らは、困惑する王の手足を締め上げ、猿ぐつわを噛ませた。

 まるで罪人のような格好だ。抵抗も空しく、そのまま馬車に乗せられた王は、彼の兵達の前に引っ張り出された。これもまた貴族の提案で、連れてきた兵は末端の有象無象ばかりだ。整形した王には気付かない。

 彼らの忠誠心の低さを確認した貴族は、哀れな王の後ろ手に縛られた腕をつかんで立たせ、冷酷に告げた。


 王の命により、この美男を処刑する、と。

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