06
「母の言葉とは?」
カリノメが険しい表情のまま僕に尋ねる。僕は母の死ぬ間際を思い出しながら言った。
「神の住む塔、ロノウェから遠く、けれど繋がる絶望の里に救いはある・・・母はそう僕に言いました。カリノメさん、この言葉の意味が貴方は分かりますか?」
今度は僕が尋ねた。
狼に襲われ、この国に辿り着き、亡命したのであろう女王ヴァルナが居た。
こんなに不思議な出逢いは運命に違いない。直感的にそう思ったのだ。だから聞かざるを得なかった。
此が運命ならば、国を救うことが僕の運命ならば今聞かねばならないだろう。
しかし、カリノメに尋ねた質問に答えたのはヴァルナだった。
「絶望の里・・・知っているわ。」
「えっ?」
先程とは違う慈悲の籠った声でなく、沈むような声。ヴァルナに目を向けると彼女はカリノメと同じく険しい顔をして俯いていた。その反応からして、まぁヴァルナ自身が言っていたが、何かを知っていると分かった僕は声を大きくして問い質す、
「な・・・何を、絶望の里の何を知っているんだ!?何でも良いから教え―――」
「そんな容易く教えると思うか?」
が。ヴァルナは解答を拒否し、続けた。
「いや、教えても良いの、けれど未だ駄目だ。お前に確かめねばならない。」
「確かめる?何を?」
焦って僕は聞き返す。
「ヒドラ。お前は先刻言ったわね、ロノウェを救いたいと。」
俯いていた顔を上げると、鋭い視線に見つめられた。だが僕の決意が改めて固められ、その問いに力強く頷く。
「ああ。僕はロノウェを救いたい、本当だ。」
そうすればヴァルナは一瞬だけチラリとカリノメとアマルテアを見て何やら暗黙の了解というか、無言で意思を伝え合い、再び僕の方を向いて言う。
「命をとして戦えるか?」
「僕は国の為に戦い、死ぬ。残された僕のすることは今のところ、それだけだよ。」
「私は王である父を失った、ロノウェを取り戻したいという願いは同じ・・・お前は家族を亡くした、のでしょう。」
「そうだ。」
「絶望の里が如何なるものでも戦う覚悟はありますね?」
如何なるものであろうと、未知だからよく分からないが僕らにはもうこれしかない。
「ある。覚悟はとうに出来ている。」
そう答えるとヴァルナは目を伏せ、再度開いてから告げた。
「知っている限りのことを話しましょう。ヒドラ、お前が、私もだけれど・・・これから向かう里は名前の如く絶望に包まれ、我々人間の歪みで創造された反対の世界よ。」