05
砂漠を越えた先、乾いた大地と荒々しい岩肌が露出する山が連なる所に集落がある。未開拓の地で未だナベリウスの手が及んでいない大陸では数少ない国、ムルジム。
僕は其処で目を覚ました。
柔らかい布団に沈めていた身体をゆっくり起こそうとすると頭や腹の痛みが甦ってきた。
「ぐ、ぅっぐ・・・」
一体何日寝ていたのかは知らないが随分自分は心地よく眠りについていたようだ。そのせいでよく分からないが確か僕は腹や頬を殴られたり狼に遭遇して―――?
「目が覚めたわね、久し振りでしょう、布団で朝を迎えるのは」
途中で途絶えた記憶について瞑想していると背後から眩しい光と共に女の声がした。
断片的にだが残っている。僕はこの声を聞いた、慈悲深き、声。
首を捻らせて目を細めて背後に立つ者の姿を見る。其処に立っていたのは僕らロノウェの民の証である緑の髪を持った女。僕よりも遥かにその色は美しく鮮やかだ。色は白く、口許には安らかな笑みを浮かべている。
浮世離れした麗しさに僕は一瞬声を無くし、茫然自失としてしまった。
「お前は余程疲れていたのでしょう、2日もずっと、寝て居たわ。」
「・・・2日も」
漸く言葉を発した僕は我を取り戻し女を睨んだ。髪を染めているだけかもしれない。追っ手かもしれない。
布団から起き上がり、敷かれたカーペットに脚を着く。
「我はロノウェの民ヒドラ・アルファルドだ。貴様の名をなんと言う。」
一騎討ちで戦うロノウェの民として僕は堂々と胸をはり名前を名乗った。幼い時から母に言われた。胸をはれ、堂々としろ、弱気になるな、国の為に戦え――と。
すると女は身に纏った服を正し顔から表情をサッと消した。
「私の名はヴァルナ・ラオメデイア。亡きロノウェの王女である。」
女――亡国の女王ヴァルナは僕に言った。
「ずっとこの時を待っていた、ロノウェの民よ。ヒドラ、お前には説明せねばならないわ。共に来てくれるか?」
大地を木の柵で囲った集落にポツポツとあるゲル。
皆民族的な衣装を着ていて、ヴァルナと歩く緑の髪の僕を立ち止まって凝視していた。
未だ驚きで、混乱している僕が連れてこられたのはムルジムでも一番大きなゲルの中だった。入り口の前には長い槍を持った屈強な戦士が立っていた。
ゲルの中に入ると其処には外に居た人々と同じ黒い髪をしたこの国の王らしき人物が椅子に腰をかけていて隣には后と思われる女性が立っていた。どちらも不安そうな、険しい顔をしていて僕らを見ている。
「隣の者がヒドラ・アルファルドに御座います。ヒドラ、此方はムルジムの長であるカリノメ様、彼方はアマルテア様よ。」
「ヒドラです。」
よく分からないが取り敢えず頭を下げ、再び上げると長カリノメが重く溜め息を吐いた。それが凄く長かったので、つい僕も不安になる。何か気に障ることでもしただろうか?
誰も喋らないので一人狼狽えていると、暫くして沈黙を破ったのはカリノメだった。
「此処はナベリウスの侵略を免れた希少の国・・・ヒドラと言ったな。お前はロノウェの民だがヴァルナによれば砂漠で見つかったそうだが、何をしようと来た?」
「・・・僕は死んだ母の言葉を元に旅に出ました。ロノウェを救いたいと思ったんだ、そしたら途中で狼にあってそれで王女に助けられた。」
「そうか・・・。」
腕を組み、難しそうに顔をしかめたカリノメは唸った。