後悔の組手
「どうした!一馬!そんなもんか⁉︎」
「くっ・・・」
太陽が降り注ぐ晴天の空で一馬と煌牙は激しくぶつかり合っていた。
これはあくまで組手なのだが客観視すれば明らかにケンカに見えてしまうぐらいの気魄で二人は攻防を続けている。
「吹っ飛べー!!!!」
煌牙は腰を捻り遠心力を使い思いっきり右拳を振りかざし一馬は左腕を顔の横に持ってき顔をしかめる。
ぶつけられた拳の衝撃で斜め下に一直線に落下していく。
その中でクルッと後ろに回転し体勢を立て直してスタッと膝を曲げ着地する。そのまま着地した体勢から地面を蹴り上空にいる煌牙に反撃する。
煌牙は空中で空気を蹴り二人は一直線に接近する。
「いたたたっ」
「もうちょっと手加減しろよな」
一馬と煌牙は肩を組み合いながら宿に向かう。
「煌牙と毎日やってたら身を滅ぼすぞ」
「そりゃこっちのセリフだ」
結局最後は相打ちで終わり両者共々気絶していた。夕暮れに照らされた背中は少し暖かくなり少し高くなっている丘の上に村を構えるルーロスが夕陽で赤く染まる。
一馬はボロボロになった衣服を見ながら地面に顔を落とし言う。
「見ろ煌牙、服がボロボロじゃないか」
「それは俺も一緒だ」
「はぁ、どうすっかな・・・」
「そういえば妖精のじっちゃんに貰った金があるよな」
「あっ、確かに」
「とりあえず今日は宿に帰ったらそのまま寝る。明日買いにいこうぜ」
「俺ももう歩くのも辛い」
フラフラの状態でやっとこさ龍人の村ルーロスに辿り着いた二人は宿屋直行で薄れいく意識の中で最後の踏ん張りをみせる。それを見ていた龍人達は悪魔達が来たのか!と一瞬だけざわついたが一馬と煌牙の様子を見て頑張りすぎたんだなと直ぐに分かった。ちなみに既にルーロスでは人間の一馬と煌牙が種族総合闘技大会に出場することを知っておりそのこともあり誰も二人には話掛けなかった。
宿屋につき入り口をトントンと軽く一馬が叩き中から宿主だろう人当たりのいい女性龍人が扉を開けてくれた。その龍人は驚いた顔で二人に聞く。
「あんたらどうしたんだい!」
煌牙は薄目でボソッと呟いた。
「ちょ、ちょっと組手を・・・」
と言いかけた所で二人を気を失い宿屋の入り口で倒れてしまった。
そこにたまたま通りかかったアッシュが二人が倒れる瞬間を見てつい笑ってしまった。
宿主の龍人はたまたま通りかかったアッシュにちょっと手を貸してくれと手招きでお願いする。
「ははっ、むちゃしたな」
「アッシュこの子達を二階まで運んでくれないか?」
「ええ構いませんよ、女将」
「だから毎回言ってんだろ!女将って呼ぶな!」
「でも女将仕方ないでしょ?」
「もういい!早く連れていきな!」
「そんな短気になさらないでくださいよ」
「短気になっとおらんわ!」
アッシュは宿主の龍人とコントのような会話をしながら意識を失っている一馬と煌牙を背負い、二階に二人を運びベッドに優しく寝かした。
そのままアッシュは微笑みながら部屋を後にする。
・・・二人が目覚めたのはまだ聞きなれないカンカンと甲高い音を出す調理器具の音で重たい瞼を開ける。
今日はボロボロになった衣服を新調する予定の二人は到底目覚ましとは言えない音で起き上がろうとするが衣服同様ボロボロになった身体が指示どおり動かず激しい痛みが身体中を巡る。
「いってぇ〜」
「おい大丈夫か一馬?」
「全然大丈夫じゃねーよ」
顔は動かすのに支障はないが身体を動かそうとすると雷が走ったような痛みで今日はずっとこのままかと二人は悟った。
「さぁてどうすっかなぁ」
「寝るしかない」
「とか言いながら煌牙はじっとできる性分じゃないだろ」
「いや、俺には分かる動こうにも動かないこの身体では歩くことすら無理だ!」
と力んだ拍子にまた身体に雷が走り煌牙は悶絶した。それを見ていた一馬はププッと吹き笑いしフーと息を吐く。
