03
僕の名前はヒドラ・アルファルド。
年齢は16歳で特徴と言えばロノウェ国民特有の緑の髪だ。水色にも近い緑の髪。
そんな僕は夜の砂漠を歩いている。とても寒いので布を何重にも纏って、しかし脚は履くものがないので裸足で歩き続けていた。
武器など何も無い。持っていくものも何も無い。
小さくなった街に高く高く揺れる敵国の国旗を落とす為に僕は母の言葉を信じて『絶望の里』を探すだけだ。だから僕は故郷から離れる、また戻って来れることを願って。税を徴収する男の手から逃れ、見つかる前にナベリウスから出ていかなければ。
月明かりだけを頼りに僕は砂を踏んで歩く。
「馬くらい欲しいなぁ。」
つい本音が漏れるが馬を買えるだけの金など無いし、まず僕には行く所の目標はあっても宛はない。『絶望の里』が何処にあるのかは勿論分からない上に、逃亡先の国もない。伝承を知っていそうな人も居ないし、お先真っ暗だ。
けれど『絶望の里』はその暗闇の果てにあるのだろう。
今は耐えて歩かねば。取り敢えず、足が動かなくなるまで無茶苦茶にでも身体を動かす。それしかない。
「つっても既に死にそうだ。」
ロクにご飯を食べてない痩せ細ったこの身体では1日歩き続けるなど到底無理だ。
僕は何か食べる物はないかと辺り、砂漠を見渡す。
―――当たり前ながら何もない。前には永遠と黄土色の砂漠だけが広がり、後ろを見れば小さくなったナベリウスの灯りがポツポツと見える(但しロノウェには灯りが無いので都会の方)。うーん。戻りたいような、戻りたくないような。でも向こうには食料だけは何とか在るんだよな。迷うところだぜ。
つい立ち止まって考える。決心したは良いが、やはり計画性が無かった。
目を閉じて僕は思考回路を働かせた。どうにか出来ないものだろうか。どうにか――食料を調達せねば――。
「ガルルルル」
「ん?」
突如聞こえた不気味な呻き声に閉じていた目を開ける。開眼。
―――そして転瞬。
僕は今朝と同じく地面に頭を打ち付けて、視界は黒く閉じられた。
だが、砂がクッションになっていたお陰で未だ其処まで頭が痛くなることはなかったので意識のあった僕は再び眼前を見た。何が起きたのだと、見る為に。
「っ!?・・・は、うぁ・・・。」
眼前いっぱいを埋め尽くす漆黒。美しいと言うよりは邪悪な黒さ、いや、存在が邪悪だから邪悪な黒に、映える白は鋭く、冷酷な牙。引き裂く白。それらを持ち合わせる、正体が僕の頬に不快で堪らない涎を垂らした。
狼だ。僕の身体を押さえつけ、今にでも襲いかかってこようとしているその正体は狼だった。とてもとても大きな、狼。
どうやら食料は僕のようだ。