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黄金の夜明け前~畏歴二千年前史~ 上  作者: ノウェル・ウィチタ
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シヤルタ王国

 畏歴2000年当時、シャン人国家として最大の国家であった。


 白狼(ビャクロウ)半島と呼ばれるこの地域は、シャンティラ大皇国の領土としてはもっとも後期に支配権が確立された。

 シャンティニオンから遠いこの地は、辺境とされ、地位的には冷遇されていたともいう。


 シャンティラ大皇国では地域を色で分ける風習があり、西を象徴する色は白であったため、白色を冠する地名が多い。

 シヤルタ王国の当時の王都、シビャクも白に至るという意味で都市名が付けられた。

 後にアイサ孤島が発見されると、さらに西に領土が増えたが、それは年代が下ったあとの話である。


 シャンティラ大皇国が滅亡したあと、残った領土は九人の皇女によって分割された。

 彼女らは仲睦まじい姉妹では決して無く、一致団結して女皇を立てるということは難しい、と考えられたためである。


 西の果てのアイサ孤島にはトラッフェという皇女が国を作ることになった。

 わずかに残っている議事録によると、九人の皇女は皆、アイサ孤島の実際の広さを知らず、辺境の小島と思っていたことが伺える。


 トラッフェは、畏歴1082年、女皇の十一女として産まれた。

 知能の発達が悪く、八歳になると知的障害を疑われるようになり、誰からも期待されなくなった。

 十歳にて大皇国教養院に入学するが、勉強にまったくついていけず、孤独な思いをしたらしい。


 当時の大皇国上流階級にとり、公用語といえば古代シャン語であったが、トラッフェはこれが話せず、庶民の話し言葉である俗シャン語を話していた。

 俗シャン語というのは、のちに現代シャン語に発展する言葉で、古代シャン語の複雑な言い回しや、数の多い単語の活用形を廃し、簡便化したものである。


 両者は別の言語ではないが、俗シャン語には庶民文化に基づいて自然発生した独特のスラングがあり、かしこまったしゃべり方でなければ、貴族階層には理解が難しかった。

 また、古代シャン語に熟達した話し手(当時はインテリジェンスの目安となる重要な教養であった)の会話は、俗シャン語しか解さない話者にはまったく理解できなかった。


 トラッフェは古代シャン語を、話者と呼ぶにはあまりにも稚拙なレベルでしか話せなかったので、寮内(大皇国教養院は全寮制であった)で孤立していった。

 彼女の孤独な人生が終わったのは、1111年の戦争後のことであった。


 ミナリの大会戦にて敗北を喫した大皇国軍は潰走に陥り、別方向から同時侵略を始めた十字軍に対処できなかった。

 その結果、シャンティニオンの陥落を招くこととなる。


 1111年の年末、12月15日に皇家の遺子は会議を開き、残った領土の分割を話し合いで決めた。

 当然ながら、この会議は古代シャン語で進行され、トラッフェは座にはついたものの、まったく話がわからなかったという。

 現代に残されている議事録には、トラッフェの発言はなく、「首肯をし、賛成した」としか書いていない。


 会議の結果、トラッフェに残り物のようにあてがわれたのは、西の果てのアイサ孤島であった。

 1113年、彼女に忠誠を誓った親衛隊の騎士一名とともに、彼女はアイサ孤島に辿り着いた。

 この航海は、当時の航海技術では非常に遭難の確立の高い、命がけの航海であった。


 孤島に辿り着いたのち、トラッフェは親衛隊の騎士と結婚した。

 辺境に流されながら、トラッフェは民に慕われつつ、夫とともに海を眺めながら暮らした。


 それは女王というにはあまりにも慎ましく、幸せに満ちた生活であったという。

 夫婦は二子をもうけ、トラッフェは1172年、90歳にして誰を恨むこともなくこの世を去った。


 だが、380年後、トラッフェ王家の最後の一人が死亡すると、トラッフェ王家は断絶してしまった。

 アイサ孤島は大陸から遠すぎたため、他の王家と交流が乏しく、また航海にも危険が伴ったため、姻戚関係を結べなかったのである。

 結果、近親婚が繰り返されることとなり、死産が多発し、断絶を招くことになった。


 その後、主を失ったアイサ孤島の国民は、シヤルタ王国に文を送り、アイサ孤島はシヤルタ王国に吸収される運びとなった。

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