暫く無言で時が流れ、静かだった村もすっかりざわついていて群衆による喋り声や自然の声で賑わっていた。もちろん身動きがとれない二人はただその音だけしか情報として得られない。
そろそろフラストレーションが溜まってきた二人は無理やり上体を起こそうとするが断裂した筋肉やヒビの入った骨で動くことが許されない。二人は深く後悔しもう二度と互いに組手などしないと強く思った。
もうそれからは寝返りをするたびに激痛と奮闘し今日だけで通算で三回も寝ている。
一馬と煌牙はギガバイトのことを懐かしみながら思い出で話で会話が弾んだり妖精の魔法を使えたらどんなことをするかとか特に意味のない話で時間を潰し身体が治ることを祈るばかりだった。
時刻はギガバイトなら午後七時頃でありそろそろ空腹でお腹が鳴る時間だ。
通称女将さんは非常に優しくまだこの世界に来てから間もない人間の一馬と煌牙を温かく迎えて、動けない二人のためわざわざ二階まで朝昼とご飯を届けていた。当然夜ご飯も女将さんは二階に持ってきてくれ万能薬と謳う飲み薬もオマケでついきた。
「あちちっ!」
身体の至るところの節々が悲鳴をまだあげておりスープを飲むためスプーンで掬い口に近づけるが身体が思ったように動かず口の上に熱々のスープが当たり顔をしかめる。
ようやく食べ終えた二人はそのままベッドに身を預ける。
「はぁ〜いつになったら治るんだよ」
一馬は呆れ顔で天井を見上げながら呟いた。
「まぁ大会までに治ったらそれでいいわ」
「てか治ってもらわないと困るだろ」
「さぁ治るか?」
「わかんねぇな」
「治すには寝ろってばあちゃんがいってたな、ここはばあちゃんの戒めを習い寝るか」
「賢明だな」
「人間が再び現れたと聞いたぞ?」
「ええ、そのようですね」
「私は人間が嫌いです。野蛮で賢いなんて許せないです。」
「いや、そんなこと言ったってどうしようもないだろう」
「フハハハハ!人間か!さっそくあいさつでもいくか!」
「そうヤル気になるなゾリダス」
丸く白く硬い机を囲み会議なのか見た目だけで神々しい鎧を身につけている六柱の神々が人間の一馬と煌牙の出現について話していた。
「皆よ、人間が現れたということは私達を抹殺するはずだ。準備しておくように」
「ホーネル、貴方が出る幕もなく終わらせておきますよ」
「人間はそう簡単にはやれんぞカッシム」
「貴方はバカですから口を挟まないでください」
「また言うかカッシム!」
ゾリダスは頭に血が上り机をドンッと叩く。それを見たカッシムは鼻で笑いながらゾリダスの非を突く。
「ほら、ゾリダスはすぐそうやって力でねじ伏せようとする。そうゆうのがバカって言うんですよ」
「貴様ぁ・・・」
「こらこら二人共、今は話し合いの時間だよ」
ゾリダスとカッシムの痴話喧嘩を制止させたのは知恵の神サプノートの一言だった。
「お前らはいつも会うたびに喧嘩ばかりしてるな」
ため息混じりにそう言ったのは地の神モウクサだ。
「神とあろう物が見苦しいぞ」
ゾリダスとカッシムを睨みつけながら言うのは神々の頂点にて最高神のホーネルだ。
「ところでホーネル、この間妖精族の村にヤボラが現れました」
落ち着いた雰囲気の中で発言したのは生命の神アマネルのものだった。
「それは聞いている。妖精を大量虐殺したと聞いているが奴を止めたのは人間らしいな?」
「はいそうです。さらに分かったのが人間族の神道寺と天道と名乗っているらしいのですがまさかあの者たちの子孫という可能性は?」
「なに?それは誠か?」
「はい。確かな情報です」
「そうか、あの子孫となるとますます厳しい状況になったな」
ホーネルの言う《あの者》とは一体どのような存在だったのか・・・
まさしく神のみぞ知るところである