01
フォルネウス大陸の中心である都市国家、ナベリウスの小さな村ロノウェ。
嘗てナベリウスが侵略してきた時に破れた今では亡国の成れの果て。
勝てる筈が無かった。勝てる訳が無かった。
相手は近代的な武器を手にして、只の殺戮兵器を向けてきたのだから。
今でも、よく、脳裏に過る。二人を同時に貫いた銃弾。上空で煌めいた空襲。耳をつんざく様な悲鳴が谺して、血の大河はドロドロと清らかな国を飲み込んでいった。
結局相手は領土を広げたかっただけで、反抗する人達を殺しただけだったのだけれど、そのせいで今もノロウェは寂れている。荒れ地だ。壊れた家も、血の痕もそのまま残っていて酷いことに骨だって埋葬されずにほったらかし状態だ。
無法地帯にして戦争の遺産。
僕はそんな所で生きているのだが、以上回想。
村にある小さなパブというか酒場でビールをやけ酒みたいに飲みまくる荒くれもの共。無理矢理、木材の板を繋ぎあわせて建て直した小屋では日々、疲労を癒す為に人間が集まる。
人間とも扱われない人間が。
戦争に負けてからというもの僕らの生活は一辺した。石灰で造られた白い家や緑に囲まれた景色は失われ、貴族が使っていた箪笥などの破片をあちこちから集めて暮らしている。質素どころじゃない。底辺だ。更には奴隷として都市に連れていかれる者まで居て、飢餓で死ぬ人まで出てくる。だから村には子供が少ない。
子供は生まれて間も無く死ぬのが、此処での定め。
生まれても、物理的にも汚れている場所では直ぐに病にかかって死んでしまう。
僕も見た。死体など其処らに転がっているものだから、憐れで仕方ない。
こんな場所に生まれて仕舞った事が憐れで、哀れで、けれどどうしようもないので、見ないふりをしているうちに慣れた。僕は僕の生活で精一杯だ。たかが子供一人死んだ所で構ってなどいられない。泣き喚いていようと、助けをすがってこようと冷酷に見棄てるしかないのだ。僕に助けを求めたことが、間違いだった。
・・・・・・。
『人間とも扱われない人間』ではないか。
戦争は、生活を奪って人間を人間でなくしたのか。
じゃあ僕らは―――
「おい。税を早く寄越せ。」
鈍器で殴られた様な感覚が脳で感知出来たのはもっと後だった。
先ずは目の前が真っ白になって次に意識が飛ぶ。直後、やっと痛みが襲ってきた。頬と体半分に重い痛みが襲う。
「うっ、ぐ・・・いってぇな。」
僕は乱暴にも椅子から、顔面を殴られてそのまま吹っ飛んだ挙げ句に地面を転がっていったのだ。
あまりにも唐突だった。
地面に手をついて起き上がろうとしたら今度は頭を踏まれて地面にめり込む。
土が口の中に入って気持ち悪い。
「下民の癖に税を滞納していいと思ってんのか?あ?・・・お前たち。」
辛うじて方目で自分の頭を踏みつける奴の顔を見ると、男は首をクイッとやって後ろにいた仲間に合図を送る。
すると僕の身体が持ち上げられた。
ふわりと浮いたが、自ら立ち上がったのではない。
左右の腕を捕まれて起こされたのだ。
口の端が切れて、流れ出た血が滴り地面に染み込む。
「ナメてんじゃねぇ、ぞっ!!」
男の強い拳が僕の腹にめり込む。痛い、痛すぎる。
ロクに飯も食っていない、薄い腹くらった打撃はまるで直接骨に打撃をくらうようで、痛みも遥かに強く感じられた。
更にそんなことを思っている間にも男の拳が連続して腹に打たれる。
口から吐血した。
「うぇっ、かはっ」
足に力が入らなくなり、同時に掴まれていた腕が離され、僕の身体は地面に落ちた。
「来週まで待ってやる。それでも渡さねぇっつーんならテメェは鰐淵の餌だ。いいな?」
男が宣言する声が小さく遠く聞こえる。
僕は地面に倒れたまま、僅かに頷いた。
そうすると男たちは踵を返し、パブのドアを荒々しく蹴って出ていった。