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黄金の夜明け前~畏歴二千年前史~ 上  作者: ノウェル・ウィチタ
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補遺:王鷲の繁殖


 王鷲の繁殖は、その方法が確立したのは畏歴1920年頃であり、当時世界の水準でもまだまだ新しい技術であった。

 それ以前の王鷲は、すべて天然の卵や雛を盗んできて育てていた。


 王鷲は、そもそも相手が誰でもいいわけではなく、選り好みが激しい鳥類である。相性のいい相手でないとカップルになろうとしないのだ。

 彼らはカップルになると互いの毛づくろいを始めるので、成立の判別は一目瞭然である。しかしそれは”交際期間”と言われていて、“結婚式”を経ないことには交尾までに至らない。

 ”結婚式”とは一種の力試しで、これは高空にて行われる。百メートルほどの高度まで飛翔した雌雄が、互いに鉤爪を掴み合って、錐揉み状態になって自然落下する。そして地面に近づいたところで鉤爪を離し、お互いが単独飛行に移行する。

 この儀式には危険も伴い、野生下でもそのまま地面に激突して死亡してしまう事故が報告されている。


 この性質(たち)の悪いチキンレースのような謎めいた習性は、人工繁殖において長年大きな壁として立ちはだかってきた。

 まず、狭いトリカゴの中では“結婚式”は行えない。外でやらせるにしても、ロープをつけて結婚式をさせると、アクロバティックな錐揉みでロープが絡み鷲を殺してしまう。

 かといって、自分から戻ってくることに一縷の望みをかけて解き放つのも論外だった。

 ”結婚式”を終えたカップルは、そのまま繁殖に移行してしまうからだ。つまり巣作りを始めてしまうので、放鳥したのちきちんと帰ってくるほど懐いた王鷲でも、”結婚式”をしたあとは飛び去ってしまうのだった。


 鷲を愛するシャン人にとって、この問題の解決は長年待ち望まれたものだった。単純に愛鷲の血を残したいという思いもあったし、卵や雛を盗んでくる方法では品種改良(ブリーディング)ができないという問題もあった。

 しかし上述した厄介な性質によって、シャン人たちは愛鷲に子を残させたくとも残せない歯がゆい状態が有史以来ずっと続いていた。


 畏歴1920年ごろ、採卵業者のアイデアマンがその状況を打開するきっかけを作った。

 それまでの採卵業者は一週間以上かけて岩山に踏み込み、血眼になって王鷲の巣を探し、大抵が鉱山の岩肌に営巣されている王鷲の巣から卵や雛を盗んでいた。

(王鷲の産卵数については、飼育下では6個という記録があるものの、野生下では3~4個であることが普通である。採卵業者の中には、卵が1個であった場合は手を付けず、2~3個であった場合は1個のみ残し、4個以上の場合は2個を残すという厳格な掟があった)

 王鷲という鳥類は、営巣に関しては面倒くさがりなところがあり、他の鷲が作った状態のいい古巣を再利用することがある。それは当時の採卵業者にとっては常識であり、彼らは新しい巣から採卵をすると必ず地図上に印をつけ、新しいカップルが利用するのを待った。採卵業者が卵や雛を盗んだ巣は、必然的に巣を汚す雛の数が少なくなる。なので再利用される率も高かったからだ。

 そこで、とある採卵業者が「人間の手で新品の巣をこしらえて岩場に置いてやれば、王鷲は未使用の巣に心惹かれ、任意の場所で営巣させられるのではないか?」という、後に王鷲業界に革命を起こすアイデアを考えついた。

 この考えは大当たりで、たった数年で山奥に採卵にいく業者は絶滅し、採卵は人里近くで安定的に行われるようになった。

 この方法は現在でも行われており、王鷲の生産数の15%を占めている。


 王鷲の人工繁殖はその方法を発展させたもので、まず任意の岩場にトリカゴを作り、王鷲が二本の鉤爪と嘴で作るものと比べれば、格段に綺麗な人工の巣を入れる。

 そこに”交際期間”のカップルを一週間ほど入れておくと、雌は巣を気に入り、内心で営巣場所をそこに決めてしまうのである。

 そうすると、雌は“結婚式”が終わったあとも自然とトリカゴに戻ってくるという手法である。雌が戻ってくれば子育てに協力する雄も戻ってくるので、この方法なら二羽とも安定して帰還させることができる。

 当時の技術でも、雌が巣を気に入ったかどうか、カップルが本当に成立しているのかどうか、丁寧に観察をすれば未帰還の心配はほとんどなかったという。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この世界を好きなので、こういった作中現在において、前提となる過去を知ることができて嬉しいです。 [気になる点] そういえば、王鷲もそうですが、駆鳥もシャン人にしか運用できないそうですが、そ…
[気になる点] ⭐️を押したい [一言] 六星キラリと言うゲームの主題歌は ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 読み方不明でゲーム製作スタッフも知らないらしいです。
[良い点] 単独の読み物としても楽しめますが、世界観が充実していくと本編も更に魅力的になります。嬉しいことです。
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